第4話
「シフォンにコトバを、喋るコトの愉しみ、そして悦びを」
こうして5人の努力は続けられた。
だが、2週間経っても喋ってはくれなかった。
外村は焦っていた。
(このまま与党の動物愛護法改正案が参議院でも可決されれば、この子の素質がだいなしになる―――)
もちろん、シフォンの知能が他のチャオの比ではないことを、4人には明かそうとはしなかったが。
夢を継ぐ者 ~第4話・愛しき日々~
【野党議員】「事実、もうチャオは人間と同じ様に生活しているじゃありませんか!!」
【与党議員】「チャオに人権を与えたらどうなるか。他の法律も改正しなければならなくなり、それこそ社会は大混乱になる!!」
お互い一歩も譲らない論戦。
しかし、決着の時は近づいていた。
その日の夜の総理の記者会見で、総理はこう言ったのだ。
【総理】「既に十分な論議がなされたと判断し、来週月曜日にも採決に移りたいと思います。」
しかし、誰の目にも論議はまだまだ不十分。
そう、野党に論破されるのを恐れた『強行採決』だった。
この日は金曜日。
土日に国会は開かれない為、国会議員にとっては『明日』とほぼ同義であった。
しかし俗にはあと2日ある。
この時間を使い、マスコミが猛反撃を加えた。
(芸能界でチャオタレント・チャオ歌手が活躍するなど、この分野では野党案支持の声が高い)
生放送の番組で「チャオ特集」を組んだり、ゲストにチャオを呼んだり。
だが、決めるのは国会。
議席数は拮抗しているとは言え与党の議席数が多く、可決は確実視されていた。
そんな中、日曜日の朝のこと・・・
シフォンは日替わりで4人の家に宿泊していたが、土曜日の夜は中払の番である。
【吉原】「今日もシブヤにみんなで遊びにいこっと。あ、シフォンはあたしの番だし。
その時、メールが届いた。
Sub:し、シフォンが
From:中払
本文:シフォンが喋った!!!
とにかく、早く来て!!!
【吉原】「うそぉっ!?」
【倉田】「マジっ!?」
【大柳】「ええっ!!?」
【外村】「ま、マジかよっ!?」
みんな、シフォンが来てからは、シフォンに関するメールの内容は他の4人全員に送るようにしている。
4人は慌てて家を出た。
数十分後。
中払の家に、4人がやってきた。
【中払】「すごいよ、この子!朝起きたらいきなり喋るようになって、しかもすごいんだもん!!」
【倉田】「どういう風に?」
その問いには、シフォンが自ら答えた。
【シフォン】「コンニチハチャオ!ミナサマ、イママデメイワクカケテスミマセンチャオ!」
【吉原】「・・・すごい口調・・・」
【外村】「や・・・やはり・・・」
【大柳】「どういう事?」
【外村】「ここではちょっと・・・中で話そう。」
【倉田】「(耳打ちで)シフォンは遊ばせといた方がいいよね?」
【外村】「ああ。」
【外村】「シフォン・・・あの子は普通の子の数倍の知能をもつ・・・並の人間以上だ・・・」
【中払】「うそぉ!?」
【外村】「これまでのチャオの概念を破る・・・・ひょっとしたら、国会の決定も覆すかも知れない!」
【吉原】「でも、今日採決だから・・・」
【外村】「ああ、間に合わないだろうな・・・」
その時、偶然つけていたテレビの声が4人の耳に入った。
【リポーター】「こちら首相官邸前です。
総理が出発する1時間半も前だというのに、今回の強行採決に反対する人や報道陣でごった返しております!」
【倉田】「みんなで行ってみる?」
【大柳】「どこへ?」
【倉田】「官邸前へ。1時間もあれば間に合うでしょ?」
【吉原】「でも、何のために?」
【倉田】「いや、特に理由はない。でも、一度でいいから総理の顔って見てみたいでしょ?」
【外村】「それはあるなぁ。」
【中払】「んじゃ、シフォンも連れて、いってみよっか!」
【大柳】「決定ね。」
1時間後。
5人と5匹は、総理官邸前に到着。
しかし、官邸前の騒ぎの知ったのか、なかなか総理は出てこない。
【吉原】「なかなか来ないわね。」
【外村】「タイミングを外すのか、それとも裏や空から脱出するのか。」
【大柳】「あ、来たみたいよ。」
【レポーター】「あ、今総理が見えました!」
その時、
【シフォン】「ア、アレハ・・・・」
何かを見つけたのか、いきなりシフォンが外村の手を離れ、飛び出してしまった。
しかも、総理の目の前に。
【外村】「シフォン、戻ってっ!」
と、外村がシフォンを呼んだその瞬間。
ダーーーーン。
一発の銃声が響いた。
続く