エピローグ

 墓はないが、彼らはそこにいた。
 甚大なダメージを負った大地も、今や元の草原の姿を取り戻していた。近くにあった雑木林はなくなり、草原の一部となっていた。
 雲も風もない、穏やかな日だった。それはたまたまそうだったのではなく、エイリアが仲間達の予定と天気予報を照らし合わせて、今日という日を再会の日としたのだった。
 エイリアはマッチョに声を掛けなかった。それはマッチョを気遣っただとか、この場に呼ぶのには相応しくないだとか、そういうことではない。あの戦いが終わり、カオスィヴは桃色の繭に包まれて影の世界の神へと転生した。桃色の繭が解けると、誰もいなかったのだ。その後、シャドウはずっと眠っていたが、その間に他の仲間達でマッチョのもとを訪ね、事情を説明した。するとマッチョは、
「そうか。すると俺は神の親だな」
 と笑ったあと、
「心配するな。あいつは強いし、俺も強い」
 と真面目な顔をして言ったのだった。
 逆に慰められた気持ちになった仲間達は、二度とマッチョと会わないことを誓ったのだった。
 仲間達は何も持ってきていなかった。何を持ってこようとしても取ってつけたような違和感があったし、何もないことが何かがあることよりも大きい価値になる場合があるということもわかっていた。
 だから、集まったはいいものの、誰も何も喋らなかった。
 しばらくその場で、草原を眺めていた。その目にはあの戦いが蘇ることもなく、ただ目の前の草原を映していた。
「僕は」
 とシャドウが言った。
 シャドウだけは違った。厳密に言うと、仲間達も違った。本当はそこにあるものを、シャドウという蓋で塞いでいただけだった。シャドウが喋りだしたことによってその蓋は外れ、世界が動き出す。
「あれから自分の生命について考えてきた。影の世界の神は、生命は制限だと言った。確かにそうだ。僕には元々目的も役割もあった。だが、もうその目的も役割も果たせない。マッスルは意思に始まり、意思に終わると言った。そうなのかもしれない。だが結果を見てみれば、僕の意思はマッスルを犠牲にした。僕の意思とはマッスルを犠牲にすることだったのか?」
「違うよ」とラルドが言う。
「自信を持って言える」
 声が震えていた。自分に言い聞かせた言葉だった。
「マッスルは選べたんだよ。シャドウが神になることと、自分が神になること。それで、自分が神になることを選んだ。シャドウの意思もマッスルの意思もそこにはあったんだよ! 結果なんて、見方一つでどうにでもなるじゃない……? 生命とは冒険だよ。少なくとも私は、そう思って王女をやってる」
 ラルドは途中から泣き出していた。声は震えて、裏返って、弱々しいものだった。だが、シャドウはその意思を汲み取っていた。
「そうか……。すまなかった、酷な問いかけだった」
 ラルドは首を横に振った。
「ううん、みんなそう。シャドウも問いかけられてた。冒険だから。でもそれでいい」
「冒険だから、か。ありがとう。そんな言葉が欲しかったのかもしれない」
 シャドウは一度考え込んだ。仲間達はシャドウの次の言葉を待った。
「僕はこの言葉を言うのが怖かった。だが今なら言える。あの影の世界の神は、僕だった。生命が冒険だとするのなら、僕の冒険もマッスルの冒険も終わった。だが」
 マッスルは強い。だが、そのマッスルですらも、神の孤独に耐えかねてこの世界に降りてくるようなことがあるのなら。
「それすらも含んだ、大きな冒険がまだ続いている」
 僕が再び神になろう、とシャドウは思った。

このページについて
掲載日
2019年1月4日
ページ番号
6 / 6
この作品について
タイトル
シャドウの冒険 最終話
作者
ダーク
初回掲載
2018年12月31日
最終掲載
2019年1月4日
連載期間
約5日