06-A
ヒーローチャオを追う。
そう言って出て行ったグレアムでしたが、彼はなかなか帰ってきませんでした。
ふうりんは電話を待ちました。しかし、彼からの連絡は一切ありません。
ふうりんはグレアムの所在が、少し心配になりました。
朝、起きたばかりのふうりんは、先に起きていた千晶に聞かれました。
「朝起きた時気付いたんだけど、あのー、フェレット。グレアムが見えないんだけど、どこ行ったか知らない?」
「・・・ごめん、分からない。外に出たんじゃないかとは思うけど。」
ふうりんは内心ひやりとします。気にかかっていたことを、そのまま聞かれたのですから。
それを聞いて眉をひそめる千晶。
「分からないな。とりあえず暇を見て外で探してみようか?」
「うん。お願い。」
千晶のバイトは、今日も朝早くからあるようです。
彼女が行ってしまったのち、ふうりんもグレアムを探しに行く支度を始めることにしました。
タンスの引き出しを開け、中からゴキ吉を取り出します。
「Good morning.」
手に乗ったゴキ吉に、ふうりんはとりあえず聞いてみます。
「ゴキ吉、グレアムを探すのに適した魔法って無いの?」
ふうりんは、気になっていたことを聞きました。
今までふうりんが使ってきた魔法は、もっぱら戦闘のためのもの。
しかし、それだけが魔法でないのではないかという疑問を、ふうりんはしばらく前から抱いていました。
数秒悩んだ、ゴキ吉の答え。
「Just fly!」
「本当にそれだけ?」
「I have a lot of way to find someone.
But it's the best one, and my favorite one besides!」
ゴキ吉にそういわれても、ふうりんの気が乗らなかったのにはわけがあります。
この時刻は、昨日浜辺に行った時刻よりもはるかにあと。
街の上空をふらふら飛んだりするものなら、ものすごく目立ちそうです。
考えあぐねいているふうりんに、ゴキ吉は、不満の声を上げました。
「Does the present jacket seem strange?」
「な、なんのこと?」
普段とは違った調子のゴキ吉の言葉に、少々驚くふうりん。
「If you don't want to do, I would follow.
Uh, do you want to part from me and seek each other?」
ゴキ吉の怒った調子に戸惑って、ふうりんはついうなずいてしまいました。
「I see.」
ゴキ吉はそれだけ言うと、窓から外へ、ふわふわと飛んでいきます。
あっけにとられたまま、ふうりんはその様子を見送ります。
ふうりんには、ゴキ吉が何を言いたいのか、はっきり分かりませんでした。
とにかく、と、ふうりんは街へ出て、少しはグレアムを探してみることにします。
分担して探した方が、効率がいいに決まっています。
ふうりんはグレアムの駆けて行った市街の辺りを探すことにします。
しかし、入念に探してみたのですが、グレアムは見つかりませんでした。
細かい路地にも立ち寄って、フェレットはもちろん、道行く黄色チャオ、ミズチャオにも目を光らせたのですが、
それらしき人影は見つかりません。
編集部へ行くべき時間も迫ってきます。
しかたなく、ふうりんはいったん諦めることに。
自宅に帰っても、ゴキ吉はまだ帰宅した様子がありません。
「編集部に行くってことは、ゴキ吉も分かるよね・・・」
ふうりんは念のため、部屋の窓が少し開かれていることを確認してから、家を発ちました。
ふうりんは、ゴキ吉が急に怒り出したことを気にかけていました。
しかしまさか、飛んで探すのを拒否したという、それだけから怒るわけではないでしょう。そこが分かりません。
「ジャムでも食べたら、私も思い出すかな・・・」
自分で言ってみて、ふうりんは激しく後悔しました。
ヒーローチャオが、ステーションスクエアの中心から離れたとあるビルの一室で、静かに立ち上がりました。
そして、傍らの黄色い色をしたデバイスを手に取ります。
その部屋は調度品も少ない、とても簡素なものでした。
青空に日はだんだんと高く昇って、心地よい日和です。
でもそれなのに、このカーテンを閉め切った部屋は薄暗く、その中に佇むヒーローチャオは、異様に目立って見えました。
彼女がエルファ・クローディアです。
エルファは杖と共に部屋の中央に位置取り、軽くその先端で部屋の床を打ちます。
と、次の瞬間、床に大きく、黒い色をした穴が広がります。
「もしもし、ウーク、聞こえますか?」
エルファが穴に向かって語りかけると、その穴の向こうから、どたばたと音が聞こえました。
黒い穴の向こう側から、別のヒーローチャオが、ひょっこりと顔を現します。
それはちょうど、水面に映った像のように。
しかしのぞき込むのはヒーローヒコウなのに対し、
かたや、向こう側から同じようにのぞき込んでくるのは、ヒーローノーマルのチャオなのです。
その、ウークと呼ばれたチャオは頭を掻くと、
「そっちは順調なんだろうね」
と、エルファに軽く問いかけました。
エルファはうなずきます。
「デバイスは順調に回収できていますよ。ただ、一つ困ったことが・・・」
「なんだい?」
エルファは背後から鳥かごのようなものを取り出しました。
中には一匹のフェレットのような生き物・・・グレアムがそのまま入っていました。