第1話 うちのチャオしりませんか?
「うちのチャオしりませんか?」
男はふと、そのウィンドウに浮かぶ文字列に目を止めました。
新しいページのてっぺんに、新規ツリーがぽつんと立っています。
返信発言はまだついていません。 投稿時間を見てみれば、まだほんの数分前に立ったばかりのようです。
男は吸い込まれるように、三角印をクリックします。
それまで家にいたチャオが、突然いなくなってしまったこと。
とてもかわいいヒーローチャオだということ。
見つけてくれたら、一日彼女になってあげるということ。
一日彼女になってあげるということ。
彼女になってあげるということ。
彼女になってあげる。
彼女に。
男は立ち上がると、慌てて廊下を駆けていきました。
男は一匹だけ、チャオを飼っているのです。
男はのんきに寝ているチャオをたたき起こしました。
「なにごとチャオか、こんな時間に……どうせネットでもしてたチャオねこのオタク」
「─チャオベエ、お前、ちょっくら探して来い」
「……ちゃお?」
チャオベエと呼ばれたチャオは、ぽかんと口を開けています。
「迷子のチャオがいるんだ。 そいつ見つけたら彼女いない暦=年齢の俺にも春がやってくる」
「寝言は寝てから言うチャオ。 今は冬チャオよ」
男はいまいち状況を飲み込めていないチャオを抱えて、モニターの前までつれてきました。
書き込みをじっと見つめるチャオベエ。
頷くチャオ。
ハイキックを食らわせるチャオベエ。
避ける男。
「くだらないチャオ! こんなの自分で探すチャオよ!」
「うるせー! 俺は色々と忙しいんだ!」
「どうせアニメ見てるだけチャオ! そんなの忙しいのうちに入らないチャオ!」
「じゃあお前、これがどうなってもいいんだな!」
男の手の中には、一冊の写真集。
現在人気沸騰中のアイドルチャオ、チャピカルの写真集。
だいじなだいじな、チャオベエのだいじな写真集─。
─そうして、チャオベエは仕方なく?家を後にしたのでした……
チャオベエはとことこと小道を歩いていました。
ヒーローチャオを探せといわれても、なんの手がかりもありません。
青い空、白い雲、緑の草木に揺れる花。 とても平和です。
「ああ、たいくつチャオ。 うっかり引き受けるなんて、しまったチャオ。 だいたい迷子のチャオなんて、おれには関係ないチャオよ!」
ぶつくさと呟きながら歩いていると、チャオベエは、いつのまにか道の先に何かが佇んでいるのに気が付きました。
逆光で姿は良く見えません。
チャオベエが目を凝らして姿を見極めようとしていると、とつぜん、それは声を張り上げました。
「あのチャオは我々のものだ。 渡してなるものか!!」
チャオベエは、驚きながらも太陽を背にして立つそれを見据えました。
はたして、その正体は!?
つづく。