05-C

ダイクストラの表情は、よく分かりませんが、なんとなくへの字の口が、堅い印象を与えます。
彼が頭を下げるのに合わせて、周りの部員たちの間から、拍手があがります。
ふうりんも、一応拍手。
「そしてダイクストラ君の指導を担当してくれるのが、他ならぬDXさんです。」
「まじすか」
予告なしの指導役抜擢に、驚きを隠しきれないDX。
しかし、そのセリフと同時にネコがにゃあと鳴いたので、誰もが皆、ネコ語でOKの意味だと捉えました。
まばらな拍手。

「じゃあ、ダイクストラ君は、そういうことで。」
「にゃあ」
ひとまずこの場は、簡単な紹介だけで終わりました。

ふうりんは少し拍子抜けしてしまいましたが、こんなものかと自分を納得させませます。
しばらくは仕事上接点がないかも知れませんが、その内にダイクストラのことも、分かってくることでしょう。

そんなことを考えていたふうりんは、新入部員の紹介後、唐突にセティに呼び出されました。


「なんでしょう?」
セティのデスクにやってきたふうりんに、セティは聞きます。
「どうよ、さっきの新入部員は?」
「えっとまだあれだけでは、よく分かりませんが・・・ずいぶん簡単なんですね。」
ふうりんが言うのは、入社にまつわる研修などの手順のことです。
まるで中小企業のような簡単さです。

「まあ、部員数不明で有名な編集部だから、入るのも出ていくのも簡単なのよ。
 ふうりんのやってきた時も、あんな感じじゃなかった?」
「うーん、私の場合、ちょっと特殊な入り方だったのかと思ってました。
 出て行くのも簡単なんて、初耳ですね。どうすればいいんですか?」
「ちょっとー、出て行くなんて言わないでよ。
 まじめに答えると、私も知らないわ。この会社には、人事部というものがないらしいのよ。」
「それこそ嘘でしょー。」

そこまで言って、セティは少し、声を潜めました。
「そうそう、あの魔法、デバイスのことなんだけど・・・」
うなずくふうりん。
「知り合いにきれいな石を見た人がいないか尋ねてみたんだけど、知っている人はいなかったわ。力になれずごめんね。」
「あ、わざわざすみません。」

「いや、いいのよ。こっちも結構楽しんで協力してるんだから。
 それと例のエルファ嬢と、そのパートナーに関する資料は、資料室に行って、鈴・・・じゃない、
 ろっどさんに当たれば、もっと詳しいものがもらえると思うわ。」
「うーん、私はむしろ、行方不明になる前より、なった後の方が、怪しいと思っているのですが・・・」
「そうなのよねぇ。でもいくら編集部でも、それはさすがにお手上げよ。
 そういうことなので、ま、がんばって。」


ふうりんは手始めに、編集部に届いた投書や郵便物に目を通しておくことから始めました。
編集部は割と部署間の移動がルーズな、束縛の緩い職場です。
役割分担も不明瞭な部分があるのですが、ふうりんは表だって情報発信を行うよりも、
裏で投書を受け付けたり、資料の準備をしたりしている方がメインになっています。

郵便物には、別の部署に回すべきものが数通、表紙に使えそうなものが数通。
何通かのはがきに混じって、ふうりんはひとつ、気になるはがきを見つけました。
「チャオゲー署名運動 始動」と大きなゴシック体で書かれたそれは、
署名運動について、編集部に要請を求める内容のはがき。

ふうりんは考えます。
要請を求められたとは言っても、しかし、週チャオ誌上に広告を載せるのは、広告料が支払われることが原則です。
協力したいのは山々ですが、あまり編集部の取れる方法は、そう多くはありません。

「んー、編集部サイトから応援リンクぐらいなら、できるかも」
そう思ってよくはがきを見ると、隅に小さく「チャピル」の文字が躍っています。
ふうりんは確信しました。編集部サイトからは、既に応援リンクが張られているだろうと。
そしてあらゆる手段を通じて、署名運動をプッシュするつもりなのだと。

「なぜわざわざ・・・遠回りな事を。」
ふうりんはそのはがきを、ぽいとゴミ箱に捨てました。



昼休み、ふうりんは意外な人物に呼ばれました。
ダイクストラ。DXさんに指導されているはずの彼が、なぜふうりんを呼ぶ必要があるのか、
ふうりんには理解できませんでしたが、ひとまずついていくことにします。

彼が向かったのは、編集部ビルの外。ひとけのない裏口を出たところで立ち止まります。
「突然呼び出して申し訳ないのだけど、ふうりん、いくつか聞いておきたいことがある。いいだろうか?」

ふうりんの方も、突然名指しで呼ばれたことに驚きました。
ひょっとして表紙に出てしまったがために、ふうりんの名前も、割と広く広がってしまったのでしょうか。
もしそうだとしたら、それは、ふうりんにとって憂うべきことです。

「いいですよ。」
ふうりんの返事を聞いて、うなずくダイクストラ。

「まず、あなたはふうりんか?」
「はい」
「まだ進化していない」
「はい」
「年齢は?」
「0歳」
「転生回数」
「1回」
「身長」
「39.2cm」
「アビリティ」
「上から順に、DBBCA」

「協力ありがとう。失礼。」
せくせくと去っていくダイクストラを、ふうりんは唖然として見るばかりでした。

「な、なんだったんだろ・・・今の」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第310号
ページ番号
15 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日