03-C

ふうりんはふらふらと、グレアムのいるビルの屋上へと戻ってきました。
ふうりんが着地すると変身はすぐに解けて、ゴキ吉もまた、杖から元の石ころへと戻ります。
「お疲れ様」
グレアムが結界をとくと、辺りは元の活気ある商店街へと戻ります。

ふうりんはそのまま、ビルの上にへたりこんでしまいました。
前回以上に激しい魔法での戦い、ふうりんの体は、まだ慣れてはいないのです。

そんなふうりんの様子を、心配そうに見つめるグレアム。
「大丈夫?」
「うん、きっと疲れただけ」
そうは言いながらも、ふうりんは、とても家まで帰れるといった雰囲気ではありません。

「昨日の件から1日も経っていないのに、まさかこんなに早く現れるとは想像してなかった。ごめん」
しゅんとするグレアムに対して、首を横に振るふうりん。
「大丈夫だって。たぶん、明日になれば平気。それよりグレアムの方が、さっきの大がかりな結界・・・」
「ゴキ吉、力を貸して」
グレアムはふうりんの台詞を聞かず、ゴキ吉を呼び出します。
ふわふわと飛んでグレアムの手の中に収まるゴキ吉。

グレアムは立ち上がると、はっと全身に力を込めます。
それと同時に、グレアムの姿は徐々にチャオの姿へと変わります。
黄色いミズチャオでした。

「ゴキ吉、僕に翼を」
グレアムがゴキ吉にそういうと、グレアムの背中に、大きなフェニックスの翼が付けられました。

グレアムは後ろからふうりんを抱え込んで、翼を羽ばたかせ、一緒に飛ぼうとします。
「無理しなくていいって、そんな・・・」
あくまで断ろうとするふうりんに、グレアムの言葉。
「いや、僕にも何かできることがあれば、それをしないと。そうなんだろ?」

ふうりんを抱えたグレアムは、なんとか宙に飛び上がり、よろよろと家に向かって飛び始めました。

遠藤千晶が、アパートの前で動けなくなっていたふうりんとフェレットを見つけたのは、しばらく経ってからでした。




「まったくもう、どこで遊んでいたんだか」
「ごめん」
ふうりんは千晶に対して頭を下げます。
「いや、まあ、謝る必要はないんだけどね。晩ご飯が出来てなかったので、驚いた」
「そっちか」
「そっちです」


しばらく睡眠と休養を取ったことで、ふうりんの体力はおおむね回復していました。
しかし、今はもう夜です。時計の針はもう11時を回ろうとしています。
千晶にまた夜中に迷惑をかけてしまったことに、ふうりんはどうも、申し訳なさを感じざるをえません。

ふうりんが意外だったのは、千晶がグレアムに対して、特になにも感じるところがなかったようなところでした。
グレアムはいつの間にか、布団の横の小さなクッションの上で眠ってしまっています。
何も言わないのに、きちんとグレアムを介抱してもらえたのは、ふうりんにとってありがたいことでもあると同時に、不可思議でもあります。
その件について、ふうりんは千晶に切り出します。

「えっと、そういえばグレアム・・・あの、フェレットのことなんだけど」
「ああ、あのフェレットグレアムって名前なんだ。どうかしたの?」
ふうりんは少し悩んでから、言葉を発します。
「しばらくここで飼ってもいい?」

千晶はふうりんの言葉を聞くと、一瞬きょとんとしてから、かっかっかと笑い出しました。
「そんなのいいに決まってるじゃないの」
「ありがとう」
あまりに簡単に許されたことに拍子抜けするふうりんに対し、千晶はうーんと、首をかしげます。
「それにしても、チャオも小動物を飼う事ってあるんだね。私にはまだよく分からないんだけど。
 いや、やっぱりふうりんは奥が深いというか、なんというか・・・」
「ど、どういう意味よ」
戸惑うふうりん。

「言葉通りの意味。あれ、でもそういえばグレアムって、なんか他のフェレットと違う気がするんだよねぇ・・・
 その辺が、ふうりんにそぐうところがあるんですかね」
眉をひそめる千晶を見て、ふうりんは密かに舌打ちしました。
グレアムの外見のおかしさに、千晶が気付くのは時間の問題です。
それまでになんとか、うまい言い訳を作っておかないと・・・

部屋の電話が鳴ったのは、そんなときでした。


「お?」
驚いて受話器を取りに走る千晶。
危ういところで、ほっと胸をなで下ろすふうりん。それにしても、こんな夜中に電話とは珍しい。

千晶は電話に少しだけ応対すると、軽くうなずいて、ふうりんを手招きします。
「なんか、編集部の人みたい」
それを聞いて驚きつつも、電話に向かうふうりん。千晶から受話器を受け取ります。
「もしもし、かわりました」

受話器から飛び込んできたのは、非常に慌てた男性の声でした。
「ふうりん、何やってるんだ!急いで来い!」
「は?」
突然の台詞に、理解が追いつかないふうりん。
「土曜の夜に出るように言ってあっただろ!」

はて、そんなことを聞いていたのでしょうか。
記憶を辿ってふうりんは、とある重大な連絡を思い出していました。
「・・・エイプリルフール」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第305号
ページ番号
9 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日