第31章:地獄への入口と明日への出口

突然の敵襲に、クロスバードのクルーが呆気に取られているところに、通信が飛び込んでくる。
【シャーロット】『スイーツガールの皆さん、お久しぶりだねぇ。グロリア…おっと、『正確には』クレシェット近海で遭遇して以来かな?』
グロリアでの遭遇は、シャーロット、ひいては連合にとっては変装した上での極秘任務であり、公には『そんなことはしていない』のである。最もバレバレだったが。

【シャーロット】『おや、なんでこんな場所に?って顔してるねぇ。いや顔は見えてないけど、大体想像がつく』
それもそのはず、ここはまだ同盟の勢力圏内。そもそもクロスバードは同盟の第4艦隊に合流するために移動中なのだから、この段階で会敵することは全く想定していなかったのだ。
その上、明らかにシャーロットはクロスバードの針路上に『待ち構えて』いた。つまりそれは、敵にこちらの動きが漏れていた、ということも意味する。

【シャーロット】『ま、残念だけどその辺を話す訳にはいかないし、どっちみちここで死んでもらうから一緒なんだけどね!』
シャーロットがそう宣言すると、レグルスがビームライフルを持ち、クロスバードのブリッジに照準を定め、いよいよ引き金を…

…が、様子がおかしい。
レグルスが、そのまま動かない。


        【第31章 地獄への入口と明日への出口】


【カンナ】「あ、あれ…?」
さすがにカンナも何かがおかしいと気付く。その時、ブリッジに叫び声が響き渡った。
【クリスティーナ】「何を呆けているんですかい!?長くは保ちませんぜ!!」
見ると、クリスティーナがひたすら高速でキーボードを叩いている。
【クーリア】「まさか…!」
【クリスティーナ】「あの蒼き流星さんにハッキングをぶちかましました!けどあくまでも応急措置みたいなもんです、すぐにバレて破られますよ!!」

クリスティーナの言葉でようやく状況を飲み込んだカンナは急いで指示を出す。
【カンナ】「クリスちゃん、ありがとう!みんな、迎撃準備!ジェイクとアネッタはすぐに出撃して!」
…そして、そこから1~2秒ほど置いて、
【カンナ】「念のため、オリト君も出撃準備しておいて!」
【オリト】「え、俺ですか!?」
オリトは驚き、聞き返す。エステリアでの戦い以降、クロスバードにはあの時オリトが搭乗したリゲルがそのまま配備されている。その経緯についてはクロスバードのクルーは誰も、カンナですら寝耳に水で知らなかったのだが、どうやらあのグラスマン参謀総長が経緯をどこかで聞いたようで裏で手を回したらしい、とのことだった。
それを踏まえて、オリトの疑問に対しては、カンナはこう答える。
【カンナ】「…相手は蒼き流星よ。あらゆる可能性を排除しちゃいけないし、あらゆる可能性を総動員しなきゃ勝てない…!」
【オリト】「わ、分かりました…!」
オリトはそう頷き、ジェイクとアネッタの後を追うようにブリッジを後にした。

【カンナ】「ゲルト!」
【ゲルト】「もうやってる!!」
続いてカンナはゲルトに指示を出す…が、既にゲルトは動いていた。副砲の照準を合わせ、発射準備。
【ゲルト】「銀河連合エース様のあまりにあっけない終焉…ってなぁ!!」
そう叫びつつ、発射ボタンを押す。

光線がレグルスへ一直線に向かい、直撃…しようとした寸前、レグルスの眼部のカメラに光が戻り、すんでのところで避けてみせた。
【クリスティーナ】「申し訳ないが時間切れっす!さすがにこれが限界でございました!」
【ゲルト】「そう上手くはいかねぇか…!」
【カンナ】「でも良くやってくれたわ。撃沈寸前のところから五分まで引き戻した!あとは…!」


一方シャーロットは、悔しさのあまり絶叫していた。
【シャーロット】「ああああああぁっ!!何なのよコイツ等ぁ!!!」
グロリアでの記録と記憶を探っても、“スイーツガール”にハッキングを仕掛けてくるようなクルーはいなかったはず。何とか手元の緊急用ツールで解除したものの、折角打った先手が完全に無駄になってしまった。
しかし、グロリアのあの出来事も既に2ヵ月ほど前の話であるし、その後エステリアでクルーのうち1名が戦死したことも聞いている。クルーの補充や増員があったって不思議ではない。そういう可能性を排除してしまった時点で、自分たちの作戦ミスである―――
シャーロットは叫びつつ、またそう考えつつ、向かってくるアンタレスとアルタイルの2機に対して対応する。これを同時進行で処理してしまうのが、銀河のエースたる所以である。

【アネッタ】「くっ…、やっぱり動くとバケモノね…!」
アネッタの駆るアルタイルが次々とビームを放つが、シャーロットのレグルスはそれを易々と避けてビームセイバーを抜き、ジェイクのアンタレスに襲い掛かる。
【ジェイク】「んな事は最初から承知の上だよ!」
ジェイクが応戦し、激しくセイバーを交える。但し、シャーロットはアネットの援護射撃をかわしながら。


その様子を見ながら、フランツがふと疑問を呈した。
【フランツ】「…でも待って下さい?ここはまだ私達同盟の勢力圏内ですよ?…いくら彼女のレグルスが化け物じみてるからといって、人型兵器1機で敵の勢力圏内に、というのは不可能では?」
【クーリア】「というかそもそも、人型兵器で超光速航行はできないはずですよね…」
超光速航行装置は大きすぎて、人型兵器には搭載できず、現在は戦艦にしか搭載されていない。もちろん小型化の研究はどの勢力でも行っているが、いずれも人型兵器に搭載できるほどの小型化はまだまだ先、のはずである。

【カンナ】「可能性はいくつか考えられるけど…例えば…近くに連合の戦艦が潜んでいるとか…?」
【フランツ】「探査はかけてますが…レグルスからジャミングが飛んできて上手くいきません」
それを聞いたカンナが思わず叫ぶ。
【カンナ】「…って、それじゃあ『隠したいものがあります』って堂々宣言してるようなもんじゃない!」
最も、シャーロット側としては会敵してすぐに決着をつけるつもりだったのだから、これで間違いはなかったのである。重ね重ね想定外だったのは、クリスティーナがレグルスにハッキングをかけて長期戦に持ち込んだこと。これで連合、シャーロット側のプランが完全に崩れてしまったのだ。

とにかく、これでおぼろげながら逆転への策が見えてきた。カンナは通信機を手に取りこう指示する。
【カンナ】「オリト君!…近くに敵の戦艦が潜んでいるかも知れないわ。手あたり次第で構わないから探してみて!でもくれぐれも無理はしないで!」
【オリト】「分かりました!やってみます!」
そう答え、格納庫で待機していたリゲルで出撃した。


とはいえ、勿論それを黙って見過ごす銀河のエースではない。
【シャーロット】「くっ、もう1機!?このサイズ…チャオ用!?」
しかしながら、さすがにアンタレスとアルタイル、2機の対応で手一杯。そもそも、人型兵器のパイロットで自分自身に対抗できるチャオというのは聞いたことがなく、つまり彼女の実力であればその気になればすぐに撃ち墜とせるはずである。そう考え、まずは目の前の2機に集中することにした。

…が、その考えは僅か2秒で裏返る。
チャオ用の人型兵器、つまりオリトのリゲルはシャーロットのレグルスの方へ向かわずに、一見無関係な明後日の方向へと向かったのだ。
この宙域に同盟の戦艦はクロスバードしかいないことは確認している。隠れるような小惑星や隕石などもない。それはつまり―――
【シャーロット】「まずいっ!!」
あの人型兵器の狙いは、連合の、味方の戦艦。リゲルが向かったのは「その方向」では無かったが、探している以上見つかってしまうのは時間の問題である。
そして、戦艦を失ってしまえば、彼女は人型兵器1機で敵宙域に放り出されることになる。いくらシャーロット=ワーグナーといえど、それは死を意味する。

シャーロットは慌ててオリトのリゲルを撃ち落とそうと動き出す。…が、その一瞬の隙を、2人は見逃さなかった。
【アネッタ】「そこっ!」
アルタイルのビーム砲がレグルスの左腕を吹き飛ばす。
【シャーロット】「しまっ…!」

【ジェイク】「今だあああっ!!」
そこで一気にジェイクが畳みかけようとするが、ただでは終わらないのがシャーロットである。
【シャーロット】「させるかぁっ!」
ジェイクはレグルスの右脚をぶった斬るが、アンタレスの腰の部分で真っ二つにされてしまう。爆発は免れたが、明らかに危険な状態であり下がらざるを得なかった。

【シャーロット】「どこのチャオか知らないけどっ!!」
左腕と右脚をもがれてもなお、向かってくるレグルス。
【オリト】「まずいっ…!」
さすがにオリトもこの状況はまずいと認知し、急いでクロスバードへ戻ろうと方向転換した際、思わず声が出た。
…その次の瞬間、レグルスの動きが止まった。

【シャーロット】「まさか…あのオリトってチャオが…?」
オリトが方向転換する際、慌ててリゲルを操作したため、間違えて通信のスイッチがオンになっていたのである。その声を聞いて、シャーロットは驚いた。
いや、知り合いを殺すのは苦しいとオリトに教えたのは、他ならぬ自分自身だったはずである。今までの戦いで、知り合いを何人も殺してきたはずである。何より、オリトがクロスバードのクルーである以上、チャオ用の人型兵器が出てきた時点で、その可能性を考慮すべきだったはずである。…だけど、考えないようにしていた。そうではないはずと、頭の中で決めつけてしまっていた。

…そして、その動きの止まった一瞬を、彼女が見逃さなかった。
【アネッタ】「今度こそっ!!」
【シャーロット】「!」
ビームライフルを数発。流石にシャーロット、咄嗟に反応して直撃は免れるが、残っていた右腕と左脚ももがれ、レグルスは四肢を失ってしまった。これでは、戦えない。

【シャーロット】「………」
人生で初めての、ほぼ完全な敗北。言葉を失いながらも、それでも最後のあがきと逃げようとする。
【アネッタ】「…終わりです。『蒼き流星』、シャーロット=ワーグナー」
それに対しアネッタがトドメを刺そうとビームライフルを放とうとしたその瞬間、予想外の方向からビーム砲が飛び、アルタイルの右腕をビームライフルごと吹き飛ばした。
【アネッタ】「!?」

【マリエッタ】「連合のオリオン級が1隻!蒼き流星の母艦と思われますわ!」
【カンナ】「さすがに黙ってられずに出てきたって訳ね…!砲撃を集中!ここで終わらせるわよ!!」
…が、それは想定内とばかりにクロスバードの集中砲撃をあっさりかわされると、敵艦に上手く時間を使われ、ボロボロになったレグルスを収容するとすぐに超光速航行で脱出されてしまい、シャーロットにトドメを刺すことはできなかった。

【マリエッタ】「…敵艦、逃げられましたわ」
その一言を聞いた後、カンナはふーっ、と大きく息をついて、こう指示した。
【カンナ】「ジェイク、アネッタ、オリト君の収容、急いで。…みんな、よく頑張ったわ」
そう声をかけると、もう一度大きな息をついた。

このページについて
掲載日
2021年8月14日
ページ番号
33 / 51
この作品について
タイトル
【Galactic Romantica】
作者
ホップスター
初回掲載
2020年12月23日
最終掲載
2021年12月23日
連載期間
約1年1日