第十話 SONIC DRIVE

 究極のアーティカ誕生!
 カオスエメラルドによるカオスコントロールと、マスターエメラルドによるマスターコントロール。
 この二つの力を駆使し、戦場を完全に制御する指揮者。
 さらにカオスエメラルドのエネルギーをチャージすることで、カオスコントロールを使用せずとも高速戦闘が可能。
 これこそ現代に蘇ったソニック。
 戦え、青き英雄、ソニックオブアース!
 異星人をなぎ倒し、世界に平和を取り戻せ!!

 士気を高めるために作られた、GUNの映像を僕たちは見ていた。
「無~理~だ~よぉぉぅ。やめよ~~うよ~~」
 ミツルがめっちゃ泣いている。
「無理だよ~ぅ。勝てないよう。逃げようよ~~。このままだとみんな殺されちゃうよぅぅ。早く逃げないとあいつが追いかけてくるよううぅぅぅ」
「姫様、静かにして」
 会議中であった。
 僕たちはどうにかこうにかあの戦場から撤退できた。
 シドヤの乗る新しいアーティカには歯が立たず、当初の目的のほとんどを達成できなかったが、カオスエメラルドは一つ入手できた。
「カオスエメラルドいっぱい手に入ったし、もういいじゃん~。これでカオスエメラルド、十一個目だよ~~。もうこんな星から逃げようよ~」
 ビーストマスターの機能で小動物のパーツを装備し、破壊されてはまた別の小動物を装備する。
 そんな手段でミツルはなんとか被害を最小限に食い止めることができたのだが、それでも圧倒されたことがトラウマなようだ。
 今すぐにでもこの宙域から去ることを彼女は主張していた。
 しかし泣いて駄々をこねているようにしか見えないので、とても迷惑がられていた。
「だああ、誰か姫様を黙らせろ!」
「いや、ここからつまみ出してしまえ!」
 研究チームや小動物指揮班の男たちが、ミツルを力ずくで部屋から出そうとする。
 しかしミツルは泣きながら抵抗する。
「カオスコントロール!」
 カオスエメラルドの力を引き出し、床を叩く。
 ミツルを中心に、衝撃波が巻き起こる。
「地衝撃!!」
 男たちが衝撃波によって弾き飛ばされた。
「姫様! それはろっどの物語じゃないでしょうが!」
「十四歳にもなるのにそんなふうに駄々こねて、恥ずかしくないんですか!」
「うるさいよ!!」
 議論は難航した。

 結局ミツルの主張は聞き入れられなかった。
 もう一度降下してからこの宙域を離れる。
 そう決定された。
 城宝が地球にもう一度襲撃をしかけたい理由は二つある。
 一つは、先の作戦が失敗に終わったこと。
 まだ地球の技術を回収しきれていない。
 そしてもう一つの理由が、マスターエメラルドの存在だ。
 カオスエメラルドの力を鎮める力を持った物。
 そんな物を、城宝はこれまで一度も見たことがなかった。
 だからそれが欲しいのだ。
「でも問題は、マスターコントロールをどうするかってことでしょう?」
 僕は挙手して、研究チームの代表に問う。
 研究者は大きくうなずいた。
「しかし対処法はないわけではない。マスターコントロールには、カオスコントロールと同様に、効果範囲に限界がある」
 これを見てほしい、と研究者が映像を表示させる。
 それは僕が倒したスケヤ君のアーティカを、小動物が回収する様子だ。
 宇宙船のカオスコントロールによって、小動物は宇宙船へと帰っていく。
「この映像と同時刻、ソニックオブアースはマスターコントロールを発動している。だが小動物はマスターコントロールに妨害されることなく、帰還を果たしている」
「あいつから離れていれば、カオスコントロールは使える、というわけですね」
 でもそれは根本的な解決になっていないと僕は思った。
 離れていたら、あいつを倒すことができない。
「ゆえに今回はソニックオブアースを陽動し、GUNの拠点から引き離すことで、一つ目の目的を確実に達成することに重きを置く」
「マスターエメラルドは? マスターエメラルドはどうするんです」
「残念ながら確実にソニックオブアースを仕留める方法はない。だから撃墜が難しそうなら引き上げるしかない」
 しかしビーストマスターをさらに強化して投入する予定であると研究者は言った。
 マスターエメラルド、ソニックオブアースは二の次。
 これはもう消化試合なのだと言われている気分だった。

「ソニックオブアース、貴様に決闘を申し込む」
 宣戦布告、決闘の申し込みの映像が地球に送られた。
 城宝を代表するパイロットを自称する男が、カメラに向かって喋っている。
 それは仮面をつけた僕だ。
「我が愛機、ホワイトナイトの剣が貴様たちの希望を八つ裂きにするだろう」
 セリフを読まされているせいで、若干棒読みだ。
 そして決戦の日時と場所を指定する。
 GUNの拠点から約100km離れた平原だ。
 地球の裏側とか、そのくらい遠く離れた所を指定しなかったのは、ソニックオブアースを撃退した後にGUNの拠点を占拠して地球を侵略するというシナリオに見せるためだ。
 よって決闘の場所はGUNの拠点の近くにある、人が少なく、なおかつ開けた場所に決まった。
 映像でも、そんな感じの目的であることを喋らされた。
 そして決闘の日。
 この地球での最後の作戦の日。
 僕がこの地球に最後に降りる日。
 ホワイトナイトが先に決戦の場に降り立っていた。
 マスコミ等が集まり、ホワイトナイトの存在が確認されてから、ソニックオブアースがやって来た。
「裏切者、タスク。お前に鉄槌を下す時がとうとう来たな」
 構えたままシドヤは喋る。
「カオスコントロールを使えるだけのお前に、マスターエメラルドを装備したこのソニックオブアースの前で何ができる。決闘など大口を叩くほどの、何がお前にできる?」
 僕は答えない。
 成立しなかった会話にシドヤは未練を見せず、ソニックオブアースを動かした。
 カオスコントロールも、マスターコントロールも使わない。
 しかしソニックオブアースの特徴である、高速移動によって接近する。
 それはチャージショットと原理は同じなのだ。
 カオスエメラルドから得られるエネルギーを蓄えておき、それを一気に開放する。
 それによって驚異的なスピードが出るというわけだ。
 ソニックオブアースの拳から繰り出される一撃が、ホワイトナイトの胴体を貫いた。
 その瞬間、小動物指揮班が自爆の指示をホワイトナイトに送る。
 ホワイトナイトに詰め込まれた大量のカオスバッテリーが暴走し、大爆発を起こす。
 これで壊れてくれれば話は楽だが、そうはいかないだろうと僕たちは思っている。
 あくまでこれは陽動でしかない。

 僕はホワイトナイトに乗っていなかった。
 そもそもあのホワイトナイトはアーティカではない。
 ホワイトナイトに似せて作られた、ただの自爆する張りぼてだ。
 僕が乗っているのは、ライジング。
 ホワイトナイトをベースに作られた、ライオンとアーティカの合いの子のような機体だ。
 さらに今回の作戦のために作られた新型の小動物、オクトパスを背中に装着している。
 このオクトパスにはカオスエメラルドが搭載されている。
 僕のライジングと、ミツルのビーストマスターはGUNの拠点に降りていた。
「急ぐぞ。カオスコントロール!」
 カオスコントロールで起こす現象、それはGUNの拠点にあるパソコンへの接続だ。
 電波ではなく、カオスコントロールによる、空間的距離を無視した無線接続。
 そしてオクトパスが接続したパソコンをハックし、データを盗み取る。
 ミツルのビーストマスターも同様のことを行っている。
 程なくしてデータの収集は完了する。
「データの収集完了を確認した。これより順次帰還せよ」
「御意」
 このまま撤退すればミッションコンプリートだ。
 しかし空をなにかが飛んでいた。
 真っ直ぐ高速で向かってくる。
 あれはソニックオブアースだ。
 僕のいる地点を通り過ぎ、ミツルのいる方へ落下する。
「来たああああ」
 ミツルの絶叫が通信機から聞こえてくる。
「今助けに行く!」
 オクトパスを分離し、ライジングは走る。
 分離したオクトパスは自身のカオスエメラルドを用いて、速やかに宇宙船へ帰る。
 ミツルのいる地点からもオクトパスが発射されていた。
 ソニックオブアースを真似た高速移動によって空を飛び、マスターコントロールの範囲外に逃れてから宇宙船のカオスコントロールで退避する。
 オクトパスは確実にデータを持ち帰るための小動物なのだ。
 僕が駆けつけた時、ビーストマスターはライオンのパーツを装備して戦っていた。
 このライオンは決戦に備えて強化されている。
 ビーストマスターは頭部に乗せたライオンの顔からチャージショットを撃った。
 ホワイトナイトの機体からチャージショットのデータを採取し、ライオンにチャージショットを装備させたのだ。
 だがソニックオブアースはカオスコントロールの障壁でチャージショットを完全に防御する。
 ソニックオブアースはビーストマスターを蹴り飛ばす。
「ミツル、合体だ!」
「うん!」
 僕が今乗っている機体、ライジングはアーティカであると同時に、小動物のライオンでもある。
 つまりビーストマスターのキャプチャーに対応することを前提に作られているのだ。
 まずビーストマスターの全身が伸びる。
 伸びた分だけ細く、骨のようになる。
 そしてその骨を軸にして合体するライジングはいわば肉と皮だ。
 はたして一回り大きなアーティカが完成する。
 これこそソニックオブアースを打倒するために生み出された新たなるアーティカ。
 モーニングスターだ。
 僕はシドヤに宣言する。
「これこそが新しい時代を切り開く、明けの明星だ!!」
「それがどうした」
 シドヤの殺気は、モーニングスターではなく僕に向けられていた。
「お前だ……。お前こそが地球の敵だ、タスク。カオスエメラルドを失ったのも、多くの人やチャオの死も。お前のせいだ」
「いや、全部が全部僕のせいではないでしょ。確かに一部は僕のせいかもしれないけど」
「その一部のことを俺は言っている!」
 理不尽だなあと僕は思った。
 ソニックオブアースが接近してくる。
「悪魔め!」
 ソニックオブアースの蹴りの連打。
 それをモーニングスターは、ぎりぎり当たらない距離を保って避ける。
「僕は人間だ!!」
「比喩だろうが!」
 ソニックオブアースの渾身の正拳突き。
 だが僕は突き出された手を掴み、受け止める。
 そして剣でソニックオブアースの突き出された右腕を切り落とした。
「そんな比喩が僕に通じると思うな!!」
「通じろよ」
 ミツルがぼそっと言った。
 全くだ、とマキナが同意する。
 味方がいない。
 右腕のなくなったソニックオブアースの抵抗は凄まじかった。
 モーニングスターと互角に戦っている。
 いや、それどころか激しく的確な連打でモーニングスターを押している。
 僕の読みは外され、意識していない軌道で打撃が飛んでくる。
 なんだこれは。
「これでとどめだ。カオスコントロール!」
 しまった。
 マスターコントロールで、カオスコントロールが封じられていると思い込んでいた。
 しかしシドヤは僕の不意をついてとどめを刺すために、マスターコントロールをいつの間にかやめていたのだ。
 やられたと思った。
 しかし。
「カオスコントロール!」
 そう対抗したのは、ミツルだった。
「マキナ、レイ、お願い!」
 ミツルの指示を受けて、レイがアースオブソニックの攻撃を手でさばき、さらにマキナが蹴りを入れた。
 モーニングスターはすぐ前に足を踏み込み、アースオブソニックへの追撃を狙う。
 前進の操縦はミツルがしたものだ。
「マスターコントロールを封じるよ!」
 アースオブソニックの両肩を掴み、膝蹴り。
 右手で肩を掴んだまま、左手で顔を殴打する。
「レイ、後はお願い! マキナ、サポートして!」
「おう」
「カオスコントロール!」
「あの、僕は?」
 返事はなかった。
 二度目のカオスコントロールは一瞬で終わった。
「見えた!」
 ミツルの操るモーニングスターの左手が、アースオブソニックの首のすぐ下を貫いた。
 そしてマスターエメラルドを握った。
 カオスコントロールで位置を探ったのか。
 そう僕が気づいた時には、更なる追撃によってモーニングスターはアースオブソニックに装填されていたカオスエメラルド三つを奪っていた。
 なんという早業だ。
 僕は驚愕した。
「なんだと……!?」
 シドヤも驚いている。
「これが私たちの力だ!」
 ミツルは高らかに叫んだ。
 泣くほど恐れていたアースオブソニックを倒して、めちゃくちゃ興奮しているのだろう。
 でも今の戦い。
 私たちって、そこに僕は入っているのか?

 ともかくマスターエメラルドも、地球に残るカオスエメラルドも、全部手に入った。
 しかし僕はこのままカオスエメラルドを全部持って帰りたくはないと思った。
 そうしてしまったら、この星の生命は絶えてしまう。
 それは嫌だった。
 だから僕は、カオスコントロールで浮上するモーニングスターをこっそりと操作して、カオスエメラルドを一つ地上に落とした。
 一つだけでも、たった一つだけでもカオスエメラルドがあれば、生命は誕生する。
 きっと人の数はぐっと減ってしまうだろう。
 だけど人類がこの地球から絶滅せずに生き続けられるよう、僕は願った。
「アディオス……。青くて丸い、僕の星……」

このページについて
掲載日
2017年8月29日
ページ番号
14 / 16
この作品について
タイトル
覚醒の星物語(スター・ストーリー)
作者
スマッシュ
初回掲載
2017年4月7日
最終掲載
2017年8月29日
連載期間
約4ヵ月25日