第35章:機械の魂はその腕に宿るのか

【パトリシア】「…説明してくれ、この右手は、どういうことだよ…!」
そう言い、機械になってしまった右腕を見せたパトリシア。

しかしそれに対して、クーリアは表情を変えずにこう説明した。
【クーリア】「ご想像の通りです。…我々が貴方を保護した時点で、既に再生不能な激しい損傷を負っており、已む無く通常治療を断念し義手による治療へと切り替えた…そう軍医から聞いています」
【パトリシア】「………」
最も、銀色の機械の腕、というのは仮のもので、後日人工皮膚にすれば外見は本物とほとんど変わらないようにすることができるし、そうすれば感覚的にも生身の手足とほぼ同じように動かすことができる。それでもやはり、衝撃は大きかった。

【クーリア】「…あと、まだお気づきになっていないかも知れませんが…右脚も膝から下が同様に損傷が激しく、義足になっています」
【パトリシア】「なっ…!」
慌てて足に掛かっていた毛布をはねのける。…右腕と同じように、銀色になってしまった右脚が目に入った。


        【第35章 機械の魂はその腕に宿るのか】


そこに、ミレーナ先生が入ってきた。
【ミレーナ】「お話し中ごめんねー?パトリシアさん、右腕と右脚、違和感はないかしらー?」

【パトリシア】「残念ながら言われるまで気付かないレベルで違和感ねぇよ…」
ちなみに、数日前にパトリシアが最初に意識を取り戻した時には、既に義手義足だった。その時は激痛で体をほとんど動かせなかったため、気が付くことはなかったが。

【ミレーナ】「そう、それなら良かったわー。…っと、自己紹介が遅れたわねー。あたしはミレーナ=ジョルカエフ。この艦お付きの保健の先生兼軍医の端くれってところかしらー?」
【パトリシア】「嘘つけ、余程腕が立たないとこんな芸当できねぇだろ…あたしも専門家じゃねぇけどさ」
いくら医療技術が進歩したといっても、さすがに右腕と右脚を丸々義手義足にすることは簡単にできることではない。パトリシアが違和感を全く感じなかったのも、ミレーナ先生が相当腕が立つ軍医である証拠に他ならない。
もちろん、さすがに義手義足までクロスバードの医務室に用意されている訳ではないので、第4艦隊の協力のもと近くの惑星の同盟軍基地で手術を行ったのだが、執刀はミレーナ先生自身が行ったのだ。

【クーリア】「しかし驚きましたよ…ミレーナ先生、本当に凄腕の軍医だったんですね」
【ミレーナ】「お世辞はやめてよー、言ってるでしょ、昔ドジやらかして左遷されられた結果がここだって。…まぁでも、さすがに目の前であんなケガした子を見たら、放ってはおけないわよねー…」
彼女はそう言い、ふと虚空を見上げた。休憩室の無機質な天井に何を見たのかは、彼女のみぞ知る。

【ミレーナ】「とにかく、何か気になることがあったら、遠慮なく言ってねー?」
そしてそう言い残し、休憩室を後にした。

【パトリシア】「…そういえば、ケガで思い出したんだが…あたしの機体、カペラはどうなった?」
【クーリア】「あぁ、それなら…歩けるようなら、見に行きます?」
そう言い、クーリアは右手を差し伸べた。


最初はクーリアの肩を借りて歩くのがやっとといった状態だったパトリシアだが、格納庫に着く頃には完全に一人で歩けるようになっていた。
【クーリア】「流石ですね…」
【パトリシア】「ミレーナとかいう医者の腕が良いんだろうさ」
と軽く言い、格納庫に入る。

【パトリシア】「これは…!」
格納庫に入るなり、パトリシアは思わず声をあげた。『蒼き流星』にやられてあれだけ破損していたカペラが、きれいに修復されていたのだ。
【ジャレオ】「あ、クーリア、パトリシアさん。大丈夫ですか?」
【パトリシア】「まぁここに来れる程度にはな。…それより、どうしてカペラが修復されてんだ…?」
【ジャレオ】「いやぁ、共和国の機体ってこうなってるんだってすごく勉強になりました。ついでに、同盟側の最新技術もプラスしてチューニングし直してあります」
最も、ジャレオは魔女艦隊にいた際に一度共和国側の技術を見ている。その時の経験が大いに役に立ってもいるのだ。
さらに、コクピットからクリスティーナがワイヤーを伝って降りてきた。
【クリスティーナ】「いやー、共和国のOSを同盟のOSに組み替えるの、めっちゃきつかったけどめっちゃ楽しかったっすよー!あ、でも操作系統は以前と変わらないようにセッティングしてありますからご安心をっ!」

【パトリシア】「…つまるところ実験台になったってことか?」
と、パトリシアが言った時、カンナも格納庫に現れた。
【カンナ】「共和国のワンオフ機をいじれるってみんな喜んでたわよ。まぁ鹵獲された時点で所有権こっちにあるし、諦めてちょうだいってところかしら…」
【パトリシア】「いやまぁ、敵に捕まってる以上諦めはついてた…つもりなんだがな…」

と、その時、突如格納庫に警報音が鳴り響いた。

【パトリシア】「!?」
【カンナ】「何が起きたの!?」
個人端末を持ち、ブリッジと通信を取るカンナ。

応えたのはアネッタ。前の戦いでアルタイルが中破しているので、ジェイクと共にブリッジの手伝いである。
ちなみに修復しようとしたタイミングでパトリシアとカペラが漂流してきてジャレオがそっちにかかりっきりになってしまったため、順番的に後回しになってしまっているのだ。
【アネッタ】『敵襲です!連合のヘルクレス級が1隻!集団行動はとっていないので哨戒中に発見された模様!』
【カンナ】「了解、迎撃準備急いで!」
さらにチャンネルを変えて、
【カンナ】「オリト君、出撃できる!?」
【オリト】『分かりました、すぐ行きます!』
オリトに話をつけた。

【パトリシア】「オリトって、あのチャオのか?」
【カンナ】「ええ。ウチには人型兵器乗りが元々2人いたんだけど、例のシャーロットを追い込んだ戦いでどっちも機体が損傷しちゃってね。今動けるのは彼しかいないのよ」

…と、そこまで説明したところで、カンナはあることに気が付いて、手を打った。
【カンナ】「…そうだ!パトリシアさん、提案なんだけど…クロスバードで働いてみないかしら?」
【パトリシア】「働く?」
【カンナ】「ええ。人型兵器に乗って敵を蹴散らすだけの簡単なお仕事、3食昼寝スイーツ付き!」
【パトリシア】「いやそれ簡単じゃねぇし昼寝とスイーツは要らねぇよ…」
と思わずパトリシアが冷静にツッコミを入れる。

【パトリシア】「っていうか、あたしは一応共和国の人間だぞ?とりあえず今は目の前の敵が連合だからいいとしても、今後…」
そこまで言ったところで、カンナがこう言い遮った。
【カンナ】「…共和国に、貴方の戻る場所はあるのかしら?…小隊の仲間は貴方以外全滅した、と聞いているけど…?」
【パトリシア】「…!」
さすがにパトリシアも言葉を失った。冷静に考えればそうである。そりゃ勿論戻れない訳ではないだろうが、果たして戻った先は居心地がよいものだろうか。

【カンナ】「もちろん、愛郷心とか愛国心とかそういうのもあるでしょうし無理強いは…」
そこまで言ったところで、今度はパトリシアがカンナの言葉を遮る。
【パトリシア】「無ぇよ、んなもん最初から。試験管生まれで親もいないのに、愛国心も忠誠心もへったくれもないってんだ。ただ上から命令がきたからそれを実行する、それだけだったさ。…あの時まではな」
そういい、ふとマースゲントでの出来事を思い出す。そして、こう続けた。
【パトリシア】「…いいよ、とりあえずあの連合の戦艦をぶっ潰す。条件交渉は帰った後だ!」
そう言い、カペラへと向かっていった。

【クーリア】「まったく…艦長の悪い癖です、あんな出任せを言って上にどう言い訳するつもりですか…?」
【カンナ】「まー、何とかなるんじゃないかしら?この艦にはどこぞの元王女様だっている訳だし?」
パトリシアを見送ったカンナとクーリアはそう会話しつつ、ブリッジへと走り出した。


【パトリシア】「へぇ、これが同盟のOSか…つっても操作系統とか一緒になるようになってんだっけ」
と、カペラのコクピットに乗り、各種システムを起動しながらつぶやく。
そこに、クリスティーナから通信が入った。
【クリスティーナ】『突然失礼しますよー。えーっと、念のためなんすけど、こっちからリモート操作で自爆できるよう特別にプログラムしてありまする。一応元々敵同士だったっつーことで、怪しい動きを見せたら…って訳でー、ご理解とご協力をお願いいたしますよー』
【パトリシア】「了解。準備がよろしいことで!」

そして、メインエンジンを起動し、
【パトリシア】「パトリシア=ファン=フロージア、カペラ、出るよ!」
宇宙へと出撃していった。

このページについて
掲載日
2021年9月11日
ページ番号
37 / 51
この作品について
タイトル
【Galactic Romantica】
作者
ホップスター
初回掲載
2020年12月23日
最終掲載
2021年12月23日
連載期間
約1年1日