『100リングの依頼屋』―その3

<その3>

【フェル】「!?」
【アンナ】「麗香、これは・・・」
【霜月】「知らないわよ!・・・だけどこれは本当にチャンスね!さぁ行ってらっしゃい!」
そう、わざわざ人為的に作らなくても本当のピンチがやってきたのだから、ある意味ラッキーである。彼女にとってはアンラッキー以外の何物でもないが。

【フェル】「で、でも・・・あいつら、近所でも有名な『チャオ狩り』の連中ですよ・・・」
体力的に劣るチャオを狙い金品を奪う人間。そういう行為や、それをやる人間のことを総称した呼び名が「チャオ狩り」だ。
【フェル】「警察に連絡した方がいいんじゃないでしょうか・・・?」
【霜月】「・・・そうね、警察に連絡した方が安全確実かも知れないわ。だけど、だからといって目の前で危ない目に遭ってる女の子を放っておくの?」
【アンナ】「でも麗香、いくらなんでも人間の男相手じゃ私達は・・・」
無策に突っ込んだところで、結果は見えている。

・・・ならば、『策』を使えばいい。霜月がとっさに思いついた。
【霜月】「・・・あたしが車で奴らに突っ込むわ!アンナと協力してそのスキに彼女を救い出しなさい!」
と、フェルの答えを聞かずに、開いたままのドアから運転席に飛び乗りエンジンをかけた。そのまま思いっきりアクセルを踏み込み、発進。

【フェル】「え、ええっ!?」
いきなりの展開に驚くフェルだが、
【アンナ】「こうなったら仕方ありません・・・行きますよ!」
アンナに腕を引っ張られ、車を追うように走り出した。


【不良A】「おい、姉ちゃんよ・・・っておわぁっ!?」
その場所は緩いカーブ。霜月はそこで狙いすましてハンドルを切ってドリフトさせ、その場所に突っ込んだ。タイヤの摩擦音が辺りに響く。
チャオ狩りの集団は両側に慌てて避け、中には転んだ者も。恐喝どころではない。
襲われた女の子も慌てて避けるが、バランスを崩し河原へと転がり落ちた。
【女の子】「きゃあああっ!」
【フェル】「!!」
【アンナ】「いきますよ!」
その合図でアンナとフェルは河原へ飛び降り、あっけにとられるチャオ狩りの不良連中を横目に、女の子の両腕をがっちり掴んで、飛び上がった。

・・・そう、空中ならば人間の手は届かない―――

【霜月】「・・・うまくいったようね・・・」
その様子を離れたところから双眼鏡で確認した霜月は、再び車のエンジンをかけ、さっさとレンタカーを返却しに行ったとか。


・・・・・


【霜月】「・・・で、その後どうなったのさ?」
土曜日の昼下がり、やはり霜月堂のカウンターでPCのモニターを前にしてアンナに聞く。
【アンナ】「フェルさんの件ですか?
      実はあの時、フェルさんは恥ずかしがって名乗り出せなくてそのまま逃げるように帰っちゃったんですよ・・・」
【霜月】「ダメじゃん・・・」
【アンナ】「ところがです。
      実はあの女の子もフェルさんのことを密かに好きだったらしく、告白されて付き合いだしたんだそうで。」
【霜月】「・・・マジ?」
【アンナ】「さらにさらに。
      その女の子ってのがなんと学校の理事長さんのお孫さんとかで、恐れを成したいじめっ子がピタリといじめを止めたとか。」
【霜月】「どれだけ出来すぎてるのよその話・・・ってかあたしらが頑張った意味なくない?」
つまらなさそうに言う霜月。
【アンナ】「まぁ、いいんじゃないでしょうか?結果的に解決した訳ですし、こっちもちゃんと100リング貰ってる訳ですし・・・」
【霜月】「車借りる費用にもならないじゃないの。・・・まぁ全部100リングで仕事受けてるこっちが悪いんだけどさ。」

するとその時、たまたまつけていたテレビからこんなニュースが流れた。
【アナウンサー】「次のニュースです。『チャオ狩り』に襲われそうになっていたチャオを勇敢にも助けたチャオがいました。インタビューをどうぞ。」

次の瞬間、アンナが大写しになり、マスコミのインタビューを受けてる姿が。
【霜月】「・・・何やってんのよ・・・」
【アンナ】「こ、これは・・・その・・・結局私だけで助けたみたいになっちゃいまして・・・」
照れるアンナ。ますますつまらなさそうな顔をする霜月。

妙な沈黙が少し流れた後、チリン、と鈴の音がなり、店のドアが開いた。お客さんである。
【霜月】「・・・いらっしゃい。ごゆっくりどうぞ。」


<おわり>

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聖誕祭以来の週チャオ掲載となります、ほっぷすたあです。『100リングの依頼屋』、いかがだったでしょうか。
今の私には体力的に(?)連載は無理っぽいので、まぁこんな感じで読みきりを載せて頂きました。

さて、お分かりの方もいると思いますが、このお話の主人公・霜月麗香とアンナ=バルドルのペアはこれが初登場ではありません。
06年聖誕祭の読みきり・「チャオ同好会Forever」(373ページ)にて重要な役どころとして使ったのですが、今回主役にもってきてみました。
いわばスピンオフ。ソニックシリーズにおける「シャドウ・ザ・ヘッジホッグ」みたいなもの、と言うとわかりやすいのかな?

とりあえず、何かあれば上のツリーまでどうぞ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第307号
ページ番号
3 / 3
この作品について
タイトル
『100リングの依頼屋』
作者
ホップスター
初回掲載
週刊チャオ第307号