第3章:伸ばした腕の先に見えるもの

「はーっ、いくらここが共和国との境界付近だからって、辺境とはなぁ…」
「サグーリアみたいな激戦地はさすがに勘弁だけど、もっとこう…なぁ?もうちょっと華々しく活躍できる場所に行きたかったぜ…」
「華々しい…といえば、ウチのエース様はなんでまたこんな所に?」
「どうやら新型の調整らしいぜ。ここなら俺ら以外に見つかることなく色々できるってことらしい」
「なるほどなぁ…ん?なぁ、この反応って…」
「どうした…って、同盟の旧型艦?共和国ならともかく、なんでこんな所に同盟が…?」


        【第3章 伸ばした腕の先に見えるもの】


クロスバード、食堂。
ミーティングルームは別にあるのだが、カンナの場合はミーティングをする場合ここで食事をしながら行うことが多い。
【カンナ】「…みんな集まったわね。それじゃあ、夕食にしましょう!いただきます!」
その合図で、X組のメンバーが一斉に食事に手をつける。その横で、かなり疲れた表情を浮かべるオリト。
【オリト】「つ、疲れた…まさか10人分の食事を一度に作るのがこれだけきついとは…」
【ミレーナ】「はい、お疲れ様!…自分も食べておかないと、この先持たないわよー?」
【オリト】「この先って、まさか…」
【ミレーナ】「そう、片付けも手伝ってもらうから、頑張ってね!」

それを聞いて呆然とするオリト。その様子を見たカンナがミレーナ先生をたしなめる。
【カンナ】「ミレーナ先生…あまり無茶はさせない方が…色々ありすぎてだいぶ昔のように思えますけど、オリト君がここに迷い込んだの今日ですよ…」
【ミレーナ】「士官学校に入学する生徒なんだから、これぐらいは頑張ってもらわないとー。どうせあそこで普通に新入生やってても先輩とか教官から似たようなことやらされるだろうしね。ま、一応あたしは医者だし、無茶はさせないつもりよ」
【カンナ】「それはまぁ、そうなんでしょうけど…」
兵士を育てる学校が厳しいのも、古今東西変わらない。そうでなければ戦場で生き残れないし戦いに勝てないので、ある意味当然の話である。しかし、X組のメンバーはエリート中のエリートの為、士官学校の生徒でありながらそういう世界とはあまり関わらずにここまで来ている。だからこそ、カンナは『そうなんでしょうけど』と推測する形で喋った。

一方、そんな会話を聞いていたオリトは、ミレーナ先生に向けてこうつぶやいた。
【オリト】「…俺、やります」
【ミレーナ】「あら、珍しいわねー、若いのに根性ある」
【カンナ】「でも、無理しちゃダメよ。何かあったら言ってね、あたしらが先生を止めるから」
【オリト】「はい、分かりました」
そう言って、オリトも夕食を食べ始めた。一方、ミレーナ先生は不満顔。
【ミレーナ】「ぶー、なんか信用されてない…」

…さて、カンナは正面を向き直し、改めて口を開く。
【カンナ】「とりあえず、食べながらミーティングを始めます。…まずは、現在の状況の確認。フランツ、改めて説明お願い」
【フランツ】「了解しました」
フランツが立ち上がり、正面のモニターに銀河全図を表示させ、ポインターで指し示しながら説明する。
【フランツ】「現在我々は、同盟の首都惑星であるアレグリオや本来の目的地であったバルテアがある銀河のアルビレオ腕の正反対にあるポラリス腕の外れ、銀河の辺境に位置します。銀河の端っこといっても差し支えありません」
その言葉に、一同が沈黙する。その中で、フランツはさらに説明を続ける。
【フランツ】「ここから最寄の惑星はクレシェット。宇宙連合の影響下にあります。また、その反対側には銀河共和国の勢力圏内である惑星ディステリアがあります。距離的にはクレシェットからやや遠くなりますが。…いずれにせよ、連合と共和国が互いを睨み合うエリアに来てしまった訳です」

【オリト】「なんというか…最悪だな…」
思わずオリトが口に出す。そこで、クーリアが補足を入れる。
【クーリア】「先ほども艦長が言ってましたが、銀河の外まで出てしまうよりはマシです。それにもう1つ幸いなことに、このエリアは銀河の辺境で戦略的価値が薄いということもあり、連合と共和国は睨み合ってこそいるものの、直近1年以内に直接戦火を交えたという話は聞いていません。サグーリア近辺では激戦が繰り広げられているようですが…」

【カンナ】「それじゃ次、ジャレオ、エンジンは結局どうなったのかしら?」
次はジャレオの番。フランツと交代するようにして立ち上がり、正面のモニターを操作しながら説明を始める。
【ジャレオ】「はい。結論から言うと、本格的な修理を受けないとカストルは使い物になりません。…正直に言って、もう完全に壊れちゃった、という感じです」
再び、一同に沈黙が走る。
【ジャレオ】「幸い、ポルックスの側に問題はありませんので、通常航行及び艦機能の維持は可能です。しかし、超光速航行となると…不可能ではありませんが、せいぜいクレシェットやディステリアまで数日かかって行けるかどうか、という程度でしょうか」
【カンナ】「まるで宇宙開拓時代ね…」

そして、議題は次のテーマに移る。
【カンナ】「…まぁとりあえずこの話は一旦置いといて、次。なんだかんだでちゃんと紹介しきれなかったけど、例の迷い込んだチャオのオリト君。こんな状況になっちゃったし、しばらくクロスバードで面倒を見ます。よろしくしてあげてね」
と、オリトを紹介する。オリトは慌てて立ち上がり、
【オリト】「よ、よろしくお願いします!」
と一礼。すると、全員から拍手が沸いた。一通り拍手が終わった後、オリトの隣の席にいたクーリアが話しかける。
【クーリア】「ウチのメンバーについては、おいおい覚えていけば構いません。まぁ、私含めてかなり変わった面子ばかりですから、そんなに苦労はしないと思いますが…」
【オリト】「そ、そうなんですね…」
オリトは微妙に反応に困りながらも、そう答えた。

その後、少しの沈黙の後、カンナがやや言い出すのに躊躇しながらも、喋り出した。
【カンナ】「で、結局、あたしらはこれからどうすべきか、ね…」
銀河の辺境、しかも敵同士が睨み合っているエリアに突然放り出されてしまったのである。そう簡単に結論が出るはずもなく、雰囲気が沈む。
【クーリア】「現在のエンジンの状況では、私達同盟の勢力圏内まで辿り着くには最短ルートでも1ヶ月ほどかかります」
【フランツ】「当然同盟の勢力圏まで戻るには連合か共和国のどちらかの勢力圏内を通る必要がありますし、その上最短ルートを通る場合は危険な銀河中心部を抜ける必要があります。…正直、無謀という他ありません」
…すると、1人の男子生徒が声をあげる。クロスバードの砲撃手、火器管制を担当するゲルト=アンジュルグである。
【ゲルト】「大昔に戦艦たった1隻で隣の銀河まで突っ込んで全宇宙規模の帝国を滅ぼしちゃうってアニメがあったらしいなそういえば…リアルにそんな展開かよ!」
【クーリア】「…その旧時代のアニメはよく知りませんが、とにかくそんなアニメみたいなことをやらなきゃ私達は生きてアレグリオには帰れない訳ですよ」

【カンナ】「…となると、別の方法…つまり、連合か共和国のどちらかを頼る…ということを考えなければならないわね…」
しかし、それもなかなか難しい話である。現在の銀河情勢は大雑把に言うと、銀河を巨大な円として考えた時に、ちょうど円を120度ずつ3等分するように3大勢力の勢力圏があるような状態である。どの勢力も他の2勢力と正面からぶつかる形になっており、AとBが協力してCを攻撃する…といったような状況が生まれにくくなっているのだ。
その上3勢力が交差するはずの銀河の中心部は、中心にある巨大ブラックホールの影響により重力が歪んでおり、さらにその影響で星やガスなどの物質が密集している危険地帯で、先ほどフランツが説明したように通り抜けるのは非常に難しい。近年の超光速航行技術であれば一気に通り抜けることもできるが、カストルが壊れてしまったことによりそれもできない。

クーリアがそんな内容のことを大まかに話した後、こうまとめた。
【クーリア】「…まぁ、最終手段としては考える必要があるでしょう。ただその場合、下手を打つと裏切りと看做されて同盟に帰ったところで首がスパーン、ですよ?」
…と、自らの首に手をやりながら。
【カンナ】「ええ、現状ではあくまでも自力での帰還を目指す、ということで…」

と、その時、食堂に警報音が鳴り響いた。一瞬でメンバーに緊張が走る。
【クーリア】「この警報音は…!」
【レイラ】「ええ、敵艦です!…連合のオリオン級が1隻!」
手元の端末を見ながらレイラが叫ぶ。
【カンナ】「みんな、急いでブリッジへ!」
カンナの合図で、みんな一斉に立ち上がり、ブリッジへと向かい走り出した。

残ったのは、呆気に取られているオリトと、ミレーナ先生のみ。
【オリト】「て、敵…?」
【ミレーナ】「そりゃまぁ、さっきみんなが説明した通り、敵陣ド真ん中だしねー」
彼女は顔色一つ変えずに、食事を続ける。
【オリト】「先生は行かないんですか?」
【ミレーナ】「あたしはここだとただの雑用係だからねー。一応軍人で教官という立場上ブリッジに座らなきゃいけない時もあるんだけど、お飾りみたいなもんだし」
と、どこか飄々とした雰囲気で喋っていたが、次の瞬間、突然表情を変えてオリトにこう問いかけた。
【ミレーナ】「…で、君はどうするのかしら?」

そうオリトに問いかけた目は、軍人のそれだった。反応できず、何も言えないオリト。だがすぐに、いつもの雰囲気に戻り、こう続ける。
【ミレーナ】「もちろん、夕食の後片付けを手伝ってくれるとあたしとしては嬉しいんだけどねー。軍人を志望して士官学校に入ったんだったら、今からここで何が起こるのか、をブリッジで見ない手はないと思うけどねー?」

…そう言われたら、動かない理由がなかった。
【オリト】「…先生ごめんなさい、行ってきます!」
そう言い残して、自らもブリッジへ向かった。残ったミレーナ先生は、
【ミレーナ】「別に謝らなくてもいいんだけどねー…っと、それじゃ、あたしは片付けやりましょうか。折角作ったものを残されるのは良い気分しないけど、敵襲じゃあしょうがないわよねー…」
とぼやきつつ、テーブルに並んでいる食器を片付けだした。

オリトが急いでブリッジに駆け込む。
【オリト】「すいません、見させてもらってもいいですか!?」
【カンナ】「お、来たわね。当然っ!それじゃ、そこに座って!」
と、本来はミレーナ先生が座るはずの場所を指す。乗り込む人数が決まっている練習艦なので、座席はそこしか空いてないという訳だ。
オリトは人間用の大きな椅子に座り込む。…が、チャオの大きさではデスクが邪魔で様子が分からない。すぐに椅子に立って様子を見るようになった。

次の瞬間、モニターを見ていたレイラが叫ぶ。
【レイラ】「敵艦から人型兵器の発進を確認!現在のところ恐らく1機、これは…データにありません!新型の可能性があります!」
それを聞いたカンナは、妙に納得した表情を見せた。
【カンナ】「なるほどねぇ…そういうこと」
【オリト】「どういうことですか?」
【カンナ】「ここは一応ギリギリ連合の勢力圏内だけど、かなりの辺境。そこで新型を1機だけ発進させてきた、ということは…相手の目的は、恐らく新型のテストよ」
【クーリア】「まぁ言ってしまえば、私達は新型の実験台にされた、ということです」
【オリト】「実験台!?」
その表現に思わずオリトが驚く。

だが、驚いている間にも敵は近付く。
【レイラ】「…光学映像、入ります!」
レイラがそう叫んだ直後、ブリッジ正面にある一番大きなモニターに映像が入った。そこにいたのは、青い人型兵器。
それを見た瞬間、オリトを除いてブリッジにいた全員が絶句した。
数秒の沈黙の後、カンナがようやく言葉を発する。
【カンナ】「い、いやー、これは…今日は色々あったけど、最大のアンラッキーね…」
【オリト】「アンラッキー?」
事情をよく知らないオリトが尋ねる。クーリアが答えた。
【クーリア】「連合の機体であの青いカラーリングといえば、彼女しかいませんよ…
       …連合のエースパイロット、シャーロット=ワーグナー。別名、『蒼き流星』…!」

このページについて
掲載日
2021年1月16日
ページ番号
4 / 51
この作品について
タイトル
【Galactic Romantica】
作者
ホップスター
初回掲載
2020年12月23日
最終掲載
2021年12月23日
連載期間
約1年1日