第38章:墓前に祈るは未来か過去か

かくして共和国圏内へと向かうことになったクロスバード。
その準備中、マリエッタがカンナに相談を持ち掛けてきた。
【マリエッタ】「すいません、艦長さん…ご相談がありまして」
【カンナ】「マリエッタ、どうしたの?」
【マリエッタ】「その、共和国へ向かう際に、グロリアへ立ち寄っていただけますでしょうか?」
【カンナ】「構わないけれど…何か理由が?」
グロリアは同盟と共和国の境界線上にあるので、経由して向かうこと自体は簡単である。
ただ、カンナが念のため、と思い理由を聞いてみると、マリエッタは少し戸惑うが、こう説明しだした。

【マリエッタ】「えっと、建前と本音がありまして…
        建前としては、私これでも元王女ですから、グロリアで補給など融通を利かせることができますし、情報収集も可能です、ということ」
【カンナ】「確かに、理由も分からず敵国へ行ってこいなんて指令なんだし、物資や情報は多い方がありがたいわね。…で、本音の方は?無理にとは言わないけど」
【マリエッタ】「いえ、大丈夫です。…先ほど、グロリアにいる侍女のアイラから連絡がありました。…父、ジェームズ4世前国王が亡くなった、と」
【カンナ】「…!!」
それを聞いたカンナの顔つきが変わる。以前からもうあまり長くないと言われていたが、ついにその時が来てしまったのだ。
【カンナ】「そういう事は先に言いなさいよ!…こうしちゃいられない、急ぐわよ!」
【マリエッタ】「ですが、このような私事で軍の任務を後回しにするなど…」
【カンナ】「何言ってるのよ、早く着くように急いでるんだから後回しになる訳ないじゃない!それに…」
【マリエッタ】「それに?」
【カンナ】「あまりに寂しい最後の別れ方をしてきた人を、ここで見聞きしてきたでしょう?…そうは、させたくないから」

かくして、予定より早くクロスバードは第4艦隊を離脱。数日後、グロリア王国に到着した。


        【第38章 墓前に祈るは未来か過去か】


結論から言うと、マリエッタはジェームズ4世の葬儀には間に合わなかった。
ただ、久しぶりに姉のグレイスや妹のソフィア現女王など、家族と再会でき、話をすることができた。

その翌日、マリエッタはカンナと共に、小さい丘にある、ジェームズ4世の墓前に来ていた。
【マリエッタ】「こんな大変な状況でよく来てくれた、って何度も頭を下げられました。…本当に、皆さんのおかげです」
そう言い、カンナにお礼を言うマリエッタ。
【カンナ】「いえいえ、当然のことをしたまでよ」
【マリエッタ】「それに、こうして墓参りまでしていただいて…皆さんには本当に貸しばかりで、何もお返しできてなくて…」
【カンナ】「そんな、とんでもない!よく頑張ってくれてるわ。こちらこそ、本当はみんなで来るべきだったんでしょうけど、大人数でも迷惑でしょうし…」
【マリエッタ】「いいえ、こうして来て頂けるだけでとてもありがたいです。父も喜んでいるでしょう」

…そう2人が話しているところに、別の女性が現れ、こう話しかけた。
「…あら、こちらにいらっしゃったんですね。…探す手間が省けた、というところでしょうか?」

2人が振り向くと、そこには見覚えのある少女が立っていた。

【カンナ】「アンヌ=ドゥイエット…!?どうしてここに!?」

そう、これから共和国で合流する予定である『魔女艦隊』司令その人である。

【アンヌ】「いわゆる弔問、というやつです。聞いていなかったのでしょうか?」
【マリエッタ】「そういえば…!」
アンヌも共和国の4大宗家、ドゥイエット家の次女である。ドゥイエット家を代表して弔問に来ていたのだ。

【カンナ】「折角だし、共同戦線の話…詳しく聞かせてくれるかしら?」
早速カンナがそう切り出すが、
【アンヌ】「いずれお話するつもりですしそれは構いませんが…前国王陛下のお墓参りぐらいは、許してもらえないかしら?」
ここは墓前である。アンヌがさらりとかわした。

アンヌが墓前に花を手向け、手を合わせ祈る。しばらく祈った後、こう切り出した。
【アンヌ】「さてと…お嬢様3人で立ち話というのもなんですし、話す内容も内容ですから…私の艦へいらっしゃいませ。そこで詳細をお話しましょう」
【カンナ】「それは構わないけど…あたしは2人と違ってお嬢様じゃないわよ?」
と、カンナが否定するが、
【アンヌ】「何を仰ってますの?レヴォルタ家といえば同盟政界の有力一族でしょう?そこの長女がお嬢様ではない、なんて何の冗談かしら?」
とアンヌが返す。
【カンナ】「いや確かにウチは政治家一族だけど、王家とかそういうのとは違うし!民主制国家なのに世襲だって散々ネットで叩かれてるの知らないでしょう…!」
カンナがさらに否定しながら、3人で墓前を後にした。

そもそもX組は基本的にエリートの集まりである。もちろん家柄が選抜事項に入っている訳ではないが、優秀な者の子供はやはり優秀である、という比較的シンプルな論理もあり、X組メンバーの家族は基本的に各界で名を挙げている者が多い。
先ほどアンヌが説明したようにカンナはその最たる例で、父親は国民議会議員、その他の親族にも政治家が少なくない。「スイーツ大好き艦長」として有名になった際も、「将来は遅かれ早かれ政界進出だろう」という評論が目立った。最も「スイーツ評論家にならなければ」、という前書き付きだったケースも多いが。


グロリアの宇宙港に停泊している、魔女艦隊旗艦・プレアデス。
その一室に、主であるアンヌ、招かれたカンナとマリエッタが集まっていた。
【マリエッタ】「あの…、私が同席して大丈夫なのでしょうか?」
そうマリエッタが尋ねる。魔女艦隊司令のマリエッタ、クロスバード艦長のカンナと違って、マリエッタはあくまでもクロスバードの一クルーでしかない。
【アンヌ】「構いませんわ。どの道後々皆さんにお話することです」
しかしアンヌはそう言い気にする素振りを見せずに、こう話を始めた。

【アンヌ】「単刀直入に申し上げます。我がドゥイエット家は…先日、同盟と和平を結び、協力関係の下対連合攻略作戦にあたることを決定いたしました」

【カンナ】「!?」
さすがにカンナも言葉が出ない。アンヌはこう続ける。

【アンヌ】「現在、連合は大統領暗殺の混乱で急速に求心力を失いつつあります。つまり、この機を逃す手はない、ということですわ」
【カンナ】「だからドゥイエット家は同盟と手を組んだ、と…」
【アンヌ】「ええ。ただ、さすがに共和国全体を動かすまではいきませんでしたが…」
特に対同盟戦線が中心で、以前クロスバードに煮え湯を飲まされているサグラノ家は反同盟感情が強く、他の3宗家全ての説得は時間がかかると判断したドゥイエット家は単独で同盟との和平に踏み切ったのだ。

【カンナ】「で、言わば和平の証として、滞在経験のあるあたしらが参謀総長によって抜擢された、と…」
【アンヌ】「そんなところです」

【カンナ】「しかし一部とはいえ共和国と手を組んだことが知れれば、こっちも反共和国感情が強い海溝派…派閥は納得しないでしょうね…参謀総長もよく踏み切ったわ」
【アンヌ】「恐らく、戦争を終わらせる好機だと考えたのでしょう。…この、50年続く戦争を」

そこまで話して、しばらく黙っていたマリエッタが口を開いた。
【マリエッタ】「…あの、この戦争、…本当に終わるんでしょうか?皆さんそうだと思うのですが、私達は戦争がない状態というのを本の中、データの中でしか知りません。…その状態に、なれるのでしょうか?」
それに対し、カンナはこう答えた。
【カンナ】「なるか、じゃなくて、するのよ。あたしらが。ここまできたら、ね」
それを聞いたマリエッタは、納得してこう返す。
【マリエッタ】「…分かりました。微力ですが、お手伝いします」

【アンヌ】「それじゃあ、そちらの用事が済んだらまた連絡していただけるかしら?一旦フレミエールに向かった後、対連合戦線へ向かいます」
【カンナ】「分かったわ」
こうしてカンナとマリエッタはクロスバードに戻り、数日後、魔女艦隊と本格的に合流することになる。


【アルベルト】『…これはどういうことですか、参謀総長閣下!』
通信を介して只ならぬ剣幕で怒るのは、第6艦隊総司令、アルベルト=グラッドソン元帥。同盟の海溝派の大物である。
彼はグロリアでカンナとアンヌが話していた写真を通信に乗せ、さらにこうまくし立てた。
【アルベルト】『このような情勢の中あろうことかスイーツガールとドゥイエットの魔女が中立国で会話しているなど!重大な背信行為でしょう!直ちに処罰すべきではないですか!?』
だが、参謀総長は顔色一つ変えずにこう返す。
【エルトゥール】「…大方グラッドソン閣下の想像通りだよ。私が指示した」
すると逆に、アルベルトの顔色がみるみる変わる。
【アルベルト】『さ、参謀総長自らこのような…今我々にとって脅威なのは大統領暗殺で混乱している連合ではなくそれに乗じて力をつけようとしている共和国でしょう!!』
だが参謀総長の顔色は全く変わらない。
【エルトゥール】「…それは君の本音かい?」
【アルベルト】『っ!!……分かりました、参謀総長がそう仰るのであればこちらにも考えというものがあります。失礼します』
そう言い残し、通信は切れた。

【エルトゥール】「…こういう時、賽は投げられた、って言うんだったか?」
そうつぶやきながら、彼はコーヒーを飲んでソファに横になった。

このページについて
掲載日
2021年10月9日
ページ番号
41 / 51
この作品について
タイトル
【Galactic Romantica】
作者
ホップスター
初回掲載
2020年12月23日
最終掲載
2021年12月23日
連載期間
約1年1日