02-A
「Protection」
ふうりんの目の前に広がる光景は、ついぞ現実とは信じられないものでした。
ふうりんの手に収まった杖、その先端のゴキ吉が赤く輝きながら、目の前に振り下ろされた電灯の頭を受け止めているのです。
いや、その言い方は正確ではありません。
電灯の頭を受け止めているのは、ゴキ吉によって張られた、薄い白色のバリアでした。
バリアがぷるりと振動し、と、同時に粉々になる電灯の明かり。
しかし黒い影の宿った電灯は、そんなことに構うふりも見せず、再度その全身を振りかぶります。
「逃げましょう!」
フェレットの言葉で、我に返るふうりん。
と、同時に、ふうりんの背中の小さな羽が、大きなドラゴンの羽へと生え替わりました。
見るとゴキ吉が赤い光を帯びています。
「Flight form」
ドラゴンの羽を羽ばたかせ、高く上空へと舞い上がるふうりん。
電灯の頭は宙をかすめ、そのまま地面をえぐり取ります。
「これでいいの!?」
上空のふうりんからは、フェレットへの言葉。
「相手は遠距離攻撃もしてきます!そのままじゃきっとやられます!」
「それを先に言えよ!」
電灯はその頭を、滞空するふうりんへと向けました。
壊れたはずのライト部分が徐々に光り始めます。
「危ない!」
「Protection!」
電灯から放たれた光の球は、石火、ゴキ吉に作られたバリアにぶつかって消滅しました。
しかしその反動で、ふうりんは大きく後ろに吹き飛ばされます。
空中で姿勢を立て直し、再度飛行を始めようとするふうりん。
そのとき光り始めたのが、ゴキ吉でした。
「Physical control」
一瞬にしてふうりんの体は地面に向けられ、真下に向かって強烈な加速度がかけられます。
「お、落ちるっ!?」
地面すれすれで、今度は頭が上方向に向けられ、なんとか墜落を免れるふうりん。
「ひょっとして、墜落しかけたのはゴキ吉の仕業ですか」
「Sorry, but it was so cool」
「そういう問題じゃないでしょう」
ふうりんはまっすぐに電灯へと飛んでいきます。
これもまた、ゴキ吉の力のせいなのでしょうか、普段のふうりんからは考えられないような速さ。
振り下ろされる電灯を易々とくぐり抜け、ふうりんはそのまま、地面近くに残されていたフェレットを拾い上げます。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ふうりん、軽くウィンク。
ふうりんは公園の反対側にある木の上まで上昇すると、いったんその動きを止めました。
木の上からは、あの電灯の頭も軽く見下ろせます。
ふうりんは例の動き出した電灯を手で指して、フェレットに聞きます。
「どうすればあれをなんとかできるの?」
「エネルギーを使い果たしたら、自然と動きも止まるようになってる。ゴキ吉、モードチェンジして」
「OK」
フェレットの言葉に答え、変形を開始するゴキ吉。
ゴキ吉を取り囲むGの部分の形が形を変え、より直線的な、三角形に近いスタイルになりました。
「ああ、えっと」
ふうりんに何か言葉をかけようとするフェレット。
「何?」
「え、えーと、名前、なんだっけ?」
「ふうりん、のこと?」
「そうだ。それそれ」
何度もうなずくフェレット。
「ふうりん、協力ありがとう。あれだけやつに力を消耗させてくれれば、大丈夫。
僕一人でやれるよ。だからふうりんは、もう変身を解いてもらって構わない」
「えっ、でも・・・」
ふうりんはフェレットの体を見やります。首を横に振るフェレット。
「大丈夫だって。後は僕に任せて」
「そんな怪我をしているのに?」
「ああ、これぐらいの傷なら、何とかなる」
「さっきまであの黒い影に逃げて回ってたのに?」
「だから僕に任せて。これ以上迷惑はかけられない」
「Could you be quiet?」
会話に割り込んできたのは、ゴキ吉でした。
「We must do our best at any time, musn't it?」
「ゴキ吉・・・?」
「どうせ乗りかかった船、最後までやらせてくれないと、腑に落ちないと思う。その代わり、ヘルプは頼むから」
フェレットはしばらく沈黙したのち、口を開きました。
「分かったよ。どうせゴキ吉がいないと、その変身もとけないしね」
言ってくれたフェレットに、ふうりんは最後の質問。
「ところで、あなたの名前は?」
「僕は、グレアム」
「うん」