part1・B 「消火器」
次の日の朝。Dはいつもより早く起きた。
怪奇現象。
この言葉はDの興味をそそった。
「それにしても・・・。」
よく寝る女だ。Hだったっけ?これがホントにヒーローチャオか?
と、疑いざるを得なかったほどだ。
起こすか。いや、タダの起こし方だったらつまらないな。
消火器が置いてある。あぁ、これは使えそうだな・・・。
「いや・・・。」
しかし、Dは、これはひどいことになるだろうし、
ホテルの部屋の掃除代やらをはらうほど金はない。
所詮、大学で何故かかり出させる掃除のバイトで、
そこそこもらっているだけだけだしと思い止めておくことにした。
しょうがない。此処は元来の方法で行くとするか。
Dはある広告のチラシを手にして、にやっと薄笑いして、
Hに呼びかけた。
「お~い、OOってところで高級朝食バイキングが出来・・・。」
その声を聞いた瞬間、Hは飛び起きた。
そして、服をさっさと着替えて、
髪の毛(チャオも髪の毛が生えるようになったのだ。)
を整えて、「よし!行くよ!」と言った。
Dは単純な奴だなと思って、
とりあえず、頬のマッサージと歯を食いしばっておくかと思った。
「ねぇねぇ!その高級朝食バイキングは何処で出来るの?」
Hは「高級」にやけに力を入れて言う。
「ん?あぁ、あれはねぇ・・・。」
「もう、じれったい!見させてもらうよ!」
Hはその高級朝食バイキングの広告を見る。
刹那、Dの頬にHの右ストレートが飛んできた。
そのレストランは「来年春完成予定」だった。
小一時間もしないうちに問題の庭に着いた。
ついでに、あの後某ファーストフード店で朝マックを食べた。
Hはあぁ、これが消えるチャオの庭なのねと思った。
「ところで、私たちは消えないの?」
「消えないな。何せ、これまで消えたのは3匹だけだからな。」
「は?必ず消える訳じゃないの?」
「そう、そこがミソ。だから、事件性があるかもしれないから、
警察が出てきているんだよ。」
Hは成る程と納得したが、疑問が生じた。
そう、私たちは警察と一緒に捜索とか出来るのかと。
「は?出来るはずがないでしょ。Hちゃん。」
その瞬間、Dの左頬にフックが飛んできた。
「暴力的だねぇ。ま、要は警察にばれないようにするんだよ。
何せ俺たちは怪奇現象の正体が知りたいんだよ。
古い井戸とか調べたりするんだよ。」
「ちょ・・・ちょっと、まさかホラーで行くの?」
Dは今更気付いたの?と言うような顔をしていった。
「だって俺、民俗学専攻しているんだから。」
Hは今更ながらに助手になったことを後悔した。
怪奇現象を科学的に分析するんじゃなかったのかよ・・・。
そう言うことで、二人は早速、薄暗い路地から庭に入った。
この庭は広い。公園並の大きさを誇っている。
そして、中心に半分くらいの大きさがあるきれいな池。
周りには芝生が広がっていた。
ただ、一部に土管が乱立している所があった。
そこに、DとHはいた。
「ふぅ。ところで、警察見て気付いた?チャオしか居なかった、
そう思わなかった?」
「まぁ、当たり前だと思うけど・・・。」
「いや、此処まで大きい事件だと人間も入るはずなんだけど、
今回は一人もいない。」
HはDの言いたいことが全く分からずにいた。
「そうさ、人間はチャオがどうなろうともどうでもいいのさ。」
「なんで、今そんなことを言うの?」
「それは人間が調べていればもっと早く解決するはずさ。
あのチャオ達はほとんど何も持っていないだろ。」
そして、その後も、この公園の事実を告げられた。
この公園は火事が起こりやすかったから、
近所の人間が消火器を持っていつも消しに行ったそうだ。
ただ、なんで火が出たのか分からずにいた。
そうして、暫く警察に見つからぬように色々探索したが、
何も見つからずにいた。
「何もないな。せめて誰が死んだかぐらい分かれば・・・。」
「ねぇD。あそこに子どもが二人いない?」
「あぁ、本当だ。行ってみるか。」
二人は、そのチャオの子どもに近づいていった。
まだ進化していないらしかった。
「ねぇ、君たち。お話ししたいんだけど・・・。」
「だれ?なんかさっき来た黒服のおじさんと違うけど・・・。」
「いやさ、僕たちは消えたチャオのことを調べているんだよ。」
「へぇぇ、あの3人のことじゃないの?」
Dはよしと確信して、訊いた。
「その3人ってどんなチャオだったの?」
暫く訊いた後、Dは飴を一つづつあげた。
子どもたちは笑顔で帰っていった。
「成る程、3匹とも周辺ではいたずらが多かったらしい。」
夕方になろうとしていた。
「チャオ」警察も、もう帰ろうとしていた頃だった。
Dが水の中に何か、白い物があるのに気付いた。
「これって、消火器の白い奴じゃない?」
「あぁ、成る程な・・・。でも、なんかおかしいな。」
Dはひとすくい、その白い物をとった。
「・・・・・・。」
ぴんと来た。
周辺の鉄工業地帯、消火器、チャオだけの警察、いたずらっ子。
何が怪奇現象だ。これはそんな簡単に片づく物じゃないぞ。
Dは拳を握り固めて、ホテルにHと戻っていった。