09-B

囲んだはいいもののしかし、ふうりんは攻撃に踏み切ることに懸念を抱いていました。
囲めたならば、捕まえるか何かして、話を聞いた方がいいに決まっています。
ダイクストラ、レビンを見ると、彼らは互いに目配せし、ふうりんにうなずきました。

ふうりんが、エルファに問いかけます。
「目的は何?」

不意に、そのときまた右手から、ケーブルが彼らに襲いかかってきました。
ふうりんたちは揃ってそれらを、くぐるように移動します。
一方で、デバイスを構えるエルファ。
「Sword form.」
巨大な剣と化したデバイスが、ケーブルをざっくりと切り裂きました。
海中に没するケーブル。

剣を握ったまま、エルファの目がふうりん達の方を向き直ります。
もしや、まだ戦う気なのでしょうか。
ふうりん達もおのおのデバイスを構えようとした、そのときでした。


「What are YOU doing?」

エルファとふうりんの間に、突然見慣れた赤い石ころがふらふらと割り込んできました。
「・・・もしかして、ゴキ吉?」
そこにまた、迫ってきたケーブルに対して、ゴキ吉が一言。
「Explosion.」
主塔の根本で派手な爆発が起こました。
ケーブルと主塔が一斉に海へと崩れ落ちていきます。内に潜めた、デバイスと共に。

「Stop fighting.」
ゴキ吉が静かに言い放ちました。
「The device is now unavailable. There's no reason for fighting.」

ショックを受けるふうりんに対し、エルファはデバイスを、疲れたように構えるのをやめます。
ダイクストラとレビンも、構えたデバイスを下げました。

まるで時が止まったかのようでした。
いや、ふうりんの思考も、一字麻痺していたと言えるかもしれません。
ふうりんの頭の中には、たくさんの疑問が渦巻いて、溢れ出しそうです。


しかし不意に、その静寂は破られました。

「Thunderbolt.」
すさまじい雷土が、海のその、主塔の崩れ落ちた一帯に落ちたのです。
エルファが目を丸くします。ダイクストラは、歯を食いしばります。
全員の遥か上方、ヒーローノーマルのチャオ、ウークが、その姿を現していました。

「Attracting.」
ウークの静かな言葉と共に、エルファの体に、突然加速度が加わります。
「あっ」
半ば強引に、エルファの体は、ウークの元へと引き寄せられていきます。

それと同時に、海中からひとつ、浮かび上がる物がありました。
それは落雷を受け、不安定になった不良デバイス。
それもまた、ウークの手中にしっかりと収まります。

「Shooting.」
ダイクストラが、なけなしの一発を放ちました。
が、ウークの前に、それはあっけなく防がれてしまいます。
ウークは空中に穴を開けると、エルファと不良デバイスを掴み、引きずり込むように、消えてしまいました。
管理局側の、完全な敗北でした。

「Calling. 今の時空間移動の行き先、特定できますか?」
レビンだけが冷静に、ウークの行き先を追おうとしています。
「Elpha...」

空をうごめく黒い雲から、しとしとと雨が降り始めました。




穴をくぐり抜けた次の瞬間、エルファは床に投げ出されました。
突然重力の方向が変わるのには、ある程度慣れないとつらいものがあります。
ましてや、この困憊した状況では。

「まずい。まずい。このままじゃオレたちの居場所がばれるのも時間の問題だ。
 隠密に行動するように言われているのに、どうしよう・・・」
ウークは焦った様子で、そんなエルファが体を起こすのを、うろうろしながら待っていました。
エルファが起き上がると、すぐにデバイスを出すことを要求します。

エルファは言われるがままに、デバイスを1つ出しました。
それは昨日の日中に回収しておいた物でした。
「よし、これで全部だな・・・」
ウークは自らの腕の中に、今日手に入れることのできたデバイス3つを陳列して、にやりとした笑みを浮かべます。
そして一人で大仕事を成し遂げたかのように、盛大に伸びをします。

「よーし、エルファ。もうこれで君の仕事は全て終わった!」
そう言うウークの表情は、本当に嬉しそうです。
「とりあえずここで休んでもらっても、向こうの滞在先へ戻ってもらっても構わない。
 いや、しかし管理局にみつかってしまうとは、しくじったな。あれじゃこの場所が分かってしまうのも時間の問題だ。
 早いこと片付けちまわないと・・・で、どうするんだい?」
「・・・ここで、休みます。」
「そうか、じゃあ、そういうことで。」
それだけ言い残すと、ウークはスキップ混じりに部屋の奥へと去っていきました。

一人残されたエルファの元に、どこからともなく、フェレットのような生き物・・・グレアムが現れます。
疲れの見えるエルファを、グレアムが心配して聞きます。
「大丈夫ですか?」
「いえ。」
首を横に振りつつ、立ち上がるエルファ。
「それより例のお願いなんですが・・・」



ウークはデバイスを手元にそろえた時、少し、少しだけ悩みました。
このことをミュラーさんに、報告すべきだろうか・・・
答えは案外簡単に出ました。
ウークは結局、何も告げず、一人で事を成し遂げることを決意したのです。
そう、あの老人の言ったように・・・

このページについて
掲載号
週刊チャオ第315号
ページ番号
26 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日