03-A
ふうりんの家では、千晶が仕事から帰ってきていました。
その手には、大きなビニール袋が握られています。
それをよっこらしょと玄関に下ろすと、ふうりんのいる部屋に入ってくる千晶。
本を読んでいたふうりんにただいまと言い、そしてこう告げました。
「夕食、材料ある。あとは、よろしく」
そしてのそのその布団の方向へ歩いていきます。
ふうりんは溜息をつくと、本にしおりを挟んで机に置くと、言われたとおりにビニール袋の中身を確認しました。
こんな千晶の行動も、ふうりんにとっては慣れたものです。
とりあえずビニール袋を引きずって、キッチンの方へと運んでいきます。
千晶が寝てしまったのを確認してから、ふうりんは静かに部屋のタンスに歩み寄り、一番下の引き出しを開けました。
「もう出てきていいよ」
そこにいたのは、フェレットと赤い宝石・・・そう、グレアムとゴキ吉です。
タンスの中からふらふらしながら出てくる2人。
ゴキ吉はともかくとして、グレアムにタンスの中は、少し狭かったようでした。
「意外と早かったね」
グレアムの言葉にふうりんは
「ん、まあ、あの人はすぐ寝ちゃうから」
引き出しを静かにしまいながら答えます。
タンスの中に隠れるように指示したのは、ふうりんでした。
千晶が帰宅後疲れて寝てしまうのはいつものこと。
それを考えると、眠りを邪魔するよりもそっとしておいた方がいいと、彼女は判断したのです。
それに時間を割ってグレアムに自己紹介してもらったとしても、グレアムの身なりでは怪しまれる可能性大でした。
そんなとき、宙に浮いていたゴキ吉の内側が、きらりと光りました。
「ん?どうしたの、ゴキ吉?」
ふうりんが聞くと、ゴキ吉は黙ってキッチンの方へと飛んでいくゴキ吉。
その雰囲気に不穏なものを感じたグレアムは、急いでその後を追います。ついていくふうりん。
ゴキ吉はキッチンの窓の側で、ふわふわと浮遊し続けています。
背丈の足りないグレアムに代わって、ふうりんは軽く羽ばたいて、窓の外をのぞき込みます。
窓の外に広がる、ステーションスクエアの町並み。
が、次の瞬間、そのある一点が光ったかと思うと、途端に強い光を放ち始めたのです!
ふうりんは思い出していました。あの、初めて手にした時のゴキ吉の光り方を。
街の一角から立ち上った光の柱が、まぶしすぎるくらいに光り輝いていました。
眩しさに思わず目を閉じるふうりん。しかしそう、あれは間違いなくデバイスの発する光です。
「The light comes from North-west.
The source of the light must be a violent device.」
「不良デバイス!」
「まさか、もう次のが来たって言うのか!」
前回から1日も経たないうちの襲来。想像を超えた早さに、グレアムの顔がゆがみます。
ふうりんを煽り見るグレアム。
「行く?」
時刻は午後4時50分、ふうりんはグレアムとゴキ吉を掴むと、何も答えずに部屋を飛び出しました。
「ルルカル☆マジカル」
ふうりんの背中に広がるドラゴンの翼。
アパートから飛び立ったふうりんは、そのままあの、目立つ光の柱をめがけて飛行を開始しました。
光源の位置からいって、不良デバイスの発動位置は商店街のど真ん中です。
彼女を覆う白いコスチューム、手に握られたゴキ吉杖。その先端になぜかしがみついているグレアム。
ふうりんはまっすぐに商店街へと向かい、その中の一つのビルの屋上に降り立ちました。
先程まで満ちていた光はやがて収束し、中からは恐ろしく変形した巨大な街路樹が、姿を現しました。
どうやら今回は、暴走開始段階で既に別のものに寄生してしまったようです。
グレアムはゴキ吉から、ふうりんの足元へと駆け下ります。
「戦うの?」
「そんなの当たり前じゃない!」
グレアムの言葉に、ふうりんは珍しくいらだった声を返しました。
「話を聞いてる限りでは、この街に他に事情を知ってる人やチャオはいないんでしょ?
それなら、私がやる。やるしかないと思う」
「Status all green.」
グレアムは沈黙します。
「分かった。その代わり無茶は控えてね」
グレアムはうなずくと、その場でしっぽを立てて叫びました。
「結界発動!!」
次の瞬間、一気に空間が揺らぎます。
それだけ済ますと、グレアムはその場でぐったり横になりました。
「ごめん、昨日より回復してると思って、より強力な結界にしてみたら・・・ちょい無理してしまったみたいだ。
でもこの間みたいに、結界内の建物に影響が出ることはないから、安心して戦って」
ふうりんはうなずきます。
「ゴキ吉、よろしく」
「OK, my master.」
ふうりんはビルの屋上から、一気に上空へと飛び立ちます。
街路樹もふうりん達の動きに気付いたようです。
地面を這っていた根が大きく波打ち、と、同時に周囲の建物を破壊します。
そしてその根はムチのように、ふうりん達に向かって振り下ろされます。
「グレアムは昨日、乗り移ったものの動きやすさが相手の強さに直結するって言ってた・・・
ということは、この木は前よりも強敵って事か」
「Fast move.」
ふうりんの体に横から強烈な加速度が加えられ、その根をかわすふうりん。
「これは、ほんとに強い・・・」
溜息をついたのもつかの間、もう一本の根がふうりんの左から襲います。
慌てて下方へ飛び込むふうりん。