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ハロウィン・・・カトリックの諸聖人の日(万聖節)の前晩(10月31日)に行われる、英語圏の伝統行事。諸聖人の日の旧称"All Hallows"のeve(前夜祭)であることから、Halloweenと呼ばれるようになった。
ケルト人の収穫感謝祭がカトリックに取り入れられたものとされている。ケルト人の1年の終りは10月31日で、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていた。これらから身を守る為に仮面を被り、魔除けの焚き火を焚いていた。
家族の墓地にお参りし、そこで蝋燭をつけるという地方もある。墓地全体が、大きなランタンのように明々と輝く。日本のお盆の迎え火、送り火にも似ているかもしれない。
これに因み、31日の夜、蕪をくりぬいた中に蝋燭を立てて「ジャック・オー・ランタン」(お化け蕪)を作り、魔女やお化けに仮装した子供達が「トリック・オア・トリート(Trick or treat. お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ)」と唱えて近くの家を1軒ずつ訪ねるという風習もあった。
・・本来ハロウィンは日本とはあまり縁の無いとされる年中行事であるが、近年西洋化の一途をたどる日本にとっては格好の取り入れるべき標的だった。
今日は10月30日。ひとたび街に出れば街中に「ハロウィン」と言う文字で看板や登りが埋め尽くされている。
通りの数々の店の前では必死に呼び子がセール中だ何だと声を張り上げている。
そのせいか街の中も少々浮き足立っている雰囲気だった。
ある店の前を通りかかると、バイトらしき若い長髪の男がこちらにあるものを渡してきた。
「どうぞー、ハロウィンセール実施中で−す。」
男が渡してきたのはカボチャだった。
目が菱形に、口がギザギザにくりぬかれた茶色いカボチャ。
紛うことなき、ジャック・オー・ランタンであった。
俺があっけにとられてカボチャを持ったままぽかんとしていると俺の足下から幼い声がした。
「うー、あー」
短い腕を精一杯こちらのカボチャにのばす一匹のコドモチャオ。
俺のチャオ、ミッツだ。
ミッツは俺がゴミ捨て場で拾った所謂「さようならチャオ」だ。
俺が拾ってからすでに三ヶ月がたち今ではすっかり俺になついている。
そうか、こいつを被りたいのか。
ミッツの心中を察した俺はミッツにカボチャを持たせてやる。
するとミッツは顔の前にカボチャを掲げ、「うーん」と唸りながらポヨをハテナにした。
そのまま数秒間、ミッツは動かなくなり、終いには後ろへ投げ捨ててしまった。
「あーあ、何やってんだよ。」
しょうがないなあとつぶやきながらカボチャを拾おうとすると、先ほどの男が拾って俺に差し出してくれた。
「ああ、スイマセン。」
俺はぺこりと頭を下げ、カボチャを受けとった。
「それ、被らせたいんですか?」
男が俺ににっこりと笑いそういった。
唐突に聞かれたので面食らって
「ええ、まあ・・・」
としか答えられなかった。
それを聞いてまた店員はにっこりと笑い言った。
「でしたら、こちらへどうぞ。」
店員は立っていた後ろを手で示し店にはいるように促してくれた。
看板には「For chao shop」と書いてあった。
俺は言われるがまま、店の中へと入っていった。