『100リングの依頼屋』―その2

<その2>


霜月はフェルに対して、まずこう問いかけた。
【霜月】「・・・いい?いじめってのは、必ず『理由』があってターゲットが決まるものよ。
     背が小さいとか、太ってるとか、あるいは何かで失敗したとか、それこそ目つきが気に入らないとか・・・その『理由』は分かる?」
【フェル】「うーん、そういうのは・・・分かんないんだけど・・・ボク、何の取り柄もないんです。
      運動ができる訳でも勉強ができる訳でもないし、特技とかもないから・・・」
【霜月】「なるほどねぇ。」

そこまで聞いて霜月は、少し咳払いをして、こう言った。
【霜月】「さて・・・一応話を聞いたけども、こっちも仕事。こっから先は、正式な依頼としてお金をもらうことになるわ。」
【フェル】「あ、それなら・・・ボクお金あんまり持ってないですし・・・」
と、席を立とうとする。それを見た彼女は、こう言ってみせた。
【霜月】「お代が、100リングでも?」

100リング。1リング=数円、というのが両方の世界の物価をみた霜月の感覚である。つまり、数百円相当。
今夜のおつまみが買えるかどうか、という値段である。
【フェル】「そ、それだけでいいんですか?」
【霜月】「ええ。もちろん成功報酬とかそんな下らないものを追加で払わせる気はないわ。」

彼女は、全ての依頼を100リングでこなす、言わば「100リングの依頼屋」なのだ。
普通こういうパターンの場合、アンティークショップが副業で依頼屋が本業、という場合が多いのだが、彼女の場合依頼屋はあくまでも副業。
だからこそ限られたケースでしか依頼を受けないし、難しい依頼も受けないのだ。
(そもそも、彼女の「副業」を知っている人間はアンナ以外には数人(チャオ含)しかいない)

で。
100リングならば、フェルの財布にも入っている。
【霜月】「・・・どうするの?」
【フェル】「お、お願いします!」
フェルは深々と頭を下げた。


再びソファーに座ったフェル。霜月が再び話を始める。
【霜月】「これは最終的には自分自身で何とかしなきゃいけない、ってのは分かるわよね?」
【フェル】「そうですよね・・・」
さすがに学校までついてって監視するのは物理的に無理な話。
そして、
【霜月】「あたしがいじめっ子をボッコボコにするってのもありっちゃありだけど、それだとまたどこかで同じ事を繰り返すだけね。」
【フェル】「それじゃ、具体的に・・・どうするんですか?」
すると霜月は少し考えた後、
【霜月】「そうねぇ・・・例えばさ、今好きな女の子とかいる?」
【フェル】「ほ、ほえええっ!?」

突然の質問。驚かない者はいないだろうけど、それにしてもフェルの反応はおかしかった。
【霜月】「なるほど、いる、と。めもめも。」
【フェル】「な、なんでそうなるんですか!?」
【霜月】「誤魔化そうったってダメよー、こういうのは反応見りゃ大抵分かるんだから。」
【フェル】「い、います・・・」

というわけで。
【霜月】「クラスメートの女の子ね・・・
     例えばさ、その子のピンチを救って、『フェル君かっこいいー!』ってところを見せれば、付き合えるんじゃないの?」
【フェル】「そ、それはそうかも知れないですけど・・・それといじめ解決に何の関係が・・・」
明らかに話が脱線しかけている。が、ちゃんとした理由があった。
【霜月】「これはあたしの経験論だけど、こういう時に一番必要なのは『自信』よ。
     で、その自信をつけさせるのに一番手っ取り早いのが、彼女を作るってワケ。」
一見無関係に見えて、理に適っているのである。


という訳で、翌日の夕方。
霜月とアンナは霜月堂を早々に閉めて、フェルの通ってる学校の近くへ。

【フェル】「あ、あの子です・・・」
と、学校から出てくるチャオの女の子を指す。
【霜月】「あの赤いリボンの子ね・・・よし、作戦開始!」
【フェル】「作戦?」

【霜月】「あたしとアンナであの子をピンチにさせるから、救ってやりなさい!」
【フェル】「まさか、襲うんですか!?」
とっさにフェルが想像したのは、霜月ペアがその子の前に立って恐喝、的なシーン。
【霜月】「・・・といっても直接じゃないわ。彼女の下校する道、分かる?」
【フェル】「と、途中までなら・・・」
【霜月】「それじゃ、案内して!」

3人が来たのは、川沿いの一本道。
【霜月】「ここがいいわね・・・あたしが車で突っ込むから助けるのよ!」
・・・そう言う横には、いつの間に借りてきたのかレンタカー。
【フェル】「危ないじゃないですか!というかどう考えても直接ですよね!?」
【霜月】「あ、やっぱり?」
【アンナ】「麗香・・・」

そうこうしているうちに、赤いリボンのチャオがやってきた。
【アンナ】「で、結局どうするんですか!?来ちゃいましたよ!?」
【霜月】「こうなったら強行よ!アンナは念のために・・・!?」
そう叫びながら、霜月が車に乗り込もうと運転席のドアを開けたその時であった。

その女の子チャオが、不良っぽい男数人に囲まれたのである。

<続く>

このページについて
掲載号
週刊チャオ第307号
ページ番号
2 / 3
この作品について
タイトル
『100リングの依頼屋』
作者
ホップスター
初回掲載
週刊チャオ第307号