07-C
「うーん、正直言うと、あのときはほとんど情報が無くて、分からなかったんです。
ここアースラの内部でも、海に落ちたんじゃないかとか、楽観視する声もありまして・・・。
ふうりんさん達の作った大きな次元震がなければ、危うく見落としていたところでした。感謝します。」
クヌースはそう言うと、ふうりんに頭を下げます。
それを聞いて驚くふうりん。
「えっ?次元震なんて、私には、作った覚えありませんよ・・・?」
「そんなはずはない。かなり大がかりなことをしているじゃないか。
そちらの時間で3月31日、午後5時過ぎのことだ。」
3月31日、といえば、エイプリルフールの前日・・・
言われて、ふうりんは思い出しました。
ステーションスクエアの真ん中で、木に寄生したデバイスと戦ったころのことです。
しかし、次元震を引き起こすような魔法を使ったことがあったでしょうか。
ふうりんはそのとき、Protectionぐらいしか使えていた気がしません。
「もしかして・・・結界の魔法の類も、次元震とやらの発生源になります?」
あのとき確かグレアムが奮発して立派な結界を張ったことを、ふうりんは記憶の底から引き出します。
「・・・その結界は、どんな物なんだ?」
「えーと、グレアム、って、そちらの世界から来たチャオの一人なんですけど、連れである彼が作った結界です。
周りの建物などに被害が及ばないように、結界内での行動は、無かったことにされるような結界でした。」
「なるほど。それだな。」
ダイクストラは、深くうなずきました。
「同じことをする魔導には、いくつか手法があるが、
彼が取ったのはおそらく、別の世界にその世界の一部のコピーを取る方法だ。
魔導師とデバイス、宿主だけをもう一方の世界に移動させ。建物などは複写。
戦闘が終わった後は、魔導師が元の世界に帰ることによって、まるで建物の損傷がなかったかのように見せかけられる。
これを広範囲に、抜け目なく行わないと成功しない、高度な魔導だ。
ひょっとしてそのグレアムというのは、熟練の魔導師なのか?」
そう聞かれても、ふうりんには判断しようがありません。
「うーん、グレアムは、あの手の魔法だけは得意だと言っていたような・・・」
「いや、管理局の本部に頼んで、異世界渡航者のリストを見せてもらえば、すぐに分かる話なのだが。」
ふうりん等の会話に、クヌースも割って入ります。
「そのチャオがふうりんさんと協力して、デバイスの回収に当たっていると言うことですね。
どうでしょう。もう少し詳しく、話していただけますか?」
そう言われて、ふうりんは、どうしたものかと首をかしげます。
「えーっと、すみません。私はあまり詳しく知らないんです。
グレアムかゴキ吉がいれば、いいんですけど・・・今はちょっと・・・」
「ああ、そんなチャオがいることを把握してなかったのは、ダイクストラのミスです!連れてこさせましょうか?」
「そういう意味ではなくて・・・」
現れたクヌースの疑問符に答える形で、ふうりんは説明を始めました。
ふうりんたちの前に、ヒーローチャオが現れたこと。
そのヒーローチャオを追って、グレアムがいなくなってしまったこと。
グレアムを探している最中に、ゴキ吉もいつの間にか、どこかに行ってしまったということ。
そこまで聞いて、クヌースは、うーんと顔をしかめました。
「ヒーローヒコウの渡航者なんて、いたかしら?
それにその話を聞いた限りでは、まるでヒーローチャオが原因で、お二方ともいなくなってしまったように私には聞こえますが・・・」
「そうでしょうか・・・」
ふうりんの脳裏には、ゴキ吉の家出というフレーズが浮かびました、が、うまく言葉にすることができません。
代わりに全く別のことが、口をついて出てきます。
「ヒーローチャオの正体はエルファ・クローディアではないかとか、私たちは考えているんですが。」
「エルファ・クローディア?だれなんだそれは?」
ダイクストラの言葉に、クヌースが口を覆います。
「まあ、ダイクストラって、エルファ嬢を知らないんですか?」
「か、艦長!?もしや、そんなに有名人なのか・・・」
クヌースの言い方に、慌てるダイクストラ。
ダイクストラは尋ねます。
「エルファ嬢について、もっと詳しい情報が分からないだろうか?」
「ああ、それならろっどさんの所へ行けば、資料がもらえると思いますよ。」
ふうりんは、帰り際にセティに言われたことを思い出しながら言いました。
「ろっどさん?」
「ああ、新入部員は知らないかもしれませんね。資料室に行けば、優等生顔が特徴的なのですぐ分かりますよ。
分からなかったら、DXさんに聞いてみて下さい。」
「・・・なるほど、了解した。」
ダイクストラは、複雑な表情で答えます。
それはまるで、あんなネコに聞いたところで何か分かるのだろうか、とでも言いたげな顔でした。
クヌースが口を開きます。
「ともかく、デバイスがない状況では不便でしょう。
ダイクストラはふうりんさんをデバイス倉庫へお連れしなさい。
ストレージデバイスの一つでも、預けておいて損はないでしょう。」
「ありがとうございます。」
お礼を言うふうりんの横で、立ち上がるダイクストラ。
「こっちだ。」