第40章:魂は此処に、弾丸は彼方へ、運命は銀河へ

【パトリシア】『時に、艦長さん及び皆さん…一計があるんだけど、聞いてくれねぇか?』
出撃した直後、パトリシアがそう通信で話しかけた。
【カンナ】「何かしら?」
【パトリシア】『まだハーラバードにはあたしがここにいるって割れてねぇ。だったら…』

それを聞いたカンナは頷きながらこう答える。
【カンナ】「成程ね!いいわ、シンプルだけど有効だと思う!やってみて!」
【パトリシア】『了解!それじゃ、先行するよ!』
そしてパトリシアは一気にカペラを加速させ、先頭に出た。


        【第40章 魂は此処に、弾丸は彼方へ、運命は銀河へ】


パトリシアのカペラが降下してくるハーラバード家の部隊と接触すると、こう通信を入れる。
【パトリシア】『あー、あー、あたしだ!識別番号AX452978、Σ小隊のパトリシアだ!ドゥイエットから逃げ出してきた!』
勿論、ドゥイエット家から逃げ出したというのはブラフである。ここはドゥイエット家の惑星フレミエール。そうした方が都合がいいと判断したのだ。

【兵士A】「な、何だって!?」
【兵士B】「あの小隊は全滅したと聞いていたが…生き残りがいたのか!?」
【兵士A】「識別番号、機体共に間違いないようですが…どうしますか!?」
【兵士B】「分かった。とりあえずこちらで…」
と、2機がカペラに接近したところを、

【パトリシア】「…なーんてな!戻る訳ねぇだろうが!!」
2丁のビームライフルで一閃。
【パトリシア】「2機、撃墜!」

【フランツ】「…でも、本当に戻られたらどうするつもりだったんですか?」
フランツが少し心配そうに尋ねる。
【クリスティーナ】「その為のリモート自爆装置ですよー。ま、それも覚悟の上で、とかされたらどうしようもないっすけどねー」
【カンナ】「ま、そこを疑ったらキリがないし、そんなのクロスバードらしくない、でしょ?」
【フランツ】「それもそうですね…」

それはさておき、こうなるともう、全面衝突である。
次々と降下しながら猛攻をかけるハーラバード家の部隊に対し、競うようにそれを撃ち落としていくクロスバードの4機。

【ジェイク】「いいねぇ、これ!自由自在だぁ!」
ジェイクのアルデバランの最大の特徴は、2本の大型ビームセイバーにある。
両手で持って二刀流のようにするも良し、柄の部分で繋げて両剣のようにしても良し、そして2本を束にすると大型のビームソードになる。
パイロットのアイデア次第でどのような戦い方もできるのである。
ジェイクはそれを一つずつ試すように、敵を滅多切りにしていく。

【アネッタ】「…実際動かしてみるとやっぱり重射撃タイプね…軽射撃だとパトリシアと被っちゃうからラッキーだけど!」
アネッタのアークトゥルスは、本人も言う通り重射撃タイプ。携行型の大型のビームランチャーが最大の特徴である。
この他にも肩口に二門のビームキャノン、腰の部分に実弾のミサイルランチャーと、機動性は他の機体にやや劣るがそれを補って余りある火力を有している。
アネッタはそれを一つ一つ確かめるように、敵を墜としていく。

【パトリシア】「新型は羨ましいけど…二人には負けてられないねぇ!」
パトリシアのカペラはアネッタも言っている通り、軽射撃タイプの機体である。その機動力と連射性能でエステリアでの戦いではアネッタを苦しめたが、今は何より心強い。
ビームライフルを二丁、小型のビームマシンガンを二丁、更に散弾銃のようなビームスプレッドを装備し、状況により使い分ける。
パトリシアはそれを慣れた手つきで次々と持ち替え、敵を葬っていく。

【オリト】「俺は三人のようにはいかないけど!」
対して、オリトのリゲルはチャオ用の量産機であり、三人のようにはっきりとした特徴のあるワンオフ機という訳ではない。
そもそもただでさえ軍属が少ないチャオで人型兵器乗りはほとんどいないため、チャオ用のワンオフ機はどの勢力にも存在しない。
オリトのリゲルはジャレオが特別にチューンナップしているので、通常の機体よりも機動性は上がっているが、それも「飛びぬけて高い」という訳ではない。
だが、主に三人が撃ち漏らした機体に狙いを定め、降下してきた敵機を確実に撃墜していった。

【ゲルト】「…なぁ」
【カンナ】「ゲルト、どうしたの?」
【ゲルト】「俺の仕事、ないんだけど…」
【カンナ】「兵士の仕事がないっていうのは素晴らしいことじゃない?」
【ゲルト】「いやそれはそうなんだけどさぁ…」
当初の予定では、この4機が撃ち漏らした敵機を、クロスバードが撃ち落とすはずだった…のだが、4機が大体撃ち落としてしまい、クロスバードの出番はほぼ無し。
特に火器管制を担当するゲルトは久々に仕事ができると張り切っていたのだが、これである。

そうこうしているうちに気が付くと敵機の降下がなくなり、アンヌから敵の出現が止まったとの連絡も入る。かくして、クロスバードは撤収することになった。


数時間後、フレミエール基地内、魔女艦隊旗艦・プレアデスのブリッジ。
各艦の艦長クラスがアンヌのもとに集まっていた。もちろん、カンナも。

【アンヌ】「無事に敵部隊は撃破できましたが…現在の状況はあまり良くありません」
そうアンヌが切り出し、状況の説明を始める。
【アンヌ】「今回の一件でハーラバード家の離反が確定。さらに先ほど、サグラノ家も正式に今回の共同作戦に同調せず、離反する旨を発表いたしましたわ」
【カンナ】「それじゃあつまり、共和国は真っ二つに…!?」
【アンヌ】「幸いルスティア家は協力する旨の返事をいただいておりますので、そういうことになります」
【カンナ】「外部のあたしが言うのもあれだけど…もう共和国じゃなくなっちゃったのかな…」
【アンヌ】「かも、知れませんわね…」
あまり国家としての体を成していなかったとはいえ、祖国は祖国である。アンヌは少し寂しそうな表情を見せた。

【クーリア】「すいません、失礼します!」
そこに、クーリアが慌てた様子で入室してくる。
【カンナ】「どうしたの?慌てて」
するとクーリアはカンナに耳打ちをした。「それ」を聞いたカンナも、表情が一変する。

【アンヌ】「どうされましたか?差し支えなければ…」
【カンナ】「…同盟も、ぶっ壊れたわ…」
【アンヌ】「…へ?」
カンナの突拍子もない言葉に、アンヌも思わず声が出てしまう。

カンナは少し頭の中を整理した後、再度こう切り出した。
【カンナ】「…ごめん、ちゃんと説明するわ。同盟も反共和国感情の強い一派が離反を表明…具体的には第3・第5・第6がアウト…」
カンナは省略したが、言わずもがな、艦隊のことである。海溝派に属する第3、第5、第6艦隊。
【アンヌ】「ほぼ半数じゃないですの!?」
さすがのアンヌも驚いてしまう。同盟の艦隊は全部で7つ。そのうち3つが離反してしまったのだ。

【ドミトリー】「こちらから離反した2家は、我々と同盟への反発心から逆に連合へと合流する意思を示しています。奇妙なことにはなりますが、恐らく同盟の3艦隊も…」
アンヌの副官であるドミトリーが状況を予測する。それにアンヌが続ける。
【アンヌ】「ええ…何が一番まずいかと言えば、今まで銀河が3分割だったから小競り合いで済んでいたこの戦争が、2つの勢力による全面衝突になってしまう…」

が、カンナはこう切り出した。
【カンナ】「…それなら、むしろ好都合、とは言わないけど…この戦争を終わらせるチャンスかも知れない…!」
全面衝突となれば確かに大きな戦いになってしまうかも知れないが、逆にそれが終わってしまえば勝った方が勝者としてこの戦争を終わらせることができる。それを聞いたアンヌもなるほど、と同調した。
【アンヌ】「確かにそうですわね…考え方を変えれば、500年続いた戦争を終わらせる最大の好機なのかも知れません。それならば、一気に終わらせてしまいましょう、この戦争を。皆さん、よろしいですわね?」
アンヌのその問いかけに、その場にいる全員が頷いた。

このページについて
掲載日
2021年10月30日
ページ番号
44 / 51
この作品について
タイトル
【Galactic Romantica】
作者
ホップスター
初回掲載
2020年12月23日
最終掲載
2021年12月23日
連載期間
約1年1日