第37章:新たな剣は彼方で微笑み、刃を向ける

同盟軍第4艦隊旗艦・コルネフォロス。ヨハン元帥とカンナが面会していた。

【ヨハン】「報告書、読んだよ。連合大統領暗殺、ハーラバード家の犯行だったとはね」
【カンナ】「ええ。もっとも、彼女の証言によれば、どこまでが本家の意向かは推し量れない…とのことですが」
【ヨハン】「現場の独断か、本家の意向か、あるいは…ま、恐らく永遠の謎になるんだろうな」
実際、暗殺実行犯の一人だったパトリシアもアンドリューから指示を受けていただけで、「その上」がどうなっているのか全く知らなかった。というより、Σ小隊そのものがそういう性格が強く、通常任務もどこまでがアンドリューの独断でどこまでが本家の意向か、当人ですらほとんど知らなかった。

【ヨハン】「で、暗殺部隊は逃走中に蒼き流星の手により全滅。…但し、一人を除いて、とな」
【カンナ】「はい」
ヨハンはしばらく考えながら、カンナにこう言った。
【ヨハン】「…さすがにこのレベルの重要情報の扱いを私一人で判断することはできないねぇ。その生き残りを傭兵扱いで匿いたい、という依頼を含めて、参謀総長に判断を委ねるしかないだろう」
【カンナ】「そうです、よね…」
カンナがその答えは予想していた、という感じで答える。

【ヨハン】「ま、とりあえず報告書は渡しておくから、参謀総長の判断が降りるまではとりあえずそれでいいだろう。その子を信頼しているんだろう?」
【カンナ】「ええ。自分では極悪人だって毒づいてますけど、根はすごくいい子だと思うんです。だから、安心してください」
【ヨハン】「…そう言われちゃ、敵わないな」
ヨハン元帥はそう頭を掻きながら答えた。


        【第37章 新たな剣は彼方で微笑み、刃を向ける】


一方その頃、クロスバードの一室。
【アネッタ】「お待たせー!今から座学の授業始めるよ!」
恒例のオリトの座学の時間である。今日の担当はアネッタとクーリア。…だが、今回はちょっと趣が違った。

【クーリア】「えー、今回は特別授業ということで、特別講師をお招きしています。どうぞ」
そうクーリアに言われて渋い表情で入ってきたのは、パトリシア。
【パトリシア】「…なぁコレ、どうしてもやんなきゃダメか?あたしは人様やチャオ様に物を教えられるような人間じゃねぇ…っていうかそもそも既に人間かどうかすら怪しい存在だぞ?」
【クーリア】「通過儀礼みたいなものですので、やってもらいます」
いつの間に通過儀礼になったんだろう、と心の中で疑問に思うオリトをよそに、話は進む。
【アネッタ】「今回のテーマは、ズバリこの銀河で最も信者の多い宗教、クリシア教について!という訳で現役のクリシア教徒さん、お願いします!」
【パトリシア】「いやあたしはそんな大層なもんじゃねぇし、そもそも…」
【アネッタ】「お願いします?」
アネッタがニッコリ笑って繰り返す。…さすがにそれを見たパトリシアは腹を括った。

【パトリシア】「しゃーないなぁ…どっから話せばいいやら…とりあえず、アネッタが言ってた銀河で最も信者が多い、ってーのは間違いじゃないんだが、科学の発達による超常現象の否定と500年前の大崩壊で既存宗教が軒並み衰退して無宗教が大半になったから相対的に多くなったってだけの話なんだがな。あたしみたいなテキトーな信者も少なくないし。あとは…」


それからおよそ1週間後。
輸送艦と共に、カンナがクロスバードに戻ってきた。
【カンナ】「ただいまー!」
【クーリア】「おかえりなさい。首尾はどうでした?」
【カンナ】「そりゃもう、バッチリ!」
そう言い、親指を立てた。
【オリト】「それじゃあ…」
【カンナ】「ええ、参謀総長のOK出ました!パトリシア、正式にクロスバードのクルー入りです!」
それを聞いて沸くクロスバードのクルー。
【パトリシア】「止めてくれよ、小っ恥ずかしい…そもそも士官学校には編入してないんだし正式なクルーでもないだろ?」
【カンナ】「あ、それも校長のOK出てます」
【パトリシア】「えぇ…」
そこまで来ると苦笑いするしかなかった。
【クーリア】「とすると例のプラン、上手くいったようですね」
【カンナ】「ええ。さすがにちょっと無理な相談かなと思ったけど、話が通じて助かったわ。これで給料のカンパもしなくて済むし」
そう、パトリシアを士官学校に正式に編入させてしまえば、給料は軍から出るのでクルーでカンパする必要もない。カンナ達もさすがについ先日まで共和国の兵士だった彼女を編入させるのはいくらなんでも厳しいのでは、と思っていたが、最終的には参謀総長が決断した。

【カンナ】「…で、参謀総長からビデオメッセージを貰って来てるので、再生します」
そう言いカンナは、個人端末を操作。その場にホログラムでエルトゥール=グラスマン参謀総長の姿が浮かび上がった。

【エルトゥール】『えー、コホン。私だ、グラスマンだ。本来であれば直接お話をすべきところ…こういう形になってしまいすまない。
         連合大統領暗殺事件の件、そしてその生き残りであるパトリシア=ファン=フロージアという少女の件。報告書、読ませてもらったよ。
         この事実を公表すると銀河内のパワーバランスが一変しかねない…悪いが、この事実の公表タイミングはこちらで政府と交渉の上発表、という形にしてもらう。もちろん君たちに悪いようには絶対にしないから安心してくれ』

【クーリア】「確かに、連合から公式発表がない以上、これを発表するタイミングを間違えると戦争の趨勢にも影響しかねないですからね…」

【エルトゥール】『さて、君たちが保護しているパトリシアという子について、傭兵として戦ってもらうというレヴォルタ大尉の案についてだが…これは私の判断で許可しよう。
         遺伝子改造で生まれたという生い立ち、Σ小隊という特殊部隊、そして先の戦闘で右手右脚が義手義足になってしまった経緯…
         その辺りを勘案した結果、通常のルール通り捕虜として扱うのではなく、君たちに任せた方がお互いにメリットが大きいと判断した。
         もちろん、戦闘において実力を発揮して、同盟に貢献してくれることを期待して、という意味合いもあるけどね』

【パトリシア】「随分話の分かる人じゃないか。ありがたいけど、裏があったりしねぇよな?」
【フランツ】「それだけ艦長、そしてクロスバードが信頼されてるってことでもあります。それに正直、随分宣伝に利用されてますからね。お互い様ってことでしょう」

【エルトゥール】『そして、もう1つ…これは別件なのだけど、連絡事項があってね。
         先の蒼き流星との戦いで、人型兵器が2機大きく損傷したと聞いている。そこで、私からのささやかなプレゼントだ』

そこまできたところで、カンナが個人端末を操作。
すると輸送艦のカタパルトが開き、2機の人型兵器が姿を現した。
【ジャレオ】「こ、これは…!!」

【エルトゥール】『完成したばかりの最新鋭カスタム機だ。蒼き流星のフォーマルハウトにすっかりお株を奪われてしまったが、純粋な機体性能ならあの機体にも負けないと思う。後は、君たち次第かな。
         …っと、名前を教えてなかったね。
         近接戦闘重視の機体が、AATZ-111S「アルデバラン」、
         射撃戦闘重視の機体が、AATZ-206X「アークトゥルス」だ』

【ジェイク】「アルデバラン…」
【アネッタ】「アークトゥルス…」
【クリスティーナ】「新型キター!これで勝つる!!」

予想外の『プレゼント』に沸くクルー。だが比較的冷静なクーリアが、カンナに話しかける。
【クーリア】「ジェイクのアルデバラン、アネッタのアークトゥルス、パトリシアのカペラ、そしてオリト君のリゲル…4機体制ですか。この人数で運用できますかね?」
【カンナ】「正直不安だけど…まぁみんな強いし、いないよりはマシじゃないかしら?」


…だが、本題は一番最後に待っていた。
【エルトゥール】『そして、最後にもう1つ…君たちの次の任務について、私から特別なミッションをお願いしたい』

【ミレア】「特別な、ミッション?」
【カンナ】「え、ちょっと待って?コルネフォロス出る時に新型貰う話までは聞いてたけど、特別任務なんて聞いてないわよ!?」
急にカンナが動揺する。
そもそもカンナがコルネフォロスで参謀総長からのビデオメッセージを受け取った際には、『連合大統領暗殺事件とパトリシアの処遇について』『新型の受領について』の2つの内容だ、と聞いていた。
メッセージはクロスバードに戻ってからみんなで見るように、と言われていたこともあり、ここから先はカンナも全く知らない。

【エルトゥール】『君たちには、ある場所である人物と共同作戦を行って欲しいんだ。大丈夫、君たちもよく知ってる人物だよ』
そこまで参謀総長が説明したところで、ビデオメッセージの画面が変わった。

…その映し出された『ある人物』の画像に、クルー一同が凍り付いた。

【アネッタ】「な…なんで…?」
【カンナ】「アンヌ=ドゥイエット…!?」

…そう、共和国の『魔女艦隊』司令、アンヌ=ドゥイエット。

【エルトゥール】『これから君たちには共和国へ向かってもらい、通称『魔女艦隊』と共同作戦を張ってもらう。詳細は直接彼女に聞いてもらうといい。それじゃあ、無事と健闘を祈るよ』
そこまで参謀総長が説明したところで、ビデオメッセージは終わっていた。

さすがに慌てるクロスバードのクルー。
【ゲルト】「ちょ、ちょっと待てよ!それじゃあ漂流した時に魔女艦隊の助けを借りたのバレてるってことかよ!?」
【カンナ】「…ええ、みんなには言ってなかったけど、バレてるわ…前にアレグリオで面会した時に仄めかされたのよ…」

【パトリシア】「…共和国裏切って同盟に入ったら共和国と共同作戦してくださいって指令が下るとか、趣味の悪いギャグか何かか?」
苦笑いしたのはパトリシア。彼女にとってはそういうことになる。

とはいえ、参謀総長からの指令とあっては従わない訳にいかないし、パトリシアに関してかなり無茶なお願いを聞いてもらったばかりである。
【カンナ】「行くしか…ないでしょうね…」
そうつぶやき、改めて全員の方を向くと、こう言った。
【カンナ】「まだ分からないことだらけだけど、恐らく簡単な任務じゃないと思うし、疑問に思うこともたくさんあると思う。…それでも、ついてきてくれるかしら?」
みんな、首を縦に振る。それを確認したカンナは、
【カンナ】「ありがとう。…それじゃあ、準備が出来次第、クロスバードは第4艦隊を離脱し、共和国ドゥイエット家艦隊、通称『魔女艦隊』と合流します!」
そう告げた。

このページについて
掲載日
2021年10月2日
ページ番号
40 / 51
この作品について
タイトル
【Galactic Romantica】
作者
ホップスター
初回掲載
2020年12月23日
最終掲載
2021年12月23日
連載期間
約1年1日