06-B

午前中のふうりんは、今ひとつ仕事にも身が入りませんでした。
それはもちろん、ゴキ吉のことが気にかかっているに違いありません。
このままでは、いけない。
そう思ったふうりんは、昼休みに、セティの元を尋ねました。
魔法関係について相談できるのは、グレアムとゴキ吉を除けば、彼女ぐらいしかいませんでした。

「どうしたの?」
「実は・・・」
セティに対し、ふうりんは今朝の出来事を伝えます。
それを聞いたセティはうーんと首をひねって、ふうりんに言いました。

「それはやっぱり、あの晩のことなんじゃないの?」
「あの晩、というのは?」
「ほら、例のヒーローチャオにあなたたちが襲撃された晩のことよ。
 あのとき確か、二人で変な服だとかなんだとか、話したような気がするわ」

ふうりんは思い出します。
確かにあの晩、あの魔法を使う時のユニフォームのような格好を、変だ妙だといっていました。

「でも、ただそれだけで、そこまで怒るものでしょうか?
 それにあの晩は一昨日のことですよ」
頭上に疑問符のふうりんに、セティはゆっくり話します。
「分からないけど、ゴキ吉は想像以上に、いろいろ考えているんじゃないかしら。
 表情も何もないので、何を考えているのかわかりにくいところではあるけど・・・」

「確かに」
深くうなずくふうりん。

「とりあえず謝った方がいいわね。ゴキ吉はまだ帰ってきてないの?」
「もうそろそろ、帰ってきてもいい頃だとは思うんですが・・・」
そう言ってふうりんは、窓の外に目をちらりと向けます。
「うーん、それは不安ね。とりあえず、また何かあったら教えてくれる?」
「はい、とりあえず」


ふうりんが自分の席へと戻ろうとすると、例の新人、ダイクストラが話しかけてきました。
「ふうりん、聞いておきたいことがある。いいだろうか?」

またか、と内心思いつつ、ふうりんは軽くうなずきます。
「今日仕事が終わり次第、来てもらいたいところがある。
 おそらく2時間ぐらい時間を取られると思うが、どうだろう?」
それを聞いて、ふうりんは眉をひそめます。

「2時間・・・それは一体何の用なんですか?」
「それは言えない。それについては、その場で伝えさせてもらう」
「どうしても今日じゃないといけないんでしょうか?」
「できれば今日、なるべく早くにしてもらいたいのだが、都合が悪ければ別の日でも構わない」

2時間ともなると、予定によっては、まずいかも知れません。
「明日返事するという形でもいいですか?」
「もちろん。では。」
それだけ伝えて、去っていく。相変わらずふうりんに謎ばかり残すダイクストラでした。




ふうりんが家に帰る時には、もう夕日も地平線の陰に隠れかけてしまっていました。
帰宅したふうりんはすぐに、千晶が既に帰ってきていることを悟ります。
これは好都合、と、ふうりんは千晶に声をかけると、明日遅くなってもいいかと聞きました。

「どういうこと?」
千晶は目を丸くします。
「それが、なんだか良く分からないんだけど用事が入っちゃって、2時間ほど遅くなりそうなの」
「ふーん」
「構わない、かな」
「ああ、どうぞどうぞ」

千晶はひとたびうなずくと、途端に目を鋭くさせて、ふうりんを指さしました。
「ふうりん、あんた何か、隠しごとしてるでしょ」
突然そんなことを指摘され、ふうりんは慌てました。
「な、なんだって突然・・・」

目を白黒させるふうりんに、千晶は指折り、理由を挙げ出します。
「まず1つ、土曜日夕方に突然疲れた姿をして帰ってきたこと。
 2つ、昨日の朝のことね。起きてみたらいなかったけど、一体どこへ行っていたのか。
 3つ、今日みたいに、いつもは言わないことを言いだしたら、誰だって何か、隠していると感づくってば」
「・・・」

ふうりんは何も言うことができません。
最後のはまだ詳しく分からないのでともかくとしても、前の二つを鑑みるに、
確実に千晶は、魔法やその他の事柄に対して、意識を抱きつつあります。

しかしふうりんは、それらを打ち明けることについて、どうしても否定的です。
こんなとき、ゴキ吉に、グレアムに、あるいはセティに聞いたらなんと言うでしょうか?
でも千晶はセティのように、余裕のある大人ではないことを、ふうりんは知っています。
千晶に負担をかけることは、ふうりんにはできそうにありません。

「ね、どうなの?できれば・・・
 勝手なことを言わせてもらうけど、ふうりんには思った通りのことを打ち明けて欲しい。
 言いたくないなら言わなくてもいい、けど、ああ、なんというのか、
 私がふうりんに、『フリーターになりたい』と言った時のことを、覚えてる?
 あれから私はものすごく、気が楽になったんだ。
 だから絶対、悩んだら言った方がいいと思うよ!って、なんか違うなこれ・・・」

説得してくれようとする千晶に、ふうりんは黙って、首を横に振りました。
「そっか・・・まあ、気が変わったら、是非言ってね」



ひさびさに昔のことを思い起こされ、懐かしい気持ちにされたふうりん。
でも・・・と、ふうりんは思いました。
今は目の前の出来事の中を、ただがむしゃらに進むだけで精一杯。
過去を振り返るような時ではないのだと。

ゴキ吉はまだ、帰ってきません。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第312号
ページ番号
17 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日