04-B
なんとかエイプリルフールの嘘発表という山場を乗り越え、編集部員たちの間には一斉に安堵の空気が流れました。
仕事を終えた企画部、サークル部の部員たちの中には、早速帰る準備を始めるものもいます。
しかし、ふうりんの所属する広報部においては、まだ帰るわけにはいきません。
嘘発表の直後、広報部員たちは一度別室に集められていました。
セティが広報部長として、ふうりんらに指示を与えます。
「エイプリルフールに伴って、週刊チャオも嘘をついたわ。
ひょっとすると真に受けて広報部に問い合わせに来る人がいるかもしれない。」
「そんな人がいるんですか?」
部員等の中から出た質問に、彼女はにっこりと微笑みます。
「エイプリルフール一発目の嘘というやつね。」
「本当は、仮眠を取ってもらって構わないわ。ただ、出来れば帰るのは後にしておいて欲しいのよね。
サーフボードに無茶なことを押しつけてきてしまったから、午後までは彼らの手伝いが必要だと思うの。
ああ、あとふうりんは仮眠もダメ。」
「まじですか。」
唐突な使命に驚くふうりんに、彼女はさも当然というような顔を返します。
「一人だけ遅刻してきておいて、何言ってるのよ。」
そんなわけで、広報部も一人を除き無事解散となりましたが、疑問が残るのはふうりんです。
見るとセティが手招きして、ふうりんを呼んでいます。
「なにかあるんですか?」
駆け寄るふうりんに、
「千晶さんから聞いたわよ。なんだか、綺麗な石を気に入ってたって話してたから・・・」
ふうりんは、千晶の情報伝達の早さに思わず舌を巻きました。
「親戚のこのチャオが、拾ったって言ってたの。」
彼女が取り出したのは、青緑色に輝く、丸い石。
うっすら透けているまるい様子は、紛れもなく、デバイスのひとつです。
しかし、数時間前に戦ったばかりだというのに、また・・・?
「そ、そうですか・・・」
こんなに間近で、まだ動き出していないデバイスを見たのは、ふうりんには初めてのこと。
おそらく不良デバイスでしょう。
ゴキ吉を連れてこなかったので処理は出来ませんが、発動する前に、とりあえず受け取っておいた方が良さそうです。
「せっかくだから、ふうりんへと思って持ってきたんだけど、どうなの?」
頭を下げるふうりん。
「ありがとうございます。大事にします。」
「そう、よかったわ。」
デバイスを受け取って、ついで、ふうりんは聞きます。
「ところで、私が残されたのは、何の用があってのことですか?」
そう聞くと、彼女は少し悩んでから、答えました。
「うーん、さっきは嘘だと言ったけど、実際たまにあるから念のため。あとは、後片付けね。
とはいえ石を渡すのが半分目的だったというのが正直なところかしら。」
「いえ、一応やっておきます。」
「じゃあ、よろしくね。」
セティと別れたふうりんは、手に握ったデバイスを見つめます。
その形だけ見れば、ゴキ吉に本当にそっくり。今もこのような形で、未発動のデバイスがこの街に散らばっているのでしょうか。
ゴキ吉をつれてこなかったことを、ふうりんは少し後悔しました。
そのとき、窓の外からコンコンと、何かがぶつかるような音がしました。
ふうりんは突然の音に驚き窓の方を見ます。
窓にぶつかるのは小さな赤い玉・・・ゴキ吉?
「ちょっとゴキ吉、何しにきたの!」
「I come here to see you again!」
「まったく、役に立つのか馬鹿なのか・・・」
ふうりんは窓に歩み寄り、ゴキ吉が通れるぐらいに、それを開けてやりました。
「Oh, is this your editorial?」
ゴキ吉はふわふわと、その隙間から入り来ます。
一方のふうりんは、気が気ではありません。
もし石ころが宙に浮いているところを誰かに見られたら・・・そのときでした。
窓の外からもう一本、光の矢が開いた窓へと撃ちこまれたのは。
「Protection!」
「きゃっ」
突然の出来事に、ふうりんは思わず身をかがめます。
辛うじてゴキ吉が、光の矢をバリアで打ち消していました。
ふうりんは、窓の外へと視線を走らせます。
そこには、一匹のチャオがいました。そして手にはゴキ吉同様の杖。
ふうりんと同じ、魔導師です。
「ゴキ吉、変身を!」
「Call the password!」
「ルルカル☆マジカル」
刹那、ふうりんは魔法のコスチュームを身にまとい、すばやく戦闘の姿勢に切り替えます。
敵が狙っているのは、おそらくあのデバイス。
窓の外のチャオはまっすぐにこちらへ向かってきます。ふうりんの目に、大きな天使の羽が飛び込みます。
「Protection!」
ゴキ吉の出したバリアが、飛んできた敵の体を受け止めました。
敵のほうはといえば、その手に握った杖を槍状に変形させ、力ずくでバリアを破ろうとする策です。
敵の杖から、ふうりんにも聞こえる声。
「Pike mode」
槍がバリアに接すると同時に、膨大な光が発せられます。
思わず目を閉じるふうりん。
ゴキ吉のバリアは、砕かれました。
部屋の中に飛び込んだ敵は、すばやく不良デバイスを確保。
別の窓から飛び立ちます。
「あっ」
ふうりんの声もむなしく、敵は天使の羽と共に消えてしまいました。
あっけにとられるふうりんの背後で、ガチャリ、扉の開く音。
「って、どうしたのそんな変な格好して!」
それは先程部屋を出て行った、セティでした。