第42章:迫る終焉、その楽曲の奏手たち
惑星ライオット付近に、この銀河の大半の部隊が集結してからおよそ3日。
両軍は睨み合いを続けていた。
その中の1隻、連合のオリオン級戦艦・バーナードの廊下。
【シャーロット】「…ったく、あたしはそんな大層な人間じゃないってのに、交渉の材料に使ったとか何とか…新しい大統領は何を考えてるんだか」
シャーロットがそう愚痴をこぼしながら歩く。
【シャーロット】「大体ハーラバードの連中はともかく、なんで連合がこんな場所に拘るんだろうねぇ…」
ライオットに集まるよう自分の名前を出して他勢力に迫ったのは、ハーラバード家ではなく連合だと彼女も噂で聞いていた。何故何の関係もないはずの連合がこの場所に集まるよう迫ったのか。疑問は尽きなかった。
【第42章 迫る終焉、その楽曲の奏手たち】
【シャーロット】「ところで…機体の方は大丈夫なんだろうな?」
そう訊いた相手は、彼女の後ろからついて歩いていた連合の重工業企業の技術主任、ウィレム=ヘリクソン。
【ウィレム】「問題ありません。調整完了しています」
実は、あのΣ小隊を屠った戦い以降、連合は大混乱に陥ったため、彼女とフォーマルハウトはほとんど実戦機会がないままこの場にいるのだ。彼女が機体について気にしているのはこのためである。
【シャーロット】「…なら、いいけどね」
シャーロットはそう軽く返し、歩みを進めていった。
一方、クロスバード。
こちらは魔女艦隊の1隻として組み込まれたままこの決戦を迎えていた。
【アンヌ】『しかし、壮観ですわね…』
【カンナ】「まぁね…あんまりいいものじゃないんでしょうけども」
魔女艦隊の総指揮官、アンヌ=ドゥイエットとカンナが通信で話す。
彼女達が話す通り、見渡す限り戦艦、戦艦、戦艦。敵味方合わせて約2万隻の戦艦がこの場に集結しているのだ。
【アンヌ】『とはいえ、数ではこちらが不利…オマケに向こうには蒼き流星もいる…これは相当頑張らないといけませんわね』
【カンナ】「そうね…これだけ互いに数が多いと、戦術が余り意味を成さないでしょうし…」
右も左も上も下も戦艦だらけ。こうなると、例えば敵の側面を突くといった戦術を取るのが難しい。敵艦の側面に移動しようとしたところで別の敵艦がいるだけである。そうなると、純粋に火力勝負の面が強くなる。数で劣る彼女たちにはやや厳しい。
そもそも敵は3大勢力の1つである連合が(大統領暗殺事件以降混乱しているとはいえ)ほぼ全軍いて、さらに同盟と共和国から離反した軍勢が組み込まれているいるのに対し、こちらはあくまでも互いに戦力を削がれた同盟と共和国の共闘に過ぎない。戦力差は明らかである。
【シュンリー】『しかし、まさか参謀総長閣下自らおいでになるとは…』
【エルトゥール】『50年続く戦争が終わる瞬間を、この目で見たくなっただけだよ。そういう意味では、ただの子供さ』
同盟軍第2艦隊総司令であるシュンリー=グェン元帥と、エルトゥール=グラスマン参謀総長がそう通信で話す。
参謀総長は基本的にこの銀河全体の軍事戦略を司る人間であり、個々の戦場に出ることはまず有り得ない。しかし、両軍共にほとんどの軍勢がこの場にいる現状で、アレグリオに籠っている意味など無かった。
【エルトゥール】「しかし、現場は何年振りだろうねぇ…」
窓の外の無数の艦隊を眺めながら、ふとそうつぶやいた。
実は彼がこの場に来たのにはもう1つ理由があったのだが、それを知る者はここにはいなかった。
再び、クロスバード。引き続き、カンナとアンヌが通信で話す。
【アンヌ】『あとは、どこが仕掛けるか…』
【カンナ】「一応こちらとしては、とりあえず何かない限りは仕掛けない、という話よね?」
【アンヌ】『ええ。余りにも睨み合いが続くようでしたらまた話は違ってきますが、現状では』
…そんな話をしていた、まさにその時だった。
向こう、つまり敵側から、一筋の光が伸びたのだ。
【カンナ】「!?」
【アンヌ】『どこですか!?』
アンヌが急いで状況を訊く。ドミトリーが推測して答えた。
【ドミトリー】『あのエリアですと…恐らくサグラノです!』
【アンヌ】『という事は…恐らくあの馬鹿野郎ですわね…しびれを切らしたのでしょう…各員、急いで戦闘準備を!』
アンヌの推測通り、仕掛けたのはこの人だった。
【ソウジ】「ええい、もう我慢ならん!!どうせやり合うのだ、仕掛けるぞ!!」
サグラノ家当主の次男にしてサグラノ家艦隊総司令、ソウジ=サグラノ。
旗艦・カグラヅキのブリッジを我慢ならない様子で歩き回りながらそう叫んだのだ。
【副官】「ですが、向こうがおびき寄せてきた以上こちらからは仕掛けるなと会議で…」
副官はそう言い止めようとしたが、
【ソウジ】「構わん!!どうせ負ければ死ぬのだ!!それなら俺は勝って英雄になる方に賭ける!!」
そう振り切り、戦端を開いた。
【ソウジ】「例のスイーツガールもいると聞く…ケレイオスでの恨み、ここで晴らしてくれる!!全軍、攻撃開始!!」
最初の一筋に続き、次々と光が伸びていく。
やがてそれに呼応するかのように逆側からも光が伸び始め、それが互いに広がっていき、無数の光が飛び交う戦場となった。
【アーノルド】『サグラノが仕掛けたか!!』
【アルフォンゾ】『…よろしいですかな?』
【エルトゥール】『あぁ、構わない。だが各艦、無理はしないように!』
【アルベルト】『あの馬鹿坊主め、我慢というものを知らんのか!!』
【イブラヒム】『こうなったら仕方なかろう。我々も戦うまでだ』
このようにして、両陣営共に、サグラノ家に呼応するように次々と攻撃を開始した。
そして、クロスバードも。
【カンナ】「あたしらも行くわよ!ミレア、前に!」
【ミレア】「はい!」
カンナの指示で、ミレアがクロスバードを前進させる。
【ゲルト】「主砲、副砲準備、オッケー!」
【カンナ】「こんな数だし、撃てばどっかに当たるでしょう…という希望的観測で!撃ぇーっ!!」
カンナがそう叫び、ゲルトが主砲・副砲を同時に発射。
それは果たしてカンナの言う通り、どこかの敵戦艦に命中し、爆散していった。
【カンナ】「人型兵器も出すわよ!みんな、準備はいい?」
続いて格納庫のジャレオに連絡する。
【ジャレオ】『ええ、各機問題ありません!』
【カンナ】「ジェイク、アネッタ、パトリシア、オリト君…お願いね!!」
それに対し、それぞれが「ああ」「ええ」と返事を返す。
【ジェイク】『ジェイク=カデンツァ、アルデバラン、行くぞ!』
【アネッタ】『アネッタ=クレスフェルト、アークトゥルス、行くわよ!』
【パトリシア】『パトリシア=ファン=フロージア、カペラ、出るよ!』
【オリト】『オリト、リゲル、出撃します!』
各員がそう告げながら、4機が次々とクロスバードから出撃していった。
【シャーロット】「始まったか…」
一方、こちらもバーナードの一室から戦いが始まった様子を眺めていた。
【ウィレム】「参謀官より、貴殿は自由に出撃して構わない、との連絡を受けております」
そうウィレムが告げる。彼女は今や圧倒的な戦力を持っており、既存の指揮系統を超越した存在にまでなっていた。「蒼き流星」とは別に「一人艦隊」などと言い出す者まで現れたほどである。
【シャーロット】「ま、勝つにせよ負けるにせよこれで終わりだろうから、もうどうでもいいんだろうねぇ」
シャーロットはそんな噂話も意識してか、そんな風につぶやいた。
そして、何かを考えるようにしばらく外を眺めた後、こう決心した。
【シャーロット】「…行くよ!」
【ウィレム】「はっ!」
フォーマルハウトのコクピットに座り、目を瞑ったまますぅ、と1回息を吸う。なんだかんだあったせいで、この椅子も久しぶりである。
そして、ふっと息を吐き、目を開いてこう叫んだ。
【シャーロット】「シャーロット=ワーグナー、フォーマルハウト!出撃する!!」
青い流星が一筋、戦艦から流れていった。
【アンヌ】「皆さん、前に出過ぎないように!慎重に進んで下さい!」
アンヌがそう指示する通り、魔女艦隊はゆっくりと前進していく。クロスバードも然りである。
ところが、そんな魔女艦隊に迫ってくる艦隊の姿があった。
【ドミトリー】「アンヌ様、前方より1艦隊規模の敵集団が前に出てこちらに向かってきます!」
【アンヌ】「見えてますわ!…このタイミングで勝負を仕掛けてくるとは、いい度胸ですわね…で、どこか分かりますかしら?」
【ドミトリー】「識別信号解析…ありました!…同盟軍第3艦隊!」
【カンナ】「!?」
それを通信で聞いた時、動揺したのはカンナその人である。理由はシンプル。
【イレーヌ】「さぁ、スイーツガールの小娘たち…どれだけ成長したか、見せてちょうだい!」
立ちはだかるのがかつてケレイオスで共に戦った、イレーヌ元帥率いる同盟軍第3艦隊だからである。