天使の卵
はぁ、はぁ。
あたしは慌てて切符を買うと、エスカレーターをかけあがり、目の前にある列車に飛び乗った。
と、同時に合図の音が鳴り終え、扉が閉まった。
「ふぅー。」
大きくため息。
場内アナウンスが流れる。
「かけこみ乗車は、大変危険ですので 絶対におやめください。」
あらら、あたしのことかも・・・?
あたしはくすくす笑った。
あたしの名は麻奈。今やつらからにげてるところ。
何?それだけじゃ、わかんない?
ちょっと 説明する暇あるんかなー。ま、やつらはこの列車に乗れなかったようだし、平気かー。
今から二時間くらい前かな、ダチのリュウとカラオケでさわいでたんだわ。くどいようだけど、リュウは大学サークルのダチ。あたしは彼氏にふられたばっかで、まぁ、失恋パーティってとこ。
失恋メドレー9曲歌って、生ビール三杯目飲み干したところだった。フロント用の電話が鳴ったのだ。
「ありり? もう10分前かいな?」
ちょっち変に思いながらも受話器をとった。
「はーい、なんでしょう?」
「チャ−オ。」
聞こえてきたのは意外にもかわいくて聞いたこともない声。
「??? ちょっとなんなんですかぁ? なんかのイベント? イタズラなら怒りますよぉ!!」
「チャオ!! チャ−−−オッ!!!!」
「いいかげんにしてよっ!!」
あたしはキレた。ドスきかせて怒鳴った。
「ウ~~~、ウ~~~。」
ブツ。ツー、ツー、ツー。
ああっ!きりやがった!あたしは即効かけなおす。
トルルー、トルルー。
「はいっ、フロントですっ。」
いつもの元気な店員さんの声じゃん。
「あ、あのう、生中ジョッキ追加・・・。」
とっさに注文してしまった。さっきのへんな電話のこといえなかった。
まさか、このあたしが生中三杯ぐらいで酔ってるとか・・・? んなはずないんだけどなー。
リュウは、イカシた声で林原めぐみのOver Soulのサビにのってるところだ。
なんかいやな気分。ムカついてきた。
「リュウ、悪いけど、あたし帰るわ。明日一限だし。
今日はつきあってくれてあんがと。このうめあわせすっからさ」
あたしはテーブルに千円札をおくと、さっさとでていった。
「えええー? どおしたんだよー、麻奈ーーー?!」
リュウの声が背中越しに聞こえたけど、無視。マジでごめん。リュウ。無理矢理さそったのに。
なんか今日は最悪。失恋ってだけでも気分悪いのに、へんな「チャオ」って言葉が頭からはなれない。
「君は普通じゃないよ。」
彼の別れの言葉。
「とにかくぼくなんかでは、君にふさわしくないよ。」
くっそー。やなセリフ思い出しちゃったー。あたしをふるオトコの言葉ってどおしていつも同じなのかなー。フツーじゃない? フツーって何よ? どおせ他にオンナができたくせに。カッコつけちゃってー!
むかつき度120%。早足でズンズン夜の堀沿いを歩く。
ザワワ。ザワワ。
急に柳がゆれてざわめきだした。
「ウッキャ−−−−−ア!!」
サルのよーな声とともに、柳の上から黒いモノがあたしにはりついた!!!
「ぎゃあああああっ!!」
あたしはとっさにソレを投げ飛ばした!
そいつは川の中にドボンと落ちた。
あらら、あたしってけっこう力あるじゃん。しかし、今のなにーーー!?そいつと目があってしまったぁ!サルじゃなかった。見たことのない動物。黒くて、目がつり上がってて、三頭身? 二頭身かな? んでぷよぷよしてて冷たかったー。キモ−−−イ☆☆☆