02-C

翌朝ふうりんが目を覚ました時には、既に遠藤千晶が家を発った後でした。
彼女を起こさないようにと、昨夜のふうりんはさんざんグレアムとゴキ吉に言い聞かせ、
さらには起きた時に彼女に気付かれないように、二人をタンスの中へと押しやったりしました。
朝起きたふうりんがタンスを開けると、グレアムは激しく咳き込んで、もっとちゃんとした寝床を確保するよう懇願しました。

今日は土曜、編集部は休みです。名目上。


「それで、いつになったら直りそう?」
グレアムの傷の様子を見ながら聞くふうりん。
「わからない。たぶん3日もすれば完全に回復するんじゃないかと思うけど」
そういってから、首をひねるグレアム。
「動物病院に連れて行ってもらえないのかな」
「それはだめ!!」
激しく否定するふうりんに、グレアムはますます首をひねります。

「まず、チャオが小動物を動物病院に連れて行くというのが、非常にまずい。
 なぜならば小動物はチャオのスキルの栄養源。チャオが小動物を抱いていると、非常に怪しまれる」
「ふむふむ」
「次にあなたがキラキラしていないのも、かなり不思議に思われる可能性がある。
 小動物ってのは、キラキラがないと、長くは生きられないんじゃないの?」
「・・・」
「ひょっとして、そっちの世界にはキャプチャとか、小動物が栄養源っていう仕組みがない」
うなずくグレアム。

「チャオはいる?」
「チャオはいる。というか、僕自身がチャオだ」
「・・・」
グレアムの台詞に、頭上の疑問符で答えるふうりん。
「ひょっとして、こっちの世界では、チャオが小動物に変身したりしない」
ふうりんはうなずきます。

「そのフェレットみたいなのは、チャオでない時の仮の姿ってこと?」
「小動物になってる方が、体力を消耗せずにすむんだ」
「ということは、体力が回復すれば、あなたはチャオの姿に戻れるので、町中を自由に歩けるようになる、と」
「そういうこと。今でもやろうと思えばできるけど・・・」
「しなくていい」

とまどいを隠しきれないグレアムに、ふうりんはもう一つの疑問を口にします。
「そういえば昨日はドラゴンをキャプチャしたわけでもないのに、こんなドラゴンの羽のパーツがついてしまったけど、
 ひょっとしてデバイスがこちらの世界の小動物みたいな役割を持ってる」
「それは違うと思う」
グレアムはふうりんの説を否定します。

「デバイスというのは、魔力を扱うのための装置であって、手段の一つに過ぎないんだ。
 この世界の人たちが魔法といわれて、どんなものをイメージするのか分からないけど、
 魔法の杖に限らず、呪文とか、身振り手振りで出せるようなのもあるんだ。
 もっとも、これらを使うにはある程度練習が必要なんだけど」
「んー、てことは、ゴキ吉を使うのもある程度練習した方がいいってこと?」
「I want to practice with you, Whorin.」
タンスの中からふわふわと飛んでくるゴキ吉。

「I love you.」
「死ね!ネコにゲーム機蹴られて死ね!」
「cruel...」
「ごめん、一度言ってみたかった」

グレアムはゴキ吉を無視して、ふうりんに答えます。
「魔法の杖を使うのには、特に練習は必要ないと思うよ。
 もっとも、どんなことが出来るのかを知っておくことは必要だと思うし、
 本気で使いこなそうと思えば、いくらでも出来るのかもしれないけど、ふうりんは昨日のでだいぶ慣れたでしょ?」
うなずくふうりん。

「僕たちは別の世界が存在することは教えられてても、それぞれの世界にあまり深入りしたことは知らないな。
 けど、これまでの話をまとめてみると、こちらの世界で小動物たちが持っている力が、僕らの世界でいう魔法で、
 こちらの世界には、魔法の代わりにそれらの力があるっていう風に、考えさせてもらってもいいのかな」
「うーん、それは違う気がする」
ふうりんは、ゆっくりと自分の考えを口にします。

「魔法と小動物の力というのは、完全に同一ではないよね。
 現に、こちらの世界でもカオスドライブなどといって、小動物の力を人工的に作りだしたものもあるけど、
 それでは魔法は起きない。それにその説明では、そちらの世界でチャオが小動物に変身できることに理由がつけられない。
 ・・・そういえば、昨日、こちらの世界のチャオなら魔法が使えるというようなことを言ってたよね。あれってどういうこと?」
「ごめん、それも人づてに聞いた話で、詳しくは知らない。言葉どおりの意味」
「言葉どおりに解釈すると、こっちの世界の人間は魔法が使えないってことなのかな。
 そっちの世界にも人間がいて、魔法が使えるんだよね?」
「うん。他にも、魔法とかさっき言ったチャオの話とかを除けば、僕たちの世界とここはよく似ている」

その後もしばらく議論は続きましたが、結局、最後には二人ともお手上げでした。
まだ見ぬ魔法の世界について、知るのは少し早すぎるのかもしれません。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第303号
ページ番号
6 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日