01-A

3月30日金曜日、午後10時
そろそろ人々が眠りにつき始めるこの時間帯、ステーションスクエアにそびえるとあるビルは、まだその明かりを絶やさずにいました。
そう、週刊チャオ編集部。

魔法チャオ女るるかるふうりんはここ、週刊チャオ編集部会議室から始まります。


「毎度おなじみ、週チャオ表紙の小説講座～」
「今日のテーマは、登場人物を考えること！！」
チャピルとかいろの2人のタイトルコールで始まるのは、おなじみ週刊チャオの表紙です。

「登場人物って言いますけど、チャオも含むわけですよね？」
ふうりんの質問に、
「もちろん！オモチャオだって小動物だって、小説に登場していれば何でも含む！！！」
かいろくんは無駄にビックリマークの多いセリフで答えます。

「その人物やチャオやオモチャオetcには、必ず、それぞれの個性があるはずです」
「それを具体化していくのが、いわゆる『キャラ作り』なんだあああ！！」
「ふむー、でも、いちいちそんなことしなくても、書けるような気もしますけど・・・」

会議室の机の上にあるのは、一台の録音機。
これを使って会話を録音し、それを文章として打ち込むという手順を取っているのです。
録音機の静かな動作音をバックに、続く表紙の収録。

「この辺りの設定がしっかりしていないと、作者でさえもこんがらがって、わけが分からなくなってしまうこともしばしば」
「多すぎるということはないぜ！しっかり考えてみよう！」
「もちろん、現実の人物の行動や考えは複雑で、一通りではないんですが、
　小説の場合はある程度単純に、割り切ってしまってもいいかもしれませんね」

チャピルはセリフを発したあと、ちらりとかいろくんに視線を送りました。
ふうりんは、それを何気なく目に入れます。

「前々から思ってたんですけど、かいろ君って、厳粛な場面にでたときはどう振る舞うんです？
　例えば・・・・・・結婚式に呼ばれたときには？」
「当然！心の底からエールを送るぜ！うおおおおおおお！！！」

拳をかまえて燃えるかいろくんに、ふうりんは何とも言えない表情を浮かべます。
「・・・これが割り切った結果ですか？」
「いや、かいろ君は元から・・・」
どことなく笑みを含みながら、それに答えるチャピル。


ピッ

チャピルが録音機の停止ボタンを押し、収録が終了しました。
「もう終わりか！！！」
残念そうな顔のかいろくん。
「いつもこんな短さじゃないですか。また来週」
ふうりんはさらりと答えます。

かいろくんは、一介のオモチャオです。
ですが、他のオモチャオと違うのは、とにかく熱血していること。
奉仕精神に富んでおり、普段は街の人の手伝いやボランティア活動に参加しています。
表紙への出演を決めたのは、その辺りの一環の節も、あるいは彼の目立ちたがりな一面の表れとも言えます。

録音機を片付け始めるチャピル。
「ちょうどキリも良かったですしね。
　もっと続けたいなら、来週は何かたくさん語れるネタを考えておいてはどうでしょう？」

チャピルは表紙に登場する唯一の人間で、編集部の表紙担当。
この対談形式の表紙が組まれたのも、彼のやる気が底辺を這っていたときの思いつきからです。
性格は何とも言えませんが、ノリのいい時は、かいろくんに似たところがあるように思えます。

「うおおおおおおおおお！！！！！！
　それならば、話は早いぜ！！待ってろ来週！！！」
またまた目に炎を浮かべるかいろくん。

そんなかいろくんを尻目に置きながら、ふうりんは既に会議室の壁まで行き、電気のスイッチに手をかけています。
「じゃあ、切りますよ―」
チャピルはさっそくドアを開けて、事務に戻る気満々。
「おっと」
追ってそのドアを出るかいろくん。
そして、真っ暗になる会議室。最後にそのドアを出るふうりん。



「はーい、じゃあふうりんお疲れー」
「お疲れ様でしたー」
チャピルやかいろくんと分かれると、ふうりんは他の編集部員よりも一足早く、編集部ビルの外へ出ます。
今日は金曜日、編集部員の多くが発行を翌日に控え、忙しくしている編集部ですが、彼女にはあまり発行は関係ありません。
と、いうのもふうりんは編集部で広報の担当。
たまに雑用に当たることはあっても、むしろ発行後の方がいろいろと忙しいのです。

3月とは言っても、まだまだ夜は冷え込みます。
ふうりんの足は、いそいそと帰路へと向かいます。
「キャラクター、ねえ・・・」
ふうりんのはきだした溜息が、その場ですぐに白くなりました。

ふうりんは公園の側を通り過ぎ、とあるアパートへと向かいます。
ふうりんの住む部屋は、そのアパートの三階にありました。
「ただいまー」
ドアノブを掴み、そのまま家の中に入るふうりん。
「おかえり！」
ふうりんを迎えるのは、一人の若い女性。