第38.5章:その瞳の奥に映るは、星々の光
カンナ、アンヌ、マリエッタがプレアデスで話し合っていた、その頃。
クーリアとパトリシアが、ある場所を訪れていた。
【クーリア】「これは…取り壊されてますね…」
【パトリシア】「なんだかんだで派手にドンパチやっちまったからなぁ…お役御免って奴なんだろう」
そこは、以前グロリアを訪れた際に戦いの舞台となった、共和国系の企業が入っていたビル。
既に使われなくなり、取り壊し工事の真っ最中であった。
【第38.5章 その瞳の奥に映るは、星々の光】
【クーリア】「…で、改まって何の用でしょう?」
クーリアが改めて尋ねる。誘ったのはパトリシアだ。
【パトリシア】「あぁ、ちゃんと言っておかねぇと、って思ってな。
…あの時は敵同士だったとはいえ、ケガまでさせて本当にすまなかった…!」
そう言い、頭を下げるパトリシア。
このビル内で2人が戦った時のことである。
【クーリア】「いえ、敵同士が殺し合うのは何もおかしくないでしょう?わざわざ謝るようなことではありません。…それに、貴方の方が後に余程酷い怪我をしたじゃないですか」
クーリアがそうなだめるが、
【パトリシア】「いや、それはそうなんだが…あたしが頭を下げないと気が済まねぇんだ」
パトリシアはそう言い止めなかった。
【クーリア】「…まぁ、そこまで言うのであれば止めはしませんが…そうですね、例えばちょうどこの場に来ていることですし、模擬でもう一度戦ってみますか?最も、私は誰かさんとは違って凡人なので勝負は決まっていますけど」
と、クーリアが冗談めかしてそう答える。
【パトリシア】「いやいやいや、自分で言うのもアレだけどあたしの攻撃凌ぎ切っといて凡人はねぇだろ…」
【クーリア】「アネッタの援護もありましたから。あとは運が良かっただけです」
【パトリシア】「あーあれ、やっぱアネッタだったんか。道理で厄介だった訳だ」
などと、思い出話(?)が盛り上がる。
そこでふと、パトリシアが語りだした。
【パトリシア】「…最近さ、思うんだよ。遺伝子改造で生まれて親はいない、ついでに脳もいじられて性格改変されてるっぽい、オマケについには右手右脚が吹っ飛んで機械になったときたもんだ。…あたしは、本当に生きてるのか?本当に人間なのか?…この世界にいる意味は何なのか?ってね…」
そう言いながら、自らの右手を見つめる。その手は既に人工皮膚になっていて、外見だけでは機械のそれだとはもう分からない。
それを聞いたクーリアはしばらく黙るが、こう答えた。
【クーリア】「…そういうことを考えることができるうちは、人間ですよ、貴方は」
【パトリシア】「だと、いいんだがな。…あ、ガラじゃねぇし恥ずかしいからあんま他人には言うなよ?」
【クーリア】「心配ありません。バッチリ録音しておきました」
【パトリシア】「なっ…!?」
クーリアの言葉に一瞬顔が真っ赤になるが、
【クーリア】「…冗談です」
【パトリシア】「心臓に悪い冗談やめてくれよ…」
そう苦笑いするしかなかった。
【クーリア】「…そういえば」
【パトリシア】「何だ?」
今度はクーリアが話を切り出す。
【クーリア】「古い文献によれば、『パトリシア』という名前は親しい間柄では『パティ』と略して呼ばれていたそうです」
【パトリシア】「ぱ、ぱてぃ…!?」
思わず凍り付くパトリシア。
【クーリア】「折角仲良くなったのですから、『パティちゃん』と呼んでも差し支えないでしょうか?」
【パトリシア】「や、やめろぉ!その呼び方は体のあちこちが痒くなる!そもそもちゃん付けって時点で色々ヤバイ!頼むから普通にパトリシアって呼んでくれ!!」
再び顔を真っ赤にして叫びだすパトリシア。
【クーリア】「…冗談です」
【パトリシア】「はぁ、はぁ…寿命が縮む…ただでさえ普通の人間と同じ寿命かどうか怪しいってのに…」
そこまできて、今度はパトリシアがこう切り出した。
【パトリシア】「っていうか逆にあれだ、クーリアのミドルネーム!お前、アレクサンドラってガラじゃねーだろ!」
【クーリア】「なっ…!」
ミドルネームで反撃開始。
【パトリシア】「あたしも詳しい訳じゃないが元々は確かえっらい勇ましい名前だったはずだぞ!」
【クーリア】「仕方ないでしょう、オルセン家は代々ミドルネームを付けるのが決まりですし、そもそも生まれたばかりでその人の性格は分かりようがないのでは!?」
【パトリシア】「それを言ったら人の名前なんてほとんどそうだろうが!あたしなんか顔も知らねぇどっかの研究者に名付けられてんだぞ!」
こんな感じでしばらくてんやわんややり合った後、
【パトリシア】「…帰るか…」
【クーリア】「…そうですね…」
用事も済んだのでこれ以上居る理由もないし、何より疲れたので帰ることにした。
クロスバードに戻る途中、パトリシアがこう話しかけた。
【パトリシア】「…しかしあれだな、クーリアってもっと堅物な冗談言わねぇキャラだと思ってたんだが…」
それに対しクーリアはこう答える。
【クーリア】「私だって冗談の1つや2つ言いますよ。…まぁ、X組の皆さんのおかげ、ではあるんですけども」
【パトリシア】「ってことはあれか、昔はもっとこう…だったのか?」
【クーリア】「…ご想像にお任せします」
そこについては、クーリアは多くは語らなかった。
【パトリシア】「…ま、そうだよなぁ。いくらでも視力矯正ができるこのご時世でわざわざ眼鏡かけてる時点でそういうキャラしてるよなぁ」
【クーリア】「いや貴方に言われたくないですよ…」
と、クーリアはパトリシアの眼鏡を指しながら反論する。
【パトリシア】「これはファッションだよファッション!知的でクールでかっこいい眼鏡女子を目指してんのさ!…ま、そういう美的感覚をしてる時点で同じ穴の狢かも知れねぇがな」
そう言いパトリシアは笑い、さらにこう続けた。
【パトリシア】「…ま、眼鏡っ娘同士仲良くいきましょうや」
【クーリア】「今時そんな共通項で仲良くなるというのもどうかという気はしますが…そうですね、不思議と悪い気はしないですね」
沈んでいく夕日が2人を照らしていた。