第28章:悪戯の果ての一つの結末

アレグリオを周回している軍事コロニー「エステリア」に突如侵入した共和国軍。
その中に、彼らの姿があった。

【アンドリュー】「さて…そろそろお前らの出番だ」
アンドリュー=マルティネスと、その部下である5人の少年少女、通称『Σ小隊』。

【カルマン】「しかしいきなり首都惑星に攻撃とか、お家のお偉いさん方も大層なこと考えるなぁ!はっはっは!」
カルマンがそう豪快に笑う。
【パトリシア】「超光速航行が出来るご時世だ、どこだって考えるしどこだって対策もしてるだろ。実戦力削るより精神的揺さぶりの方が意味がデカいんだろうさ」
それに対し、パトリシアがそう毒づく。
【イズミル】「よりによってサグラノの阿呆がやらかしたばっかだからな…お灸を据えてやるんだろ」
イズミルもそれに同意する。
【ミッチェル】「いずれにせよ、油断は禁物だ。例の『スイーツガール』一行もいる可能性があるからな」
それに対して、ミッチェルが釘を刺した。
【エカテリーナ】「私もあの人達とまた遭遇する…そんな気がします」
エカテリーナも、胸に提げているクリシアクロスを握ってそれに同意した。

【アンドリュー】「…確かに連中には要注意だが、会う前から余計な心配をする必要は無ぇ。会っちまった時に考えりゃいい話だ。
         とりあえず、まずは存分に暴れ回って来い!」
アンドリューがそう命じると、5人は同じ方向へ駆け出していった。


        【第28章 悪戯の果ての一つの結末】


さて、オリトはリゲルで出撃すると、コロニーの空中へと飛び立った。
【オリト】「落ち着け…まずは距離をとって…」
球体をした3次元レーダーが味方、敵、それぞれの機体を指し示す。オリトは敵機になるべく近寄らないようにしながら、機体のビームライフルを構える。シミュレーションはしているとはいえ、初陣なのにいきなり近接戦闘をするのは無茶にも程がある、というものである。

【オリト】「よし…!」
そして離れた敵機のうち1機に狙いを定め、トリガーを引いた。発射。
ビームは真っ直ぐ敵機へ伸びていき、命中…するかに思われたが、直前で敵機が察知したようで回避。残念ながら命中とはならなかった。
【オリト】「やっぱダメか…」
最初から、全てが上手くいく訳でもない。それは分かっていても、少し落ち込む。だが、ここは戦場。気落ちしている暇はない。すぐに距離をとりつつ、次の機体に狙いを定めた。

【オリト】「今度こそ…っ!」
再び狙いを定め、トリガーを引く。
ビームはやはり真っ直ぐ敵機へと向かっていき…今度は見事命中。敵機は爆音と共に、地上へと墜落していった。
【オリト】「やった…」
初めての敵機撃墜である。思わず浮かれかけたが、その途端に警告音が鳴り響き、すぐに冷静になった。敵機の接近である。
【オリト】「距離をとって死角に入る…!」
これも慣れないうちに人型兵器で戦う場合の鉄則である。幸い、機体にはコロニー内の建物の位置などのデータが全て入っている。地の利はこちらにあるはず。敵機を撒くためにビル街へと向かった。


そもそも人型兵器の戦闘といえば、古からの創作や『蒼き流星』と呼ばれるシャーロット=ワーグナーの活躍に代表されるように、派手で格好いいというイメージがあるが、大半のパイロットにとっては先ほどのオリトのように、避けて、距離をとって、狙って、撃って…の繰り返しであり、地味な作業である。そして、常に撃墜のリスクが伴う危険なものである。…一部の例外を除いて。

その『一部の例外』である人たちが、コロニー港付近で激突していた。
【ジェイク】「この動き、このワンオフ機…まさかっ!」
【ミッチェル】「ほう、想定の範囲内とはいえ、ここで再会するとはな…」
【ジェイク】「ハーラバードの人外連中の1人!ミッチェル=グレンフォード!!」
【ミッチェル】「スイーツガールのメンバーの1人…ジェイク=カデンツァだったか」
【ジェイク】「覚えててくれたとは光栄だねぇ!今度こそ決着をつけようじゃねぇか!」
【ミッチェル】「そういう感傷に興味はないが…どちらにせよここでお前を倒さねばなるまい」
ジェイクのアンタレスに対し、ミッチェルの機体はシリウスといい、こちらも近接戦闘を主体としたワンオフ機である。
その2機がビームセイバーを激しくぶつけ合う。一瞬たりともスキを見せることは許されない、極限の戦い。
それは思わず、
【ゲルト】「そう、まさにこれ、こういうのが観たかったんだよ!」
と通りがかりにそれを見たゲルトが叫んでしまう程のものであった。

数秒、ゲルトはそれを見入っていたが、
【ゲルト】「…ずっと観てたいところだが、危ねぇしさっさと戻るか」
とつぶやいてすぐにまた走り出した。事実、建物の合間で戦闘は行われており、その瓦礫が飛んできたら一巻の終わりなのだ。


そこから少し離れた工業プラント地帯では、アネッタのアルタイルに対しビームの光を浴びせかける機体があった。
その機体の名は、カペラ。パイロットは、この人である。
【パトリシア】「いいねぇ、この機体!このパイロット!あの時の狙撃手か!今度はこっちがブチ抜いてやるよ!!」
【アネッタ】「人型兵器でも化け物じみてる…!やっぱりコイツら…っ!」
アネッタは必死に対応するが、防戦一方でほとんど反撃できない。
最も、反撃できないのには他にも理由があり、アネッタは下手に撃ってしまうと外れてしまえば自軍のコロニーを破壊しかねないことになってしまうのに対し、逆にパトリシアは外してもそれはそれで敵軍のコロニーを破壊できるのでOK、という状況というのも大きい。
かくして、パトリシアがほぼ一方的に撃ちまくる状況になっているが、アネッタも粘り強く対応しており、やられる様子はない。


気が付くとオリトは、クロスバードが停泊している宇宙港付近に移動していた。
【オリト】「あれは…!」
モニターに映し出されたのは、走る3人の人影。さすがに顔までは確認できなかったが、オリトも雰囲気で察した。カンナ、クーリア、レイラの3人である。
その人影を見て、彼は一瞬、どうしようかと逡巡した。人型兵器に乗っている、今の自分に何か出来ることはないだろうか。とはいえ、そもそも今のこの状況はゲルトに無理矢理乗せられたようなもので、彼女たちはまだそれを知らない。

などと考えているうちに、機体のセンサーに1つ、反応が現れた。
【オリト】「敵機!?」
すぐさまその方向を確認すると、共和国軍の識別信号を出している機体が1機、まっすぐこちらへ向かって来ていた。
【オリト】「まずいっ!」
オリトは直感でそう感じ、急いで回避行動をとる。果たして次の瞬間、その機体から強烈なビームの光が放たれるが、回避していたこともありオリトのリゲルには当たらずに近くの建物を破壊した。
回避した後、彼はカンナ達3人の無事を確認しようと思ったが、敵機が目前に迫っている状況、まずは目の前の敵に対処するのが先決である。
【オリト】「データにない…新型?ワンオフ機?」
モニターには『NO DATA』と示されている。となれば、そのどちらか。そして、どちらであっても、非常にまずい状況である。自分は初陣なのに、そのような機体と直接対決しても勝てる訳がないのだ。
そうなると、判断は1つ。逃げるしかない。…そう思い加速しようとした瞬間、通信が飛び込んできた。

『その声…あの時の、チャオ?』

瞬間、ピタリ、とオリトの手が止まった。
聞き覚えのある、少女の声。グロリアで戦っていた、Σ小隊の1人。人形を持った、10歳ぐらいの少女。
エカテリーナ=キースリング。

オリトは初めての搭乗、初めての実戦ということもあり慣れないことが多く、通信を切るのを忘れており、それがエカテリーナの耳に届いたのだ。
当然いつかは戦場で再会する可能性はあるだろう、とは思っていたが、さすがにまさかこのタイミングだとは思っていなかった。
さすがに動揺して動きが止まってしまう中、続いて彼女から通信が入る。
【エカテリーナ】『まさか、ここで再会するなんて…でも、敵は敵。悪いけど、死んで?』
そして、彼女の機体、スピカから強烈なビーム砲が放たれた。

その動きで、ハッとしたオリト。慌てて回避する。
しかし、ますます状況は良くない。オリトはグロリアで実際に、彼女の10歳前後の女の子とは思えない戦闘能力を目の当たりにしているのだ。人型兵器に乗ってもエース級であろうことは、想像に難くない。
そんな相手に初陣である自分が敵うはずもないのだ。当然、急いで逃げようとする。
【エカテリーナ】『…逃がさない』
しかし、当たり前であるが彼女もそれを追う。追いながら、ビーム砲を次々と撃つ。
オリトは必死に、かつ奇跡的にそれを避けつつ逃げる。かくして、追撃戦が始まった。


さて、カンナとクーリア、レイラの3人は、宇宙港から少し離れた基地に移動し、そこに侵入した敵と白兵戦を繰り広げていた。
【レイラ】「右方、問題ありません」
【カンナ】「突入するわよ!」
カンナが扉を開け、クーリアが後方から援護射撃をしつつ、レイラが突っ込む。
【クーリア】「こちらクーリア、R-21ブロックの奪還に成功しました」
【指揮官】『済まない、君たちにまで苦労をかけてしまって。そのまま次のブロックも頼めるかな?』
【クーリア】「了解しました」
クーリアが指揮官と通信を取り、指示をもらう。特にそう決まっている訳ではないのだが、自然と役割分担ができていた。これは、彼女達の強みでもある。

そして、指示された通り、次のブロックへ向かう扉を開けた…が、先ほどまでとは違う雰囲気に、思わず3人の足が止まった。

その先に立っていたのは、1人の少年。その名は、イズミル=グヴェンソン。Σ小隊のうちの1人である。
最も、カンナ達は彼と面識がない。グロリアでの一件で、イズミルだけ唯一X組の面々と顔を合わせていないのだ。
だが、明らかに尋常ではない雰囲気に、カンナ達も「ただの兵士ではない」ということは感じ取っていた。

【イズミル】「これはこれは!スイーツガール御一行様じゃないか!ここで出会えるとは光栄だねぇ!」
【カンナ】「それはどうも。…悪いけど、3人がかりでいいかしら?」
【イズミル】「結構!フェアじゃねぇから戦争って言うんだよ!」
そう叫ぶと、イズミルが剣を抜いてカンナに向かって飛び込んだ。咄嗟に受け止めるカンナ。
そこをクーリアが狙い光線銃を放つが、イズミルはいとも簡単に躱し、さらにカンナを襲う。
【カンナ】(こいつ、只者じゃない…!まさか、グロリアで戦った彼らと同じ…!?)
カンナのその想像は、当たっている。かくして、3対1の戦いが始まった。


一方、エカテリーナから必死に逃げるオリト。
必死に逃げながら、思わずこうつぶやいた。
【オリト】「なんだって、あんな小さな女の子が!」
最も、答えは分かっている。グロリアでの推測が正しければ、彼女は試験管生まれ。元々、戦う為だけに生まれてきたようなものなのであろう。
そんなことを考えていると、エカテリーナから通信が飛び込んできた。
【エカテリーナ】『それはこっちのセリフ。なんで、チャオが戦ってるの?』
彼女の疑問は最もである。この銀河で人間とチャオの比率はほぼ1:1ながら、兵士は圧倒的に人間が多い。チャオが過酷な環境に向いていない以上仕方がないことであり、それはこの銀河での共通認識である。チャオが戦場にいる、ということ自体が珍しいのだ。
だが、エカテリーナの疑問に対し、思わずオリトはこう叫んだ。
【オリト】「俺は這い上がるために戦ってるんだ!みんなの希望になるために!」
…それが、スラム育ちであるオリトの答えだった。

それを聞いたエカテリーナは、
【エカテリーナ】『そう。でも、関係ない』
そうつぶやき、再びビーム砲を放つ。必死に避けるオリト。
そして、オリトが避けたビームは、その先にあった基地に直撃して、轟音が響いた。

…そう、カンナ達とイズミルが戦っている基地である。


ズドォン、と轟音が響き、揺れる。
と同時に、天井が崩れ、戦っていたイズミルとカンナ達3人を分断するかのように落ちてきた。
互いの姿は見えてはいるが、乗り越えて戦うには少々難儀する程度の瓦礫である。
【クーリア】「さすがにこれ以上は…転進を検討しましょう」
【カンナ】「そうね…」
そう話し合い、剣をしまう。

【イズミル】「チッ、面白ぇとこだったんだが…まぁいい。どうせ銀河のどっかでまた会うだろうよ」
イズミルもさすがにこの状況で追撃はできないと考えたのか、そう言い残しクルリと後ろを振り向いた。

…と、思われた。
それを確認して、カンナ達も自分たちが来た方向に向いて、撤退を始める。

次の瞬間だった。
【イズミル】「…なんて言うと思ったか!!」
イズミルはバッと正面を向きなおして、光線銃を素早く抜き、数発。

カンナ達は完全に油断してしまっていた。
反応する暇もなく、そのうちの一発が―――レイラを貫いた。

【カンナ】「レイラあああああああっ!!」


その場に倒れこむレイラ。
クーリアが光線銃を数発撃ち返してイズミルを退却させている間に、カンナが駆け寄る。

【カンナ】「レイラっ、レイラっ!!」
カンナの必死の呼びかけに対し、レイラが掠れるような小声で応える。
【レイラ】「…ごめんね…カンナ…あたし、先に行くね…
      しばらく…来なくていいからね…80年ぐらいしたら…向こうで…一緒に…ケーキ…食べ…よう…ね…」


…その言葉を最後に、彼女は動かなくなった。


【カンナ】「ああああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁああああっ!!!!!」


戦場に、ただ無情な叫び声が響いた。

このページについて
掲載日
2021年7月24日
ページ番号
30 / 51
この作品について
タイトル
【Galactic Romantica】
作者
ホップスター
初回掲載
2020年12月23日
最終掲載
2021年12月23日
連載期間
約1年1日