01-B
「まだ起きてたんかい・・・」
室内に入りながら、ふうりんの漏らしたつぶやきに、女性はつっかかります。
「いやいや、十時半やそこらじゃ、まだ寝る必要ないでしょ」
「明日朝早いんじゃないの?」
「んーや、きっと大丈夫」
そういってから、女性は部屋の時計を煽り見て、
「でも、そろそろ寝た方がいいかもね」
と、ぽつりとつぶやきます。
「そうそう!」
女性は今思い出したというように、ぱっと笑顔を開きます。
「とりあえずこっち来て!そういえば、今日はいいものがあるんだよね」
そう言うと、るんるんと部屋の奥に向かう女性。
言われるがままにあとをついていくふうりん。ポヨは、ハテナ。
女性は部屋の奥まで入って、机の上に置かれていた、赤くて丸い石をふうりんに見せました。
「これですよー。私が今日道ばたで偶然拾ったのは」
「へぇー」
ただの赤い石かと思いきや、その石はうっすら透けていて、綺麗な宝石のように見えないこともありません。
「綺麗だよね。折角なので、ふうりんにプレゼント、はい」
それだけいって、赤い石をふうりんに押しつける女性。
「プレゼント・・・珍しい・・・」
「なんでやねん」
ふうりんの感想に、つっこむ女性。
そして一人でかっかっかと笑って、女性は再度、部屋の時計を見ました。
それから一呼吸置いて、女性はふうりんに声をかけます。
「んー、やっぱり眠くなってきた。私はそろそろ寝るね。」
「ああ、どうもプレゼントありがとう」
「どういたしまして。おやすみ」
「おやすみ」
赤い石を見つめながらも、返事を返すふうりん。
早速ベッドに潜り込んでしまう女性を見て、ふうりんはなんとなく渋い顔をしてみました。
「わざわざこのためだけに、起きてたのかな・・・」
女性はそう、ふうりんの飼い主でした。名前は遠藤 千晶。
飼い主といっても、彼女の職業はフリーター。収入はふうりんの方が多いという、何とも不思議な関係です。
ふうりんと出会ったのは、まだふうりんが転生していない頃だったでしょうか。
ほとんど偶然に一緒に暮らすことになってしまった二人でしたが、いまでは結構仲良くやっています。
ふうりんは女性がほとんど寝てしまったのを確認してから、玄関の扉を開け、静かに家を出ることにしました。
下手に物音を立てて、眠りを妨げてしまうのは申し訳ないような気になったからでした。
手には、先程もらった赤い石。
外の寒さが気がかりでしたが、あえて何も身につけず、この際だから気にしないことに。
音を立てないよう注意深く扉を閉め、階段を下って、ふうりんの足は、アパート近くの公園へと向かいます。
近年の防犯ブームのためでしょうか、公園の周囲を囲む電灯は普通よりも多く、
公園内は昼間のよう、とは言わないまでも、かなりの明るさです。
そんな公園の端のベンチに、一人腰掛けるふうりん。
無意味に足をぶらぶらさせてみたり、立ち上がって座り直したりを繰り返しましたが、どうも落ち着きません。
「ただ眠るのを邪魔にしたくないだけなら、家で静かにしておけばよかったのに・・・」
ふうりんの心は、言葉とは別のところにありました。
表紙の収録で登場した、キャラクターという言葉。
ふうりんは一応、ツッコミ兼冷静といったキャラクターに収まっているように見えましたが、本音は違っていました。
「表紙ではツッコミのごときポジションで、編集部での業務はそつなくこなしているつもりだけど、
家ではまるでそんなキャラクターはいない。どういうチャオなのかな、私は・・・」
口に出したのは、久しぶりでした。
しかし何度考えても、答えの出せない話でもありました。
そんなときでした。
公園の奥手の茂みから、何か生き物が飛び出してきたのは。
物音に気付いて、ふうりんは伏せていた顔を上げます。
公園の中央に、電灯に照らされたベージュ色のフェレットが一匹。しかも、ひどく傷ついているように見えます。
それを見て、すぐに介抱の必要性を感じたふうりんでしたが、フェレットは何かを危惧しているかのように
きょろきょろと辺りを見回し、公園の反対側へと駆けていってしまいます。
それを見たふうりんの脳裏に、何かが引っかかりました。
「あれ、あのフェレット・・・キラキラしていなかった?」
そう、本来小動物は、特殊なキラキラの光を周りにまとっているはずです。
もしまとっていないならば、それはチャオにキャプチャされて間もない小動物。当然、長くは生きられません。
ふうりんがそれに気付いた、そのときでした。