第四話
早く旅が終わってほしい。歩き続けていると、そう思う。会話が途切れて無言で行進する中、僕は考え事をして疲労を余分に溜めていた。
マサヨシの言うように、人々が望むように、僕は多くの人を助けようとするべきだ。でもそうすることがどうしようもなく怖い。その他大勢を助けることとアイを助けることが両立できないもののように感じてしまう。アイのことを意識して守ろうとした時点で、彼女を贔屓していることになるように思う。他の人と同じ一つの命として扱うことは、僕にはできそうもない。彼女は僕にとって特別な人だから。
「はあ」
溜め息を出さなければ潰れてしまいそうだ。
自分の持っている力が痛い。それは人を思い切り殴ったら自分の拳も痛みを感じるというのとは違って。人に似合わぬ力を手に入れた者が負わなくてはならない責任。それもまた人が背負うには大きすぎるものなのではないのか。魔法は心を強くしてはくれない。敵を打ち倒す手段が筋力であってもおそらくは同じ。この体の大きさはそのまま僕たちの限界を表している。だから人間は正しくなりきることなんてできないんだ。
宿でなぜかアイは二人部屋を二つにするよう提案してきた。タスクとマサヨシはそういうことがあると思ったのだろう。「ああ。二人でゆっくりするといいよ」とにやけながら言った。
二人きり。アイは告白をしてきた。
「知ってるんだ。ユウキが私を守るために、その、冷たい決断をしたこと」
「誰に、聞いたの?」
アイは首を振る。違う、と言う。
「ユウキは迷ってたから。自分の力を誰のために使えばいいか。本当はたくさんの人を助けるために、英雄になるために使うべき。だけど大切な人を確実に守るために使いたいって。だからね、最初の日、私を眠らせた時にわかったんだ。ユウキは多くの人を犠牲にするんだろうなって」
彼女の言葉には棘が無かった。咎める口調ではないせいで、僕は反応に困ってしまう。
「私、嬉しかったんだ」とアイは言った。「ユウキが私のことを優先してくれること。たくさんの人が死ぬことになっても、ユウキは私だけは助けてくれるってこと」
たぶん私はいい死に方しないんだろうね、と彼女は笑う。
「それでもちゃんと受け止めたいんだ。ユウキの気持ち。だから私もユウキの罪を一緒に背負いたい」
そしてアイは告白した。今度は、愛の告白だ。
「他の人が何人死んだっていい。私を守って」
今のアイには共犯者という言葉が似合った。僕の抱えているものが一気に軽くなる。一人の人間では手に負えないものが、二人になっただけでこんなにも軽い。僕はもう人のように泣いてもいいみたいだった。