08-B
「レビンって、ここ、他にもチャオがいたんですか?」
ふうりんの質問に、答えるのはクヌース。
「ええ、チャオだけで20名。」
「チャオだけ?」
「ええ、それはもちろん、魔法が使えなかったら、いても仕方が無いじゃないですか。
世界と世界を移動するのに、魔法は必要ですからね。」
ふうりんはデバイス倉庫までの廊下で見た、いくつもの通路を思い出していました。
20人ぐらいいても、不思議ではない広さではあります。
「もっとも、時空管理局の本部には、人間の方も少なくないですよ。
やっぱり研究気質の方が多いというか、そうなるともう、チャオも人間も関係ありませんからね。」
「なるほど。」
納得した様子のふうりんに、誘いをかけるクヌース。
「ふうりんさんも、不良デバイスを回収しにいってみますか?
新しいデバイスの練習にも、丁度いいかもしれません。」
「えっ、でも、足手まといになりませんか?」
「心配ないですよ。ダイクストラもレビンも、ああ見えて優秀ですから。」
ふうりんは、無意識的にうなずいていました。
グレアムを失ってから、既に3日近く経とうとしています。
そろそろ、現状のまま止まっていては、まずいかもしれません。
それにゴキ吉も言っていました。Do your bestと。
「ではでは、いってらっしゃい。」
不良デバイスの居所は、ステーションスクエアに面する海の中。
ステーションスクエアの北東部からは、海をまたいで一本の橋が架かっています。
この橋の両側、北西側と南東側に、それらのデバイスはありました。
ふうりんはクヌースに言われたとおりに通路を進み、ダイクストラとレビンに合流します。
レビンは黒い体を持つ、ニュートラルハシリのチャオでした。
その目から親しみやすそうな印象をふうりんは受けました。
事情を伝えると、2人共に納得してもらえました。
レビンがダイクストラとふうりんに、今回の回収の手順を伝えます。
「海中のデバイスを直接回収するのは難しいだろうから、一度それらに攻撃を加えて、
姿を現せさせたいんだけど、2人のうちどっちか、これ、やりたくない?」
曖昧な表情をもってして、答えるふうりん。
「どうしてそうなる。」
はっきり断るダイクストラ。
「ああ、じゃあオレがやる。」
あっさり決めるレビン。
「どうせ2つのデバイスがあるんだから、二手に別れよう。
ふうりんさんは、まだデバイスに不慣れなんだよな。
じゃあベッキーが北の方に、オレが東の方に行くから、ふうりんさんは好きな方を取るといい。」
「ベッキー?」
頭上に疑問符のふうりんに、ダイクストラが説明します。
「口の形が冪乗の記号に似ているから、ベッキーというあだ名を付けられている。」
「いやだってダイクストラって長いじゃん!」
「女性名ですか・・・」
「もうね、チャオだからね、そんなこと気にしないの。」
アースラの準備が整ったとの知らせを聞いて、3人は動き始めました。
「はああっ!」
レビンが海面に向けて杖を叩き下ろした次の瞬間、
辺りに衝撃波が走ると、橋を挟んで2箇所に、高く水柱が立ち上ります。
強いエネルギーを受けたデバイスは非常に不安定な状態になり、なにかそのエネルギーをゆだねられる物がないかと、宙へ浮いてさまよい始めるのです。
地面に埋まっていたデバイスが、地表を破って出てきたそのとき、はるか遠方から一本の矢が、1つの不良デバイスをまっすぐに貫いていきました。
矢の飛んできた方向に、目を走らせるレビン。
弓へと変形したその杖を構え、黒衣に身を包んだヒーローチャオの背後には、立派な羽がなびいています。
思わず目を奪われるふうりん。
「あのヒーローチャオ・・・」
「いくぞ。」
ダイクストラの呼びかけで、ふうりんは我に返りました。
2人はアースラの降下口から、地上へと向かって飛び降りていきました。
「ゴキ吉やグレアムは?」
「いや、確認できない。それよりもデバイスの回収が先だ。」
ダイクストラが言う前に、敵は不良デバイスを求めて動き始めていました。
それに合わせて、あわててレビンもその姿を追い始めます。
「ルルカル☆マジカル」
ふうりんが呪文を唱えると、ふうりんの石ころのようなデバイスが、杖への変形を開始します。
それと同時にふうりんの体を覆うジャケットが形成されます。
同じ白を基調としていても、ゴキ吉とは違う、シンプルな形に。
「Growing Wings.」
ふうりんは覚えたばかりの呪文を口にしました。
ふうりんの背中に羽のパーツが付けられ、そのまま滑空を開始します。
「言い忘れていたが、そのデバイスにCallingと伝えると、いつでもアースラに連絡が取れるようになっている。
困った時は、使ってみて欲しい。」
「分かりました。」
そう答えるふうりんの目に映るのは、ヒーローヒコウチャオです。
「私は・・・レビンの方に向かってみる。」
言葉通り、ふうりんとダイクストラは空中で別れました。
思いの外苦戦を強いられている様子のレビン。ふうりんは援護射撃のつもりで、杖を構えます。
「Shooting!」
「Protection.」
敵の動きは素早く、ふうりんの攻撃はあっけなく弾かれてしまいました。