小説事務所 「can't代 Therefore壊」
石造りの建物が並び立つ大都市、ステーションスクエア。最近は過疎化が進んでいると専らの噂ながら、主要都市というポジションは決して揺るがない。
そんな中に、空気を読まずに立っている木造建築事務所がここに一つ。こいつがどこかの山奥にでも立ってれば立派な山荘なのに、こんな場所にちゃっかりかつ堂々と建っている物だから、どこをどう見たってイロモノ臭しかしない。
そして見た目に違わず、そこに住まう(正しくは働く)のは一癖も二癖もある、天然パーマも坊主で逃げ出す難癖チャオ達。ギャグ小説のまま収まってればいいんじゃねとも思える奴らの集い。
長々と説明するのもなんだと思うし、そこまで把握する必要だってない。
いつだって何か小火騒ぎでは済まない事が起こっては漫才の小道具で事を収める。
地下室にはちょっとしたといいつつ仮にも本格的な研究室を控えている。
休暇はほぼ自由のくせにそもそも事務所に居る事と休暇が大差ない。
そんな夢にも思わない楽園(?)を支える金の元は宝くじ。
ぶっちゃけお国の金を使ってるようなものだというのに、どこの誰も文句を言わない。
当の事務所を仕切る所長の実務は睡眠。
簡単に言えば、そんな事務所。たったそれだけ。
――これらは全て、誇張表現でもなんでもない。
そんな『非常識的』という括りにカテゴライズされたチャオばかりが、暮らす(正しくは働く)事務所。昔こそは誰かに知られ、いつの間にか誰も話題に挙げる必要性がないぐらい浸透し、消え去りそうな程に当たり前になった事務所。
『小説事務所』
いつだって疑問に思わない事は無かった、その名前の理由。なんでこんな名前なのか、いつからこの名前だったのか。それは最初からだと言う。
だが、理由は誰に聞いてもわからない。所長に聞いてもわからない。返ってくる言葉は「すでにそうなっていた」というただ一言。だから、追究する事はやめていた。どうせその内、大した事のない理由として知る事になるんだろうな、と。
しかし、それは間違っていた。
知ってはいけなかった。
それは『常識的』に見えた『非常識的』な思想を持つ人間達の、真っ黒な腹の中に抱えられ続けた負の遺産。
木を森の中に隠すように、その遺産は小説事務所のパンドラの箱の中に隠されていた。
『事実』は『小説』より奇だと言うなら。
『小説』は『事実』より尊いに違いない。
『事実』は『小説』に成り代わる事ができても。
『小説』は『事実』に成り代わる事ができない。
それは即ち、完全なる空想の再現の不可。
それが神様の作ったこの世界の大きなルールの一つだ。
それでもその人間達は、それを根底からひっくり返そうとしていた。
それはつまり、神様への挑戦。
私達は、そんな傲慢な人間達の尻拭いをする事になった。