第4話
明くる朝。
彼女は起きると、おもむろに今まで絶対に使う事の無かった受話器を手にとった。
月夜と少女とチャオと 第4話
電話をかけた先は、そう、坂城祐二。
「・・・はい、坂城です。」
「・・・もしもし?」
「あ、茜さん。 どうしました?」
「・・・記憶、戻ったんです。」
彼は一瞬黙ったが、
「分かりました。すぐに迎えに行きますね。」
・・・ガチャ。
彼女はそのまま、部屋を見ながらしばらく動かなかった。
もう、今までの自分じゃない。
名前だって。
思い出したばかりだったが、彼女の本名は坂城 茜。
そう、坂城祐二の実の妹。
「園原」という苗字は、別れて一人になった時に自分でつけた苗字だった。
もっとも、まだ記憶は完全ではないが・・・。
記憶は、消えたのではなかった。しまわれていただけだったのだ。
それは、記憶が意志を持って一人歩きし、その意志で消えずに残っているようであった。
いつ来るかも分からなかった、この日のために。
待つ事1時間程度、玄関を叩く音がした。
ドアを開けると、そこには紛れも無い「兄」がいた。
彼女は一言、
「・・・ごめんなさい・・・。」
そこから先は、声が出なかった。
数日後。
彼女は、近くの高校に、新入生として入学した。
3年後の卒業アルバムには、たくさんの友人と一緒にピースサインをして写っていたという・・・・。
完