ベベスは激怒した。キレベベスだ。
 タマゴが何も答えてくれなかったからだ。タマゴが何も答えてくれなかったのだから、ベベスがキレベベスになるのもしょうがなかった。
 ガーデンができたときから、ベベスはガーデンにいた。ベベスはガーデンに一人でただ佇んでいた。ガーデンの支配者だった。
 タマゴはベベスが転生したときに生まれた。繭の中からベベスと出てきた。
 ベベスはタマゴのことが好きだった。丸々としたフォルム、完成度の高い不規則な模様、気温によって温かくなったり冷たくなったりする生命感、突然生まれてきそうなほどの鼓動。ベベスはそれらが全部ベベスのためのもののように感じていた。
 ベベスは転生してちょっと進化していた。腕をフンっすると力こぶができるようになっていた。ベベスはタマゴにフンっしていた。
 ベベスはフンっをひとしきりしたら、キレベベスになった。この時ベベスは、この退屈を打破することを誓ったのだった。


 ベベスがまた転生した。繭の中からはまたタマゴと、ちょっと進化したベベスが出てきた。今度はフンっするとケツから火が出るようにもなっていた。
 今度のタマゴは孵った。白いやつが生まれた。ベベスは白いやつにジジスと名付けた。
 ジジスはベベスのことが好きだった。いつも世話をしてくれるし、自分のことに興味を持ってくれる。ジジスはベベスにその愛を伝えたいと思うようになっていた。
 ジジスはタマゴのことも好きだった。ベベスがタマゴのことが好きということを体いっぱいに表現するものだから、気づいたらジジスもタマゴのことが好きになっていた。ベベスが好きなものを好きになれて、ジジスは嬉しかった。
 ベベスもジジスのことが好きだった。よくタマゴも交えて一緒に遊んだ。タマゴをひたすら撫でたり、ポコポコ叩いたり、池に入ったりした。ブームはタマゴを間に、ボールを手で打ち合うことだった。ルールなんてものもなかった。
 ある日、いつものようにベベスとジジスがボールを打ち合っていると、ベベスが打った球がタマゴに当たった。タマゴはコロコロ転がって、池に落ちた。ジジスはタマゴのことが心配で悲しんでいたが、ベベスは池に落ちたタマゴを見て爆笑していた。
 ジジスは激怒した。キレジジスだ。
 キレジジスはベベスを激しく咎めた。ポヨをムカマークにして地面を踏み鳴らした。実際には芝生がパサパサと音を立てる程度だったが、その怒りはベベスにも伝わった。
 ベベスはキレジジスをなだめようと、池に飛び込んでタマゴを取ってきた。変わらず生命感を放っているタマゴをキレジジスに触らせて、問題がないことをアピールした。しかし、キレジジスはの怒りは収まらなかった。もうキレジジスですらもなんで自分が怒っているのか分かっていなかった。
 ベベスはめげずに、ほら見てみて~と言わんばかりにケツから火を噴いて、場を和ませようとした。しかし、キレジジスは挑発されたように感じ、ベベスに対抗すべくケツを向けた。
 キレジジスはケツを向けたところで何もできないことに気づいたが、一度ケツを向けてしまったので引っ込みがつかず、なんでもいいのでケツから出てこいと踏ん張り続けた。
 するとキレジジスはケツから血を噴き出した。キレジ・キレジジスは、このあと一日中ベベスに看病してもらうこととなった。


 ベベスとジジスは同時期に転生した。ベベスもジジスも繭の中からタマゴと出てきた。タマゴはこれで三つになったが、ベベスと一緒に出てきたタマゴはすぐに孵ったので、結局二つだ。
 新しく生まれたやつは青かった。ベベスは青いやつにペペスと名付けた。
 ベベスとジジスはちょっと進化していた。ベベスはフンっすると角が生えるようになったし、ジジスはベベスをなでなでするのが上手になっていた。
 ペペスは優秀だった。ベベスとジジスが木の実の取り合いをしているのを見て、木の実が足りていないことにすぐに気づいた。ペペスは木の実から種を取り出し、数個だけ植えて、ガーデンに木を増やした。ベベスもそれを見て、種をガーデンに植えて木を増やし、それを見たジジスも種を植えた。
 ガーデンは三匹が満足するのに適正な数の実ができるようになった。
 ベベスとジジスはペペスに感謝した。お礼にジジスはベベスをなでなでし、ベベスはケツから噴いた火をペペスに浴びせた。
 ペペスには自分のタマゴがなかったので、ベベスのタマゴとジジスのタマゴに興味津々だった。いつまで経っても生まれないし、ベベスが撫でたり揺すったり抱きしめたり火を浴びせたりしても反応を見せない。ペペスはベベスに手伝ってもらって、色々なことを試した。
 ペペスの好奇心はそれだけに留まらず、ガーデンの滝の裏の洞窟にも向いていた。ガーデンの滝の裏の洞窟はすぐに行き止まりだったが、ペペスはそこに可能性を感じていた。


 三匹はやはり同時期に転生した。三匹とも繭の中からタマゴと出てきた。ベベスと出てきたタマゴはまたすぐに孵った。
 新しく生まれたやつは緑だった。ベベスは緑のやつにガチモリと名付けた。
 ジジスと一緒に出てきたタマゴも孵った。中から出てきたのはチャオではなく、一見繭にも見える水色の何かだった。ペペスが恐る恐る触ると、それはジャムだった。ペペスが手についたジャムを舐めると、クセのある味がした。
 ベベスとジジスも舐めたかったが、ペペスがジャムに興味津々だったので邪魔をしてはいけないと思い、やめておいた。ジジスは代わりにベベスを舐めた。
 ペペスと一緒に出てきたタマゴは孵らなかった。やはり、一回目の転生で生まれたタマゴは孵らないのだった。
 ペペスは自分のタマゴができて嬉しがった。
 ガチモリはベベスとジジスと一緒に遊ぶことが多かったが、ペペスがジャムやタマゴを観察したり木を植えたり洞窟に入っていったりするのを見て、羨望を抱いていた。
 ある日、滝の裏に向かっていったペペスを見て、こっそりとガチモリもついていった。ベベスとジジスもそれ見て面白がって、ガチモリと一緒にペペスの後をつけることにした。
 ガチモリは明らかにガーデンとは違う洞窟の中の光景にワクワクしていた。ガチモリがキョロキョロしながら洞窟を進むと、右手側に丁度よく腰掛けられそうなソファのような形をした大きな岩があった。ガチモリがその運命的な出会いに感動しているのを見て、ベベスはその岩にミライという名前を付けた。
 ペペスは洞窟の最深部に立ち、壁を見上げていた。もう外の光も届きづらく、三匹の目にはペペスの輪郭が薄らとしか確認できなかった。
 こんなところで何をするんだろう、とガチモリがペペスの後ろ姿を見ていると、突然その輪郭が明確に浮き上がり、ペペスは真っ黒なシルエットと化した。
 ペペスの前に、突然明るい文字列が浮かび上がったのだった。文字列はどんどん増えていく。ペペスの腕が動いているところを見ると、ペペスが打ち込んでいる文字列のようだった。三匹は文字の読み書きができないので、それがどういう内容のものなのかはわからなかった。
 ペペスの腕が止まったと思うと、文字列は霧散し、また真っ暗になった。急に暗くなったので、三匹は目が慣れず先ほどよりも深い暗闇の中にいた。その暗闇の中で、二匹は砂が擦れるような音を聞いた。
 しばらく経って、慣れてきた目に飛び込んできたのは、洞窟の壁を触れもせず分解していくペペスの後ろ姿だった。


 四匹が転生する頃には、洞窟の奥にレース場とカラテ場を発見していた。
 ペペスの仕事は早かった。転生して手に入れた能力、"分解"と"再構築"は非常に優れていた。サイズや種類に制限はあるが、物質を分解し、別の形に再構築できるものだった。
 洞窟の奥の壁をペペスが分解し、さらに再構築した大量の岩のツルハシで三匹が掘り進めると、レース場とカラテ場と開通したのだった。なぜそんなものがあるのか誰もわからなかったが、ガーデンのものなんてすべてそんなものだと思って納得した。
 ベベスとジジス、ガチモリはよくレースをした。レースではガチモリが一番速かった。レースで負けるのが面白くないベベスが、カラテでガチモリを殴り倒していた。ジジスはほとんど負けていたが、嬉しそうにベベスに抱きついていた。ペペスはそれを微笑みながら見ているのだった。
 例のごとく、タマゴが増えて、チャオが増えて、ジャムが増えた。今度のジャムは、ジジスとペペスが転生してできたタマゴから出てきたものだ。ベベスを除いて、二回目以降の転生で出てきたタマゴからはジャムが出てくるのだ。
 一個目のジャムは形が崩れてきていた。徐々にガーデンの土に吸われているようだった。ベベスとジジスはジャムが食べる前になくなってしまうのではないかと危惧していたが、三回目以降の転生でもジャムが生まれることがわかったし、チャオが増えれば増えるほどジャムも増えるということがわかったので、一個目のジャムにそれほど執着せずに済んだ。
 ガーデンの支配者ベベスは、折角こんなに楽しいレースやカラテができる環境があるのに、その環境を作るのに大きな貢献をしたペペスがレースやカラテを楽しんでいないのはなんだか不公平な気がしていた。
 ベベスはレースにペペスを誘った。ペペスは普通に参加した。ペペスは強かったが、ガチモリには及ばなかった。ベベスといい勝負をするくらいの強さだった。楽しんだ。良かった。

このページについて
掲載日
2019年12月28日
ページ番号
1 / 4
この作品について
タイトル
タマゴガーデン
作者
ダーク
初回掲載
2019年12月28日