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――それはちょうど私が小学校に上がって
2度目の夏がやってきた頃のことだった――

    [夢のつづきを…-The mirage of summer-]

 私の家は、周りを山々に囲まれた小さな集落にあった。
家の近くを流れる小川に、川上から桃がどんぶらこどんぶらこと
流れてきても不思議ではないくらい、田舎の中でもさらに田舎と言えるだろう。
周囲には山と川しかない。
さらに、小さな近隣の町まで車で30分はかかる。
そんな田舎で私は小さなころから生活していた。

 当然、学校なんてものも近くにはない。
小学生だった私は、学校へほとんど車が通らない田舎道を
片道30分かけて歩いて通わなければならなかった。
 その小学校もまた田舎の小学校。一学年一クラスで、
しかもクラスメイトは12人だけだった。

 そんな環境の中では、都会のように公園なんて洒落(しゃれ)たものなんて
なかったし、本屋、ゲームセンターはもちろんお店らしいお店も近所には
なかった。だから放課後や休日に外で遊ぶとなると、
学校の校庭か近くの野山に出かけるしかなかった。
 かんけり、かくれんぼ、数々のオリジナルルールを設けた(もうけた)各種鬼ごっこ、
そして目的地のない冒険。まあ今考えるとよくもまあこんなに遊んだと
感心するぐらい、いろいろな遊びをした。

 そして夏になれば私たちの遊び場は野山から川へと移るのだ。
学校の先生からは、
「危険だから子供だけで川に遊びに行かないように。」
と言われていたような気もするが、そんなことお構いなしに
みんなで、上流にある流れの穏やかになっている絶好の遊び場で
よく遊んでいた。





――その日、僕は炎天下の夏の暑さの中、いつものように”あの場所”へと足を進めていた。

川の上流、家の近くに比べて川の水がより透き通っており、さらに
緩やかな流れと程よい深さがある”あの場所”は、この辺一帯に住む子供なら
誰でも知っている川遊びの絶好のポイントだった。

 もはや聞き飽きたセミの大合唱の中を、山奥へと進む道から脇道に入ると
不意に涼しい風を肌に感じられた。
こんな真夏の暑い日には、みんながわいわいと騒いでいる
その目的地はすぐそこだ。
しかし、竹林を抜けたその場所に子供たちの歓声(かんせい)はなく
セミの声の中に川がさらさらと音を立てているだけだった。

 夏になれば、いつもも子供達でにぎわうその場所に、
その日は珍しく誰もやって来なかった。
しばらくはその場所を独占できることがうれしく、
夢中で泳いでいたものの、やはり一人ではすぐにあきてしまう。
 僕は川から上がると川原に腰を下ろし、誰か来ないものかと待ちながら
ぼんやりと水面を眺めていた。


――パシャン

不意にした、それまでの心地よい川の流れの音とは異質の水の音に
僕はハッと我に帰ってその音の方を見た。
 するとそこには、僕の腰ぐらいの高さの水色の奇妙な生物が水遊びをしていたのだ。

――河童(かっぱ)?

体が青くて2本足立ち、水辺でよく見られる謎の生き物…。
だが河童にしてはやけにファンシーな外見をしている。
2頭身で、ぬいぐるみのような外観だ。
 その生き物は、しばらくパシャパシャと水遊びをいていたが
僕の視線に気付いたようでやがて水面から顔を上げこちらを向いた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第119号
ページ番号
1 / 2
この作品について
タイトル
夢のつづきを…-The mirage of summer-
作者
夕霧
初回掲載
週刊チャオ第119号