弱者
学校では授業で他の生徒と戦うこともある。
授業でないところでそういうこともあるのだが、それとは違い安全性が強調される。
ひどく傷つけた場合はそれなりのペナルティがある。
この授業で学ぶことはどうやって相手を傷つけるか、ではない。
それに至るまでの過程をどう上手にやるか、だ。
回避したり防御しながら回避したり防御できない攻撃をする。
利奈は非常に上手かった。
僕は下手だった。
味わうのは敗北だけだ。
敗北者に与えられるのはちょっとした苦痛だ。
ひどい苦痛を与えることはできないから、代わりにとんでもない映像が送られてきたりする。
勝者にはなれなかった。
弱い者は当然だが魔法によるいじめの対象となった。
この授業はその人間がいじめやすいかどうかを判断するいい材料となったのだ。
幸い僕は狙われることがなかった。
これは利奈がよく僕に話しかけてきていたことが抑止力として働いていたからだ。
あるいは彼女が僕を独占していじめていると認識されていたのかもしれない。
どちらにしても彼女が俺の傍にいることは広く知られていたから、大きないじめは回避された。
受ける攻撃は友人同士でじゃれ合うようなもので済んだ。
その点だけ考えれば僕は結構優遇されている立場だ。
だけど、考えることがある。
魔法が下手な魔法兵士。
その存在に意味はあるのだろうか。
どのようにして意味を見出せばいいのだろうか。
できることなら強さが欲しい。
利奈のように魔法を上手く扱える存在になりたいと思う。
でもなれる見通しはない。
魔法の扱いに関して、僕に持てる誇りはない。
ならば別の方向で自分の誇りとなるものを探すしかない。
一体何がある?
もしあったとしても、その誇りはいつまで維持することができる?
魔法という分野で僕が著しく劣っていることによって感じる劣等感は消えるのか?
安心できる未来が見えない。
そういう未来に行くための道が僕には用意されていないとも思う。
苦痛を与えられない環境は僕に悩む余裕を与えていた。
絶望だ。
この絶望からの逃げ道を求めていた僕は、とある噂を思い出した。