第一章"三つ巴の意志"・その8

驚いて目を丸くしている澄の横に四宮が歩いてきた。

「君は一度家を戻ってくれ」

ボソボソという小さな声と共に、小さな紙切れを澄の手に込めた。
澄は紙が気になったが、今はその時では無いと悟った。

「クフルが・・・もしかすると危ないかも知れない。
 私達はこのチャオを何とかしなければならない。
 つまり・・・彼を助けられるのは君だけだ」

澄は冷静を取り戻し、真っ直ぐな目で四宮を見て頷いた。
そして一目散に喫茶店を飛び出し、家へと向かって疾走を始めた。
店には既に客も店員もおらず、残されたのは一人の人間と二匹のチャオだけだった。

「アルフ、ヤツは?」

「まだ動きませんね。気を失っている・・・とは考え難いのですけど。
 何らかの異常能力を持っているはずですから・・・」

二人はリオスが埋まる瓦礫の方を見つめていた。
全く動く様子が無い。暫くの間、辺りに静寂が立ち込めた。
長引くと不味い。四宮はそう思っていた。警察に関わるのはあまり好ましくないのだ。
警察も政府と繋がっている。多分、警察に寄せられた異常キャプチャー能力の情報は政府へ回される。
政府にとっては、アルフも安全とは言い難いのだろう。
彼らとしては、危険なチャオを捕まえれば捕まえるだけ「殲滅計画」の大義がたつ。
そうなっては元も子も無い。
まだ政府、澄の話に出た「CHAOS殲滅部隊」とやらの表立った行動は無いが・・・絶対にそのうち何らかの動きには出るだろう。
先手を打たなければ・・・手遅れとなる。
四宮は瓦礫に向かって歩いていった。
瓦礫を掻き分けてリオスを引きずり出し、一旦退散することにしたのだ。
だが、瓦礫の中にリオスの姿は無い。代わりに、そこの地面には大きな穴が開いていた。

「なっ・・・!?」

四宮の驚きの声が穴に響いた。
突然、割れた窓の外から声が聴こえてきた。

「や、四宮さん」

そこには一匹のヒーローチャオと、気を失っているリオスを抱えた茶髪のスパイキーヘアの男が立っていた。
四宮は目を見開き、眉間にシワを寄せて男を見た。アルフは四宮の様子を首を傾げて見ている。
とりあえず、四宮の顔を見る限り、四宮は彼のことを知っている様子だった。

「お前・・・藤岬か。丁度良かった、聞きたいことがあるんだが・・・」

藤岬はその言葉を遮るようにせせら笑った。

「こっちにも聞きたいことがあるんだ。四宮さん・・・アンタ何をしようとしている?
 "あの時"からアンタ、何かおかしいよ」

四宮は目を瞑り、少し間を空けて答えた。

「政府にも、Worldにも属さないで人間とチャオとの調和を手にしようとしている」

それを聞いた藤岬は言葉を荒げた。

「それは・・・俺たちとやろうとしていることが全く同じだろ!なら"Worldを抜けずにいれば"良かったんだ!
 ・・・今からでも遅くは無い。戻るんだ四宮さん」

それを聞いたアルフは不安な目で四宮を見た。四宮はアルフの視線に気付かないフリをして話を続けた。
アルフのキャプチャーはいつの間にか解けていた。

「・・・方法が気に入らないんだよ。お前達Worldはな。何故話し合おうとしない?始めから戦おうとする?
 だから俺はお前達とは決別したんだ。俺は俺の・・・自分のやり方でやらせてもらう」

藤岬は昂る気持ちを落ち着かせ、改めて四宮を見た。先ほどよりわずかに、冷たい目で。

「・・・分かった。アンタがそう言うなら、そう報告しておこう。さよならだ、四宮さん」

リオスを抱えなおし、藤岬はヒーローチャオとその場を後にしようとしたが、四宮がそれを止めて言った。

「待つんだ、こっちの質問に答えてから去れ。
 俺のいた・・・お前達Worldの"頭"は人間か、それともチャオか?」

藤岬は、口の端を少し持ち上げて笑い、去り際に言って行った。


「ハハハ・・・"どっちでも無い"・・・だけど"両方"さ」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第125号
ページ番号
10 / 23
この作品について
タイトル
禍の仔
作者
ドロッパ(丸銀)
初回掲載
週刊チャオ第122号
最終掲載
週刊チャオ第151号
連載期間
約7ヵ月6日