第39章:4つの星と1つの希望、それは鼓動
惑星フレミエール・共和国軍基地。
魔女艦隊と共にクロスバードが入港し、出迎えを受けていた。
【カンナ】「まさか同盟のあたしらがまたここに来るとはね…しかもこんな形で」
【パトリシア】「元共和国民のあたしもここに来るのは初めてだけどね…この国は基本宗家ごとにバラバラだしなぁ」
【ゲルト】「ま、こっちも海溝派の基地とか易々とは入れねぇから、どこも似たようなもんってこったな」
【フランツ】「連合は基本的に一枚岩でしたけど、それも大統領暗殺でどうなるか…」
【アンヌ】「さ、こちらへどうぞ。このフロアをお貸ししますので、好きに使って頂いて構いませんわ」
アンヌはそう言い、基地の1フロアをしばらくX組に貸すと告げる。さらに、
【アンヌ】「あと、連絡員として、彼を付かせますわ。…いらっしゃい」
そう手招きされX組の前に現れたのは、1匹のチャオだった。
【オリト】「えっと…確か…ルシャール!」
以前魔女艦隊と行動を共にしていた際に、オリトの世話係になったチャオである。
【ルシャール】「やぁやぁ、久しぶりだねー。覚えていてくれて嬉しいよ」
【第39章 4つの星と1つの希望、それは鼓動】
【ルシャール】「しかし、君も今や銀河で有名なチャオになったもんだねぇ」
【オリト】「俺がですか?…いや、皆さんはともかく、俺は別に取材とか受けてないですし…」
そうオリトは否定するが、ルシャールはこう続けた。
【ルシャール】「いやいや、ネットでは話題だよー。スイーツガールに1匹チャオがいて大活躍してるって」
【オリト】「え、ええっ!?いや、大活躍なんて…ちょっと手伝ってるだけですよ!?」
驚くオリト。
実際、彼は知らなかったが、オリトの存在については同盟も一切公表していないにも関わらず、どこからか噂が流れ出し、さらに回りまわって大きくなっていたのだ。
ルシャールはさらに続ける。
【ルシャール】「話の真偽は既に大きな問題じゃない。今や君は勢力を問わず、兵士として戦っているチャオ達の希望と言ってもいいんだ。更なる活躍を期待しているよ」
【オリト】「は、はぁ…」
話の展開の急さにオリトはついていけず、そう生返事するのがやっとであった。
【パトリシア】「…なぁ、ちょっと聞いてもいいか」
今度はパトリシアが尋ねる。
【ルシャール】「あぁ、ハーラバードにいた大統領暗殺犯の生き残りのお姉さんだね。アンヌ様から話は聞いてるよ」
【パトリシア】「…なら話は早いな。分かる範囲で構わねぇ。ハーラバード、どうなってる」
そう、故郷(?)について尋ねた。ただこの質問は彼女にとってはどちらかというと、ルシャールを試すような意図があった。
【ルシャール】「それがねぇ…一応協力要請はどの家にもかけてて、ルスティアは前向き、サグラノはさすがに無理そう、って感じなんだけど、ハーラバードはのらりくらりと生返事なんだよねー。特殊部隊全滅で混乱してるのか、あるいは何か意図があるのか…読みかねてるって感じかなー」
【パトリシア】「そうか…ま、あたしがいた時から本家は何考えてんのか分かんない節があったし、きっと何か企んでるんだろうさ。…ありがとうな」
そうお礼を言い、ルシャールを撫でた。
【ルシャール】「いやー、ありがたいけど撫でられるのはちょっと慣れてないねー」
【パトリシア】「なんだ照れてるのかー?チャオは撫でられるのが仕事だろー?…って悪い、これは不謹慎だったか」
パトリシアがそう謝った瞬間、クロスバードのクルーには聞き慣れない警報音が鳴った。
最も、クロスバードのクルーが戸惑ったのは当然の話で、同盟と共和国では警報音が違う。
…だが、先ほどまで会話していたルシャールとパトリシアはすぐに反応する。ルシャールは現場の兵士だから当然だし、パトリシアも先日まで共和国の兵士だった訳でこちらも体がすぐに反応した。
【ルシャール】「!?」
【パトリシア】「どうした!?」
すぐにルシャールの個人端末にアンヌから通信が入った。
【アンヌ】『敵襲ですわ!申し訳ないですが、クロスバードの皆さんにもご協力をお願いします!』
【カンナ】「て、敵襲!?とりあえず、行くわよ!」
クロスバードのクルーはまだ戸惑いながらも、司令室へ向かった。
【パトリシア】「っつーか癖で体が反応しちまったけど、ドゥイエットってハーラバードと警報音同じなのか?」
【ルシャール】「僕がハーラバードを知らないから何とも…でもこの辺は共和国で共通って聞いたことある気がするなぁ」
移動しながら話すパトリシアとルシャール。
【ルシャール】「それにしても、ここに敵襲って…どこなんだろうねぇ?」
フレミエールは共和国の勢力圏でもそれなりに奥にあり、同盟や連合からの大規模な攻撃は難しい。
Σ小隊によるエステリア強襲のような奇襲であれば可能だが、果たして、敵はどこなのか―――
数分後、X組の面々がアンヌのいる司令室に到着。そこでいきなり、アンヌはこう告げた。
【アンヌ】「いらっしゃいましたわね。…非常に言いにくいのですが…」
そこで一呼吸置き、
【アンヌ】「…ハーラバードですわ」
【パトリシア】「…!!」
敵はハーラバード家。さすがのパトリシアも少し驚く表情を見せる。
【カンナ】「いきなりこうなるとはね…パトリシア、今回は休んでいた方が…」
とカンナが言いかけるが、パトリシアはこう遮った。
【パトリシア】「やるさ。そういう覚悟が無けりゃ、ここには居ねぇよ」
【カンナ】「それなら、止めないけど…」
カンナは少し心配そうに言った。
【アンヌ】「…では改めて、状況を説明いたしますわ。敵は上空3万kmの衛星軌道付近に超光速航行を利用して出現、大規模な降下作戦を敢行していますわ。現在はこちらの抗戦により、地上までの降下は散発的なものに防げていますが、これ以上続くようですと…」
【カンナ】「要は降下してくる敵を撃ち落とせばいいのね?」
【アンヌ】「まぁ、ざっくり言ってしまうとそういう事になりますわね」
その後、担当するエリアなどを詰めた後、改めてカンナが正式に命令を出す。
【カンナ】「…それじゃ、いくわよ!スイーツガール改めスイーツウィッチ、出撃!」
【クーリア】「スイーツウィッチ?まさか…」
聞きなれない単語に首を傾げるクーリア。
【カンナ】「ええ。魔女艦隊にいるんだから、スイーツ好きの魔女、コードネーム:スイーツウィッチよ!」
【クーリア】「…滑ってます」
クーリアがつぶやく。
【カンナ】「えぇ…自分的にはアリだと思ったんだけどな…」
【クーリア】「そもそもコードネームは勝手に呼ばれるものでしょう、スイーツガールだって気が付いたらそう呼ばれてたってだけの話なのになんで自分から喜んで使ってるんですか…」
【アンヌ】「あのー…、コントは後回しにしていただけますかしら…?」
思わずアンヌがこう言い、はっとした2人は慌てて司令室を後にした。
一行はクロスバードで担当エリアまで移動。その後、
【マリエッタ】「敵機、捉えました!かなりの数が降下してきます!」
【カンナ】「来たわね。人型兵器で迎撃するわ!ジャレオ、大丈夫!?」
【ジャレオ】『4機とも、いつでも行けます!』
格納庫のジャレオからそう通信が入る。それを聞いて、
【カンナ】「オッケー、それじゃ、みんな頼むわよ!!」
【ジェイク】「新機体での初陣だ!ジェイク=カデンツァ、アルデバラン、行くぞ!」
【アネッタ】「同じく、アネッタ=クレスフェルト、アークトゥルス、行くわよ!」
先を急ぐように出撃した2機の後に続き、こちらも出撃する。
【パトリシア】「さすがにお二人は元気で羨ましいねぇ!…パトリシア=ファン=フロージア、カペラ、出るよ!」
【オリト】「何とかみんなについていかないと…オリト、リゲル、出撃します!」
かくして、クロスバードから4機の人型兵器が出撃。やがて上空から降下してくるハーラバード家の機体と激しい撃ち合いになり、交戦が始まった。