07-A
エルファはというと、ゴキ吉が去っていったのを確認すると、そっと、グレアムを脇に置きました。
そして何気なく、グレアムに話題を振ります。
「世界を繋ぐ穴が閉じる時に、さりげなく向こうの世界へ行って、調べてきて欲しいんですが。」
「な、何を?」
驚くグレアム。
「これからもう一度、ウークとの扉を開きます。
彼はその後、ある男と接触するはずです。その男が、ウークに何を言うのか。」
ゴキ吉を助けられた手前、グレアムはこの頼みに、うなずくしかありませんでした。
「ありがとうございます」
そう言ってゴキ吉の入った鳥かごの鍵を、カチャリと外すふうりん。
杖を手にとって、もう一度床にあの穴を開きました。
穴の向こう側に見えたのは、憮然とした様子のウーク。
「どうして止めたんだ。」
イライラした様子のウークに、エルファは落ち着いて話します。
「わざわざゴキ吉君を討たなくても、他のデバイスを回収すればいいと思うんですけど。
どうせ必要なデバイスは、あと何個かだけなんでしょ?」
「あと3つ。3つだからこそ、早く手に入れたいんじゃないか。ああ、もう、惜しいことをしたなあ!」
それを聞いて、エルファははあと溜息をつきます。
「他人のデバイスを奪ったら、報復に来られるかもしれませんよ。
既に危ない橋を渡っていますが、これ以上面倒なことになるのはご免です。」
「・・・ふむ。それもそうかもしれないな。」
エルファの言葉に簡単にうなずいてしまうウーク。
「現場にいないと、そう言うことを考える必要が無くて楽ですねー。」
エルファの皮肉に、ウークはむっとした調子で返します。
「こっちだって、色々と忙しいんだ。」
「準備は順調ですか。」
「おうよ。おかげさまで、もうほとんど完成さ。」
「それじゃ、いままでに回収したデバイスを、そちらへ。」
エルファは部屋の何処からか、デバイスを5つほど手に取ってきました。
ウークの穴の側まで寄ると、慎重に、穴の中へとぽとんと落とします。
ウークはそれを、しっかりと受け取ります。
「よし。それじゃ、あとの3つをよろしく。」
「はい、分かってます。」
この時、穴が閉じてしまうと感じたグレアムは、ウークに気付かれないように、そろりと穴の中へと落ちていきました。
重力が逆転する感覚。
直後、2つの世界を結ぶ穴は閉じられました。
エルファのところを離れたゴキ吉は、どうするべきか迷いました。
話をつけるといわれたものの、エルファとウークがどのような関係にあるのか分からない以上・・・
そんなことを考えると、ゴキ吉は気が気ではありません。
ウークは、エルファの行動に怒り、杖を手に取るとエルファに対して稲妻を放とうとします。
そこにすかさず現れるゴキ吉!
一撃必殺の魔法を与え、エルファをウークの魔の手から救出しました。
「ありがとう」
感謝するエルファに対し、ゴキ吉はクールに言い放ちます。
「You're welcome, my master.」
・・・Oh, I'm so cool.
ゴキ吉は自分に酔いしれました。
いっそこのまま、エルファ嬢に使える身になってもいいかもとさえ思いました。
ゴキ吉は知らず知らずのうちに、週刊チャオ編集部の方へと飛んできていました。
先程はあんなことを考えてしまいましたけど、ゴキ吉とて、ふうりんのことを忘れてしまったわけではありません。
むしろゴキ吉は悩んでいました。
なんだかうまく、本心を伝えられる気がしませんでした。
ゴキ吉の生成する服のデザインは、とあるPPと呼ばれる人によってデザインされた物です。
また、そのAIの性格付けなどに関しては、CPLという人が丹誠を込めてチューニングしたとのことです。
ゴキ吉はこの出生の経緯をとても気に入っていますし、そのために好んであのデザインを用いてきました。
・・・さすがにグレアムには、あの服装は似合わなかったそうですが。
ふうりんがあの服装を気に入っていなかったということに、ゴキ吉は愕然としました。
もちろん、それまで何の文句も言わずに着てくれていた以上、それが真実だと思っていたのも、ショックが大きかった一因かもしれません。
ビルの中からは、セティとふうりんの会話が聞こえてきます。
「それはやっぱり、あの晩のことなんじゃないの?」
「あの晩、というのは?」
「ほら、例のヒーローチャオにあなたたちが襲撃された晩のことよ。
あのとき確か、二人で変な服だとかなんだとか、話したような気がするわ」
ふうりんはうーんと考え込んで、また顔を上げました。
「でも、ただそれだけで、そこまで怒るものでしょうか?
それにあの晩は一昨日のことですよ」
頭上に疑問符のふうりんに、セティはゆっくり話します。
「分からないけど、ゴキ吉は想像以上に、いろいろ考えているんじゃないかしら。
表情も何もないので、何を考えているのかわかりにくいところではあるけど・・・」
「確かに」
ゴキ吉は失望しました。
まさかとは思っていましたがふうりんは、ゴキ吉がどれほどあの服装にこだわっているのか知る由もないのです。
それに、表情も身振り手振りもないのは、ゴキ吉が一番気にしているところでもありました。
それはすなわち、映像映えしないと言うことです。
・・・I'll NOT be back!
ゴキ吉は心の中で、拳を握りしめました。