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ある日のこと。灼熱の太陽から降り注ぐ日差しを浴びながら、雲ひとつ無い鮮やかな青空の下を一匹のチャオがお散歩していました。
「いいお天気だチャオ。最高のお散歩日和だチャオ」
照りつける強烈な日差しもなんのその。とてもとても暑い日ですが、チャオはとてもとても元気です。
「セミさんもとっても元気チャオ」
チャオは公園にやってきました。立派な木が何本も生えていて、緑が豊かなその公園では、沢山の蝉が鳴いていました。
チャオはベンチに座り、目を瞑って、蝉の鳴き声に耳を傾けてみます。
右から左から、そして、後ろからも。やかましいように聞こえるこの音も、不思議とチャオの耳には心地よく響きます。
「……」
ベンチのすぐ後ろに生えた立派な木に、鬱蒼と葉が生い茂り、それらが作り出す日陰の中は、自然の清涼感で溢れていました。
ちらちらと覗く木漏れ日の美しさと、時折頬をなでるそよ風の心地よさに、身も心も委ねたチャオは、いつしかすやすやと寝息を立て始めました。
…
「……チャオ?」
穏やかな眠りから覚めたチャオは、きょろきょろと辺りを見回します。相変わらず公園には、蝉の鳴き声が響いています。
ですが、わずかな違和感が、チャオを不安にさせます。寝ている間、チャオをずっと見守っていた、ベンチのすぐ後ろの大きな木から、蝉の鳴き声が聞こえません。
チャオは、ベンチから降りて、木に近づいてみます。すると、木の傍に、一匹の蝉が仰向けで倒れていました。鳴いている様子はありません。
チャオは、その蝉に話しかけました。
「セミさんセミさん、こんにちはチャオ」
「今日は、チャオ君」
蝉は、仰向けのまま答えました。
「セミさん、どうしたんだチャオ?みんなと一緒に鳴かないチャオ?」
「僕ももっと鳴いていたいけれどね。もう駄目なんだ」
「どうしてチャオ?」
「僕はもうすぐ死んでしまうんだ。だから、もう鳴けない」
蝉は、落ち着いた様子で答えました。
「そうチャオか……」
「うん、そうなんだ……」
それから二人は、しばらく黙っていました。その間も、蝉の鳴き声が鳴り止むことはありません。鳴いていないのは、チャオの目の前の蝉だけです。
しばらく沈黙を守り通していた二人ですが、チャオが、不意に口を開きました。
「……一つ、訊いてもいいチャオ?」
「ん、何をだい?」
「死ぬのって、怖いチャオ?」
「……」
蝉は、少し間をおいた後、答えました。
「うん、怖いよ」
「そうチャオか……」
「うん。君だって、死ぬのは怖いだろう?」
蝉はそう言った後、慌てて言葉を付け加えました。
「ごめん。僕とは違って、君はこれからまだまだ生きていくんだ。縁起でもないことは言ってはいけないよね」
「いや、そうでもないチャオ。――ボクももうすぐ、死んでしまうチャオ」
…