02-B

「敵は魔力を扱うモンスターで、今は電灯に寄生している。
 ほんとは難しいんだけど、あの電灯そのもの、及びこの世界は、なるべく傷つけないように倒したい。
 さっきのうちに、僕がこの周辺には結界を張っておいたから、外部への影響は最小限になると思う。
 この公園や電灯への被害は免れないかもしれないけど、がんばって!」
グレアムからの指示が、ふうりんの聴覚に良く響きます。
木の上から見る電灯は、今は動きを潜め、ふうりんが出てくるまで体力を温存しているようにも見えます。

「それで、どうすれば倒せるって?」
ふうりんは、せっかくだからこの木で待機するというグレアムに、疑問を投げました。
「やつは、電池のような機構で動いているんだ。
 だから電流、魔力を限界まで消費させれば、自然と動きが止まるようになってる。
 ゴキ吉には魔力を消耗させるシステムが組み込まれているから、ある程度接近して、後はゴキ吉に任せてくれればそれで大丈夫」
「Leave it to me!」
心なしか、ゴキ吉の声は嬉々として聞こえます。

「ゴキ吉は強力だから、相手が抵抗する前に、魔力を全て消耗させられると思うよ」
「わかった。ありがとう」
ふうりんは言い残すと、羽ばたいて、木の上から飛び降ります。

電灯もその動きを察知したようです。
さきほどと同様に頭の部分から、次々に光の球を放ってきます。
ふうりんは今度はバリアを張りません。
モードチェンジ済みのゴキ吉を手にしたまま、光の球を軽く左右によけると、電灯の懐に飛び込みました。

「今だ!ゴキ吉!」
「Searching for the source... It's ready!」
ゴキ吉から液状のものが勢いよく放出され、それが電灯の根本、黒い影が衝突した辺りを覆い隠しました。
電灯は一瞬抵抗するそぶりを見せたものの、すぐにその動きは止まります。
どうやら、終わったようです。
電灯は変な形のまま、ぐらりとゆれてその場に倒れました。



「割合あっけないのね」
木の上に戻ったふうりんは変身を解いて、グレアムに話しかけました。
その台詞に、むっとした表情で返すグレアム。
「それはふうりんが運が良かったからだよ。
 もし相手が動きの鈍い電灯なんかに寄生していなかったら、相手の抵抗も激しくて、もっと厳しい戦いになっていたはず。
 だからそんな危険に巻き込みたくないんだ。ゴキ吉を返してもらえないかな」
ふうりんの右手には、今はただの赤い宝石に戻ったゴキ吉が乗っています。

「えっと、とりあえず私がベンチ下にうまく転がったから、黒い影は電灯にぶつかったんだと思うんだけど」
「それは偶然」
「いや、必然」
ふうりんの台詞に、グレアムは反論することが出来ません。

ふうりんは話します。
「とにかく、そんなぼろぼろの姿で家まで帰れるの?」
「・・・たぶん」
「家は近いんだけど、泊まってく?」
「あまり迷惑はかけたくないんだけど・・・」
「そういうなら、迷惑じゃないので、好きなだけ泊まって下さい」
「うーん・・・」
グレアムはどうにも煮え切らない様子です。


グレアムが決断に悩んでいるようなので、しかたなく話題を変えるふうりん。
「さっきの黒い影は一体何だったの?追われていたようだけど・・・」
「あれも、ゴキ吉と同じだよ。ゴキ吉と同じように、でも、製造に失敗したデバイス」
グレアムは、今度の質問にはすぐに答えます。
「デバイスって?」
「魔法を発動するための、一番一般的な道具、だね。本来なら持ち主に従順なんだけど、
 製造に失敗したデバイスは、ときどきあんな風に暴走してしまうんだ」
「ふーん」
ふうりんはとりあえず納得して見せましたが、まだまだ疑問はたくさんありました。

「それで、どうしてそんなデバイスが、こんなところに迷い込んでいるのか・・・」
ふうりんがそう言おうとすると、グレアムは目を伏せてしまいました。
「僕のせいなんだ・・・」
「えっ?」
「僕がもうすこし、そのデバイスが動き出すのに早く気付いていれば・・・。
 僕の出身の世界の話になるんだけど、不良品のデバイスを運んでいたところ事故にあって、
 それで、それらのデバイスがこの付近一帯に散らばってしまったみたいなんだ。
 僕はたまたまその事故の現場にいて、一緒にこちらの世界に飛ばされてしまったんだけど、
 事情を知っているからには、ちゃんと回収してしかるべき形で収めないと・・・」
「それなら、私も同じ」
「えっ?」

「私も偶然、デバイスの事故に巻き込まれた。そしてこうして、事情を知った」
宙に語るかのように話すふうりん。

「でもそれは・・・僕のように直接じゃない。僕が話した、間接での話・・・」
「どっちだっていい。それに話を聞くと、異世界から来た人・・・って人じゃない。フェレットなんでしょ。
 そんな右も左も分からないようなフェレットを、野放しにしておくことはできないし」
ふうりんを見つめるグレアム、やがて、彼はその息をほっと吐き出しました。

「・・・異世界から来たってのを驚かないのも珍しいね」
「週刊チャオ編集部員なんてのは、そんなものよ」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第303号
ページ番号
5 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日