Epilog    事実は時の流れに 想いは蒼空の彼方に

「愛別離苦」
出会いがあれば、別れがある。
別れは誰にとっても少なからず苦しいこと。
その苦しみは、俺の身にも例外なく降りかかる。

果たして、それをどう受け止め生きていくのか。
それこそが、出会いの価値を決めるファクターではないのだろうか。


                      Epilog
             事実は時の流れに 想いは蒼空の彼方に
                  "Over the Blue sky"


タイニーとの想い出によって引き起こされた悲しみ。
それを癒したのも、タイニーとの想い出だった。


タイニーが居なくなってから1週間。
俺はまだタイニーが消えたという事実が受け入れられなかった。
バイトにも行けず、家にこもったまま廃人同様の生活を送っていた。

ある日、俺が布団から起きあがった時には、既に正午を過ぎていた。
昼夜が逆転して、また逆転して、今では時間の感覚も薄れてきた。

カーテンを開け、陽の光を部屋に入れる。まぶしいほどの晴天。
俺の気も知らないで、呑気なものだ。

ふと振り向いた俺の視線の先には、折りたたんだ一枚の画用紙。
別れの日、タイニーがくれたものだ。
だが、何が描いてあるのか、まだ見ていなかった。
タイニーのことを思い出したくなかった。悲しくなるだけだから。

だが、その日の俺は、何を思ったかその画用紙を手に取った。
まるで何かに導かれるように、4つ折りにしてある画用紙をゆっくり開く。
………そこにはクレヨンで描いた人の顔があった。

『俺の………似顔絵………?」
別れ際に、タイニーが描いた、最初で最後の俺の似顔絵。
上手いとは言えないが、タイニーの想いが一杯詰まっていた。

画用紙の中の俺は笑っていた。
そうだ………あの頃の俺は、確かに笑っていた。

タイニーが現れる前の俺は、笑いも泣きもしなかった。
ただ無表情に与えられたことをこなし、日々を過ごしていただけだった。
己の感情の上に無表情の仮面を被り、それを己の真の姿と勘違いしていた。

だが、タイニーが現れ、それは変わった。
嬉しそうなタイニーを見て、笑うようになった。
イタズラしたタイニーに向かって、怒るようになった。
タイニーを失って、泣くようになった。

そう、無表情の仮面を取り去ってくれたのは、紛れもなくタイニーであった。
タイニーが悪魔のような姿になったのは、きっと俺の「心の闇」を肩代わりしてくれたからだ。

それに気づいた俺は、思った。

   ――― 何をやっているんだ、俺は ―――


……………

今、俺は託児所でバイトする傍ら、保育士の資格を目指して勉強している。
タイニーの世話をしていたときから、その方面の素質らしきものを薄々感じていた。
バイトの方じゃ、今では子供達にも気に入られ、仲間からも頼りにされている。

バイト代は前のバイト先より格段に少ないし、仕事も生活はキツい。
それに、夢も成し遂げられるかどうか分からない。
だが、今の俺には目標がある。そして、俺はそれに向かって進んでいる。

タイニーは、小悪魔のような姿をした、不思議な生き物。
俺の心の闇を拭い去り、生きる道を見せてくれた。

俺はタイニーとの想い出を一生忘れない。
そして、未来へ向かって歩んでいく。

俺はそう心に誓い、遙かなる空を見上げる―――


               『TINY ~devil-looking ANGEL~』
             ある日舞い降りた「悪魔の姿をした天使」

                     想いよ、届け
                   あの蒼空の彼方に

このページについて
掲載号
週刊チャオ第118号
ページ番号
5 / 6
この作品について
タイトル
TINY ~devil-looking ANGEL~
作者
NORIMARO
初回掲載
週刊チャオ第118号