プロローグ
―2XXX年。まだ、魔法も世に知れ渡っていなかった頃の事。平和だった世は、ある異能者たちの出現によって大きく変わっていった。
シャーマン・・・彼らはそう呼ばれていた。
世の中は彼らを同じチャオとして受け入れようとはしなかった。
・・・行き場を失ったシャーマン達は、ある答えに辿りついた。
「この世界のチャオが皆シャーマンになってしまえばいい。そうすれば、シャーマンは差別されなくなる・・・」
2200年。節目に当たる年であった。
七つのカオスエメラルドを手にした彼らは、事を起こした。
後に、「全世界チャオシャーマン計画」というものである。
彼らの願いは実現し、今では皆が強かれ弱かれ、魔法の素質を持っているようになったという―
クロウ「これが歴史の新しい教科書か・・・またおもしろくもない教科書作りやがって・・・」
―イ・ナイルァ・スゥ・・・
独り言のように呟いたかすかな言葉。
魔旋律だった。
『魔法の歴史』と書かれたその教科書は、ふっと机からはなれると、ゆるやかなクロウの指の動きに合わせて宙を舞い、カバンの中に収まった。
魔旋律。
この世界で、魔法の力を発動するために使う言葉。
言葉それぞれに意味があり、それを組み合わせて魔法とするのだ。
例えば、イ・ナイルァ・スゥなら、舞う・本・宙を組み合わせた魔旋律だ。
魔法学校では、その魔旋律の言葉の意味を主に学習する。
今日は、魔法学校の始業式であった。
と、その時だった。
???「―バレグ・ノース!」
少女の声だった。
その魔旋律が発せられると同時に、少女の胸元から火の玉がクロウめがけて飛んできた。
クロウ「・・・あいつもこりないな・・・」
クロウは、手慣れた様子で魔旋律を唱えた。
―サレフ・クレイ
火の玉がクロウに命中するより先に、クロウは風の盾をを作っていたのだった。
シュッ・・・
クロウが作った盾に当たると同時に、炎は跡形もなく消え去った。
クロウ「・・・迷惑ですけど?」
???「ちょっとした挨拶だよw ・・・怒った?」
クロウ「いいかげん、その挨拶やめろよ・・・つーか、初対面には失礼だぞ、フローラ。」
火の玉を放ったこの少女、どうやらクロウの知り合いのようだ。
名をフローラというらしい。
まだ、体は宙に浮いたままだ。
フローラ「レイラさんは、同じクラスでは?」
クロウ「ん・・・レイラは・・・ほら、窓際でいつものやつ作ってる。」
レイラ「―エヴァウス・ラルク・ヒール・・・」
レイラという名の少女は、魔旋律を唱えると、手から溢れる冷気で彫刻を作っていた。
クロウ「あれが趣味らしい。」
クロウがふぅ・・・とため息をついた時だった。
ドーン・・・
と鈍い音がして、その振動が校舎を襲った。
クロウ「! やばい、崩れるぞ! レイラ、フローラ、魔旋律だ!」
レイラ「マジか? ・・・わかった。」
―イ・マイル・スゥ・・・
ふっ・・・っと体を宙に浮かせると、三人は風を切って飛びはじめた。
皆、一斉に逃げ出した。
宙を飛んでいる者から、走っているものから。
その時だった。
刺客「逃がしはしない。―バレグ・フォン・ヒアム・・・」
突然、刺客と思われるチャオが魔旋律を放ち、生徒を攻撃し始めた。
淡く輝く水龍だった。
水龍は、逃げ始めた生徒に襲い掛かった。
フローラは直感した。
フローラ「早く逃げないと・・・あの人、相当の魔術師です! この水龍・・・並の強さじゃありませんよ!」
レイラ「水龍・・・ふっ、おもしろいじゃん・・・ 相手してやるよ。」
レイラは、ふと飛ぶのをやめた。
クロウ「やめろ! レイラ、死ぬ気か!」
レイラ「死んだらそれまでの命さ。 それに、今の私の腕を試すのにちょうどいい。・・・かかっておいで、水龍。」
ところどころ赤く染まっている廊下で、レイラは一人立っていた。
クロウ「レイラーーーーー!」