Act.1 鳴動
どこかから、声が聞こえる———
『・・・い・・・せ・・・』
最初は不明瞭ではあるが、徐々に大きく、そしてはっきりと———
『・・・おもい・・だせ・・・』
声の質からして、どうやら若い女性のものらしいが———
『思い出せ・・・!!』
その声の持ち主の姿が見えそうになったその瞬間———
目が覚めた。
【REMEMBER!![リメンバー!!]】Act1.鳴動
「・・・夢、か・・・」
それにしても妙な夢だとは思う。
普通、夢なんて朝起きて昼には忘れているものだが、午後の授業になっても頭にしがみついて離れない。
いやとんでもない内容の夢ならば覚えているかも知れないが、こんな不明瞭な夢を覚えているなど普通はありえない。
・・・彼の名は神凪誠一[かみなぎ・せいいち]、17歳。高校2年生。
【先生】「神凪!何ボーっとしてんだ!」
そこに先生からの怒鳴り声が飛ぶ。現代国語の名物教師、怒らせたら大変だ。
【神凪】「す、すいません・・・」
ここは平謝りするしかない。
その日の帰りも、彼はそのことばかりを考えていた。
【神凪】「思い出せって・・・何を・・・」
「おい、お前今日どうしたんだよ?」
と声をかけるのは、彼の友人、森下と富永の2人。
【富永】「あの現国の授業でボケっとするなんて、富士の樹海で飛び降りるのと一緒だぞ。」
【森下】「おい、富士の樹海でどうやって飛び降りるっつーんだよ。あそこ崖じゃねぇぞ。」
【富永】「あれ、そうだっけ?」
余談ではあるが富士の樹海は深い森だからこそ自殺者が絶えないのである。崖はない。
【神凪】「わ、悪ぃな・・・ちょっと色々あって。スマン、今日は先帰るわ。」
【森下】「お、おう。何か知らんが、気をつけろよ!」
【神凪】「ああ!じゃあな!」
そう言うと、神凪は逃げるようにして友達のところから離れた。
・・・友達と一緒に帰るとか、そういう気分ではなかった。
12月もいよいよ差し迫ったこんな日は、走ると冷たい風が当たって余計寒い。
神凪は唇を噛みながら、自分の家へ駆け込んだ。
【神凪】(こんな日は部屋でゴロゴロするに限る・・・!)
・・・が、運命はそうはさせてくれなかった。というより、ここから彼の運命は大きく狂った。
家へ駆け込みただいまの挨拶も軽く済ませ階段を駆け上がり自分の部屋に飛び込む・・・ここまでは良かったが。
次の瞬間、自分の部屋の入り口で彼は呆然と立ち止まった。
そこで見たのは、おおよそあり得ない光景である。
・・・見たこともない少女が、自分の部屋を漁っている。
本棚を片っ端から覗いた後、TVラックの下に目を移し、そこに右手を伸ばそうとする。
思わず、神凪は声をあげた。
【神凪】「・・・は?」
するとその少女はこちらに気づき、クルリを向きを変えた。そして。
【少女】「・・・あ゛。」
どうやら自分でもマズイ事をしているということは自覚しているらしい。
次の瞬間、左手に持っていた本をサッと捨ててその場を立ち上がり、逃げようとした・・・が、神凪が捕まえる方が早かった。
【神凪】「悪いけど今日の俺は黙って見過ごす気分じゃねぇんだよ・・・」
【神凪】「・・・まぁ色々言いたいことはあるが・・・単刀直入に目的は何だ?」
するとその少女は、悪びれた様子もなく。
【少女】「あ、事情聴取?てっきり襲うのかと。
・・・んー、信じてくれんのかなー。まー信じちゃくれないだろうからコソコソやってたんだけど。」
【神凪】「いや、見知らぬ人がこの部屋にいる時点で信じられねぇから。」
神凪の母親は特にパート等をしている訳ではないので基本的に平日の昼間は家にいる。不審者云々が騒がしいこのご時世、誰かが無断侵入して気づかないはずがない。
【少女】「んー、そうか。」
彼女は諦めたように、まずブッ飛んだ一言。
【少女】「・・・こう見えてもあたし、一応神様なのよねぇ。」
【神凪】「・・・はい?」
少しの沈黙の後、
【神凪】「神様って・・・神様仏様の神様?」
【少女】「うん。だからこーいうとこにも入り放題。
・・・だから言ったでしょ?信じちゃくれないだろうって。」
そう言って怪訝そうな目つきで神凪を見る。
【神凪】「あー分かったよ、神様なんだろ神様!で、その神様が俺の部屋に何の用?
あれか?俺の名字が『神凪』だから神様の親戚だとかそーいう類か?あ?」
既に神凪は半分ヤケクソだ。どんどんまくし立てる。
【神凪】「んでベタな漫画だとその後俺のおかんが『実はウチは・・・』とか言い出して俺が世直しの旅に出るか訳分かんねぇ敵と激烈バトルを繰り広げるかどっちかだがどっちだ!?」
・・・数秒沈黙。その後。
【少女】「んー、100点満点の30点。」
【神凪】「なんだよ30点って。」
【少女】「ぶっちゃけると、悪い敵と戦ってくれる勇者様捜してます、って感じ?別にアンタじゃなくてもいいんだけどね。候補者探しみたいな?」
【神凪】「は、はぁ・・・」
そこで神凪は少し考えた後、
【神凪】「分かった、とりあえず話だけは聞いてやるから話せ。」
【少女】「あいよー。」
<続く>