―第一章"三つ巴の意志"・その7―
四宮は妙に落ち着いていた。まるで場慣れしたような・・・。
四宮は周りを見渡し、「相手」がどこにいるのか探していた。
さっきまでの眼とは違い、今は厳しく光る鷹の様な眼をしていた。
彼には分かっていた。これは「偶然」などではなく「故意」に何者かがしたことだと。
澄は、今の今まで自分達が座っていたテーブルだったものを見てみた。すると、何かがムクリと立ち上がったではないか。
チャオだ。だが舞い散る粉塵でよく姿が見えない。輪郭は辛うじて見えるのだが。
頭の後ろに尖った、三本の角の様なもの・・・形状からしてダークのハシリチャオのものだ。
・・・ダークハシリ?
澄は昨日の出来事を思い出した。そして気付いた。その粉塵に包まれたものの正体に。
どうやら、四宮もチャオに気付いた様子だ。アルフに何か話している。
「アルフ・・・出来るか?」
「大丈夫です。・・・あまり動きたくはないのですけどねぇ」
「何」を出来るかと聞いているんだろうか。その答えはすぐに出た。
"異常キャプチャー能力"だ。
彼は「実際に見てから信じた」と言っていた。実は澄は全て信じたわけではなかった。
確かに事実のような気もする。が、実際にあっては欲しくない。
澄は目を凝らし、粉塵を見た。先程より薄くなり、向こうが見えるようになってきた。
そこでもう一度目を凝らしてみる。
・・・やはり。
昨日の、Worldのチャオ「リオス」だ。リオスはゆっくりとこちらを見ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ハッ、昨日の、オレの体に傷一つつけられねェひ弱な人間かよ!」
「今日は・・・何の目的だ!」
澄は「ひ弱」にカチンときて、少し強めに叫んだ。
リオスは眉間にシワを寄せ、気に入らない、という様な顔つきで澄を見た。
「ケッ・・・今日はてめェじゃねェ。そこの黒いヤツ、てめェだ!」
リオスは指の無い丸い手を四宮に向けた。
だが四宮はまるで相手にしない風でアルフと話をしていた。
話に区切りがついたようで、アルフはこくりと頷き、二人(一人と一匹)で同時にリオスの方を向いた。
「いいか・・・言ったとおりに・・・大丈夫。私を信じろ」
アルフは無言で再び頷いた。リオスは待ちきれない、と言わんばかりに拳を振り上げ、二人に飛び掛った。
アルフは四宮の真似をするかのように溜息をつき、リオスに手を向け、言った。
『キャプチャー"アナコンダ"』
突然、アルフの下半身と右手が淡く輝き始めた。それに見惚れていると、
下半身はどんどん巨大な蛇の尻尾と化し、右手は巨大な蛇の頭となっていた。
アルフは飛び掛ってくるリオスを、うぐいす色の黄色と黒の斑点のある尾で巻いて、そのまま壁へと力一杯投げ飛ばした。
澄の蹴り程度なら、その身のこなしで防げたが、この巨大な蛇の力となるとそうはいかないらしい。
リオスは幾つかのテーブルやイスを巻き添えにし、壁に勢い良くぶつかり、喫茶店のレンガの壁は粉々に砕けて再び粉塵が店内を包んだ。
一息ついてアルフは、澄の不思議そうな顔を見て言った。
「私の能力は"この目で見た、ヒト以外の動物を一度だけキャプチャー出来る"という能力です。
一度見ていれば、どこでだって能力を発揮出来ます。・・・覚えていれば」
澄はあっけに取られてポカンと口を開けていた。
まさか・・・、ここまで凄いものとは夢にも思わなかった。
澄の想像を、この能力は遥かに超えていた。
"見ただけでキャプチャー出来る"って!?
絵空事だ、質の悪いジョークだ、とでも言えるなら言いたい。
だかこれは紛れも無い、自分自身の目で見た"事実"であり"現実"であり"真実"なのだ。
流石に、これでは四宮も信じる他無かったのだろう。
アルフの隣で、澄の方を向いて苦笑いしている四宮がいる。
「これで・・・動物のキャプチャー出来る部位や反映される部位がランダムでなければ良いのですがねぇ」
アルフも、自分の「シャー」と唸る右手と目を合わせて苦笑いをしていた。