08-A

石畳の床の所々から草木が顔を出し、所々の植え込みから伸びた木は適当な高さに切りそろえられています。
天井に大きく切り取られた天窓から、明るい日光がさんさんと降り注ぎます。
そこはチャオガーデン。

その大きな天窓の下で、一人の老人が、ヒーローノーマルのチャオをなでていました。
老人の年齢はおおよそ60歳ぐらい。男性に見えます。
チャオの方は、パーツも何もつかない、すっきりとした体。
周りにはその2人の他に誰もいません。
なでられてうれしそうに体を揺するヒーローチャオに、老人の目元も、きゅっと細くなりました。

「ありがとう、ウークよ。」
老人は静かに、目の前のチャオに対して語りかけます。
「話を聞く限りでは、順調に進んでいるのだろうな。」
「うん。」
ウークと呼ばれたチャオは、にこにこしながら、その老人の顔を見上げました。

グレアムはチャオガーデンの扉の影から、そっと2人の様子を覗きました。
様子を見たグレアムは、2人の雰囲気を意外に感じます。
そのウークの様子は、グレアムが目にした、ゴキ吉を攻撃した時に物とは正反対です。
まるで別人であるかのよう、しかし、確かにグレアムはここまでの道中、ぴったりとウークについてきていたのです。

このチャオガーデンは、あまりにも整頓されているように見えます。
ウークとあの老人は、この整ったチャオガーデンを、2人きりでしか使っていないのでしょうか？

ウークは多少自慢げな調子で答えます。
「あと3つのデバイスを集め終われば、終わりさ。」
「そうか・・・ありがとうウーク。」

老人はウークの頭から手を放すと、ゆっくりと立ち上がりました。
きょとんとするウーク。
彼はウークに背を向けると、また言葉を続けます。
「いいか、ウーク。今まで私はお前に色々と、指示を出してきた。
　でもこれからは、お前一人で全てをやっていかなければならない。前々から言ってきたことだが・・・」
ウークの瞳に、戸惑いの色が浮かびました。

「おまえがデバイスを集め終わったら、私はこの世界から、一足先に出ていくよ。」
「で、でも・・・」
呼び止めようとするウークを、老人は制します。
「心配するな。私がいなくても、お前は全てをやり遂げられる。
　それに一人といっても、チャオの仲間がいるじゃないか。ほら、エルファといったか・・・」

ウークはうつむきます。表情は分かりません。
その老人はウークの方を振り向くと、溜息混じりに呟きます。
「最後まで、きれいにやり遂げるのだぞ。」
そして、もう何も言い残したことはないといった様子で、チャオガーデンの出口へと去っていきました。




デバイスがいくつも保管された倉庫の中から、ふうりんは適当な1つを手にしました。
菱形をした、紫色のデバイスです。
「ストレージデバイスを使ったことはあるか？」
ダイクストラが聞きます。

ストレージデバイスとは、もっともシンプルなデバイスの種類の1つでした。
ストレージデバイスは、決められた命令に決められた魔法を返すだけの道具です。
逆に言えば、命令さえすれば即座にその結果が反映されるので、分かりやすいとも言えます。
一方、インテリジェントデバイスとはゴキ吉のように、命令と結果の間にデバイスの知性という層が働く物になります。
速度では劣りますが、使い方によっては複雑な魔法を一命令でこなしたりすることができるのはこちらです。

「Protection.」
ふうりんが何気なく言ってみると、ふうりんの全身を覆うような、半透明のバリアが張られました。
「問題ないな。」
ダイクストラは、うなずきます。


ふうりん達が長い通路を経て、また和室に戻ってみると、今度は茶菓子がもなかからさくらもちに変わっていました。
ちなみに、道明寺さくらもちでした。
クヌースはその葉を取ろうとして、手をべとべとにしていました。
「・・・」
言葉のないダイクストラ。

ふうりんはそう言えば、と思い出したように、クヌースに申し出ました。
「知り合いに頼んで、不良デバイスの居所を2つ掴んでもらっていたんですが・・・」
そう言って、セティからもらったメモを示します。
「2つ見つかったようなんですよ。」
「どれどれ。」

ダイクストラが手が離せないクヌースに代わって、そのメモを受け取ります。
「ステーションスクエアの北と北東・・・って、2つとも結構近いじゃないか。
　2つ揃って回収に行ける距離だ。」
「そうですね。」
クヌースがうなずきます。

「デバイスが落ち着いているうちに、回収してしまった方がいいでしょう。善は急げです。
　ええと、今からレビンとダイクストラで、向かってもらえますか？」
「了解した。レビンにそう伝えてみる。」
ダイクストラはそう言うと、一度お辞儀をしてから、部屋の外へと歩き去っていきました。