『100リングの依頼屋』

ステーションスクエアの一角にあるアンティークショップ・霜月堂。
大通りに面してはいるが、訪れる人はそんなに多くない。

その店のカウンターで、パソコンのモニターを相手にぶつくさ文句を言ってるのが、この店の主人・霜月麗香だ。


【霜月】「あ゛ーっ、もうなんで失敗するのよーっ!!」

現在26歳。2年前に、『次元移動』により、別の世界―――つまるところ日本がある現実世界―――からこのソニック世界に偶然やってきた。
最初こそ戸惑ったものの、やがて霜月堂をオープンさせてある程度の余裕をもって生活できるようになった。

今のところ、元いた世界に戻る気はない。
こちらの世界の方が楽しいから、というのが一番の理由であるが、それにもう1つ。

【チャオ】「こんな姿をお客さんに見られたらどうするんですか・・・はい、コーヒー。」
パートナー契約を結んだチャオ、アンナ=バルドルの存在がいるからである。


【霜月】「どうせ客なんか来ないわよ、平日の真昼間なんかに。」
と、彼女はアンナが持ってきたコーヒーを片手につぶやく。

霜月がパソコンで何をしているかといえば、なんとネットゲーム。
客がいない間は大抵モニター相手ににらめっこしている。

【アンナ】「というか、ネットゲームって普通はいわゆる『オタク』な人がやるものじゃないんですか?」
【霜月】「んー、そういう人も確かに多いけど、女性も結構やってるのよー。主婦とか普通にいるしね。
     つまんない昼ドラやらワイドショー見てるよりよっぽど楽しいじゃん?」
【アンナ】「な、なるほど・・・ちなみに、元いた世界でもやってたんですか?」
【霜月】「いや、普通のゲームはやってたけど、ネトゲにまで手が回らなかったわねぇ。
     あっちじゃ普通に会社勤めしてたからこんな暇なかったし。」
【アンナ】「普通のゲームはやってたんですか・・・」
【霜月】「男兄弟に挟まれた真ん中だったからねぇ。ガキの頃から普通に混ざってやってたなぁ。」


そうこうしているうちに、時間は夕方を指す。この時間になると、学校帰りの女子高生が覗きにやってくる場合もあるので、悠長にネットゲームはやっていられない。
ゲームを終了させ、普通のネットサーフィンに切り替える。

だが今日は、ショーウィンドウを少し覗いてすぐに歩いていってしまう客が大半。
【霜月】「ぶー・・・ま、こんな日もあるか・・・」
と、夕暮れの街を見ながら不機嫌そうにつぶやく。


すると、その目にあるチャオの姿が映った。
まだ子供のチャオが、自分の店のショーウィンドウをぼーっと眺めている。
【霜月】「・・・ふむ・・・そうね・・・」
彼女は何か考えながら小声でつぶやき、次の瞬間、突然立ち上がった。
【アンナ】「!?」
驚くアンナ。
【霜月】「・・・『出番』よ。たぶん、ね。」


彼女は店を出て、そのチャオに話しかけた。
【霜月】「ねぇ、キミ・・・何か悩み事とか、あるんじゃないの?」
するとそのチャオは当然驚く。いきなり話しかけられたのだから。
【チャオ】「わわっ!?」

【霜月】「大体コドモのチャオがウチのショーウィンドウを覗くなんておかしいし。
     ・・・ま、中においでよ。」
と、そのチャオを招き入れた。


【アンナ】「フェル=クレイス、近所の中学2年生、コドモチャオ・・・」
と、アンナが紙を読み上げる。霜月が書かせたものだ。
【フェル】「な、なんなんですか・・・?アンティークショップなのに取調べ・・・?」

フェルが連れられたのは、霜月堂の2階にある一室。普通のお客さんは入れない部屋である。
すると霜月は突然大声で。
【霜月】「この霜月堂、アンティークショップとは世を忍ぶ仮の姿!そしてその実体はっ!!」

・・・しーん。

【霜月】(ちょっと!アンナのセリフ!)
【アンナ】(だからそんな特撮ヒーローごっこ、恥ずかしくてできませんってば!)

【フェル】「・・・?」

気を取り直して。
【霜月】「コホン!
     ・・・その実体は!どんな依頼もこなし、人の願いを叶える何でも屋!!」

【フェル】「は、はぁ・・・」

なので、ある。
【霜月】「ただし危ない仕事と体力使う仕事とアタマ使う仕事はお断り♪」
【アンナ】(私も付き合い長いですけど、この人ホントに26ですか・・・)

それはともかく。
【霜月】「・・・で、なんか悩み事がありそうな顔してるけど、どうなのよ?」
【フェル】「ボク・・・いじめられてるんです・・・」

相談内容はベタなものである。中学に入ってから悪いグループにいじめの対象にされて、色々ないたずらを受けている、というもの。

【霜月】「そんな奴ら、どかーんっとやってすばーんっとやっつければいいじゃない。」
【アンナ】「いや意味わかりませんって。」
アンナが冷静につっこむ。

【アンナ】「っていうか・・・麗香って絶対子供の頃いじめる側だったでしょ・・・」
【霜月】「バレた?・・・じゃなくって。」

次の瞬間、霜月の表情が変わった。真剣な目つき。

<続く>

このページについて
掲載号
週刊チャオ第307号
ページ番号
1 / 3
この作品について
タイトル
『100リングの依頼屋』
作者
ホップスター
初回掲載
週刊チャオ第307号