冬
     冬 「わかれ」
 お前が好きだというから応援してやったのに
 夫婦はそう言って、
 金をかえせ
 と怒った。
 役に立つことができなくなった以上、もう家族の一員ではないようだった。
 絵を描くことにした。ものすごく下手だったし、楽しいかどうかも分からなかったけれど、絵を描き続けた。
 花の絵を描いた。
 空の絵を描いた。
 水の絵を、土の絵を、海の絵を、ほんとうにいろいろな絵を描いた。
 そんな僕から、夫婦は「絵」を取り上げた。
 走らないなら、何にもする必要はない
 そう言って夫婦は僕を閉じ込めた。
 そう言われても、僕は走ることが好きではない。
 かと言って、走らないと絵を描くことができない。
 だから、僕は夫婦を殺した。
 そこに自由があると思ったから。

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