第1話−1
むかしむかし、ミスティックルーインのチャオガーデンと呼ばれるところに、タキオンというチャオが住んでおりました。
彼は一家を支える父……のはずでしたが、あまりにドジでバカだったがために“威厳”というものがまるでありませんでした。
それだけではありません。
彼はある日デタラメに動物を抱っこしてしまったがために、前代未聞のブサイクな『ダサチャオ』と呼ばれるダメ進化を遂げてしまったのです。
彼はまわりにバカにされながらも成り行きで街を救ったり救わなかったりですが、そんな武勇伝は一切語られることがなく月日は過ぎていき……。
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┃ 『The Fool(ザ・フール)』 ┃
┃ 作:RYO助 ┃
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<第1話>
ステーションスクエア、チャオ幼稚園。
都会の一等地にチャオのためだけに建てられたこの幼稚園は、広さも設備も兼ね備えた居心地のいい場所です。
ほら、チャオたちがおともだちと一緒に楽しそうに……ってアレ?
どうやらそうでもなさそうですね。
【ノーマルチャオ】「ひどいじゃないか、ロルハム。エーテルちゃんとはぼくが約束したのに」
【ロルハムと呼ばれたチャオ】「フッ、平民がとりつけた約束なんて反故だよ、反故。バカのレイト君にもわかりやすいように言い直すと『そんな約束破っちゃえ』なのだよ」
【レイト】「そんなの身勝手だよ~横暴だよ~。ロルハム」
【ロルハムと呼ばれたチャオ】「ええい、だからロルハムと呼ぶな。オレの名はロ・ル・ファ・ム! ロルファムだ、その小さなのうみそにたたき込んでおきたまえ、平民め」
おやおや、ノーマルチャオのレイト君とエメラルドチャオのロルファム君が向かい合って言い争いを始めたようですね。
ロルファム君の子分らしきチャオ達が「そうだそうだー、ロル様にさからうなー」と騒いでいます。
人数にして1対4……。
おだやかとはいえない状況の中、レイト君はわなわなと肩をふるわせながら反論します。
【レイト】「うるさいうるさい、金持ちだからっていばりすぎだぞっ!」
【ロルファム】「いかにも。オレはロル財閥の御曹司(おんぞうし)、自分で言うのもなんだが世界一リッチな子供チャオさ。別荘を含めロル財閥の土地は見渡すことのできないぐらい広大で、屋敷には数万人のメイドチャオをはべらせ、チャオ産業のほとんどを掌握しているが故に会長の放った言葉には誰も逆らえない。……まあそんな話をしても頭の悪いキミにはわからないだろうが、要するにその息子であるところのオレにはこの世に金で買えないものはないってことさわかったたかこの平民!」
【レイト】「『それはお前の親がかせいだ金であってお前の金ではなかろう』って、前みたいにじーちゃんにどつかれるよ?」
【ロルファム】「だまれ! 政略結婚……つまり金持ちは金持ち同士で結婚するというしきたりをやぶって、何を血迷ったか当時のメイド長と結婚したロルフィーヌのじじいなんぞ知らん! いいか、ロル財閥はおやじの代で今のような世界中にその名をとどろかせる大企業にのし上がったんだよ。いい人ぶって汚いやり方を使わないロルフィーヌのじじいなんぞ、しょせん人の上に立てる器じゃないってことさ。オレが尊敬してるのは会長……オレの親父のほうなんだよ。わかったか、聞いてるのか平民!」
頭に血の上ったロルファム君、べらべらとしゃべりながらレイト君の胸ぐらをがしりとつかみあげます。
けれど当の本人はのんきなもので……
【レイト】「ロルハム。セリフ長いし意味わかんないよ」
胸ぐらをつかまれ持ち上げられたまま、気だるそうにそう言い返します。
ロルファム君はレイト君を見下したような目で見て少しだけあざ笑い、レイト君をその場に投げ捨てたようです。
その様子を見て、ロルファム君の子分チャオたちがケラケラと笑い出します。
ロルファム君は、どこからか取り出したバラを口にくわえ、地面に寝そべっているレイト君に右足を置いてよくわからないポーズを決めます。
これは、ここチャオ幼稚園ではよく見られる光景だそうな。